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エピローグ

「すっかりシュルクも直りましたね」

 下からそう声を掛けられて、ジャンは車体の上から下を見下ろす。

 そこにはファルジアの姿があった。

「砲塔ごっそり取り換えたからな。いつでも戦場にもってけるぞ」

 その間にも、ファルジアは車体側面の梯子を上って、車体の上へとあがって来た。

「しかし、その割にはまだ何かやってるんですか?」

 そう言って、ファルジアはシュルクの砲塔をまじまじと見る。

 砲塔の周りには真新しい鉄板が張ってあり、砲塔はいつの間にか共和国軍特有の流線型ではなく、公国軍の様なごつごつとした見た目になっていた。

「まあな。敵の弾が簡単に貫通する重戦車なんざ意味がねえから、補強してんだ」

 そう言って、ジャンは持っていた溶接機の火を消していた。

「車体の方もだいぶ鉄板張ってましたけど、これじゃジャンの言う戦車の武器であるスピードが落ちませんか?」

「そりゃあな。けどいいのさ。俺がどう考えようと、この戦車の作られた目的は高速で走り回る事じゃねえ。とことん歩兵を守ることが目的なら、そう特化させてやってんだ」

 その様子を見て、ファルジアは感心したように頷く。

「変わりましたね。自分の機甲論を捨てたのですか?」

「バカ言うな。俺の機甲論は間違ってねえよ。―――けど、組織の中で一人違った方を向いてちゃ、そいつが正しくたって組織は成立しないからな」

 そう言うと、ジャンはごつくなった砲塔に寄りかかる。

「俺がこの戦車に乗る以上、古い機甲論を守らなきゃいけねえのさ。それが、この戦車の正しい使い方だからな。だから、俺の機甲論を通す時は、新しい戦車を作る時だ」

「それが、ジャンのやりたい事ですか」

 ファルジアがそう言うと、ジャンは笑っていた。

「ま、そんなとこだ。ハンナじゃねえけど、俺も自分の機甲論の実現方法を見つけたよ」

「そう言えば、ハンナさんはどうしました?」

「うちに居候してるよ。最近は親父とコソコソなんか企んでるみたいだけどな」

「将軍とですか?」

「元将軍だよ。今はただの老いぼれじじいさ」

 そう言うと、ジャンは胸ポケットから出した煙草に火をつけていた。

「それより、今日配属だろう? うちの部隊の新しい隊長さんは」

「そうでしたね。その人がジャンの戦車の車長になるんですよね」

「ああ。けど、今度は騎兵出身が良いなぁ。歩兵出身は馬が合わなくてなぁ」

「んん? それは私を暗に虐げてますか・・・・・・?」

 表情を強張らせたファルジアに、ジャンはむせて煙草の煙をごほごほと吹きだしていた。

「そ、そう言う意味じゃねえ。けど、ほら、歩兵中心に考える奴らは好かないっていうか・・・・・・」

「そりゃあ、この国の考え方がそうだから仕方ないでしょう。そもそもジャンは、さっき組織の方針に合わせるみたいな事言ってたじゃありませんか!」

「ああ、いや、それは建て前みたいなもんで・・・・・・。いや、やっぱ歩兵苦手かも」

「何ですと! 私はジャンを戦友だと思っていましたが見そこないましたよ!」

「ああ、冗談。冗談だって」

 二人が車上でごちゃごちゃ喋っていると、下から歩兵が声を上げる。

「隊長代理! 新しい小隊長殿がいらっしゃいました!」

 それに、ファルジアは慌てて応じる。

「ああ、わかった。すぐ行く」

 すると、二人は揃ってシュルクを降りていた。

「それで、小隊長殿はどこに?」

「とりあえず宿舎のお部屋にご案内しておきました」

「では、行きましょうジャン。騎兵出身だと良いですねぇー」

 それを聞いて、呼びに来た兵は首をかしげていた。

ジャンの部隊はほぼ歩兵なのだ。もし、歩兵が嫌いだと伝わり、歩兵たちに睨まれなんかしたら、それこそ居心地が悪くなるに決まっている。

「ね、根に持つんじゃねえよ・・・・・・」

 ジャンは兵に愛想笑いを浮かべて、その場を後にする。

二人はそろって基地の部隊宿舎へと向かった。

 小隊長のいると言う宿舎へと入ると、ファルジアは共同キッチンでポットを取り出す。

「では、お茶を沸かしてから行きます。先に挨拶しておいてください」

 そう言われたので、ジャンは煙草をキッチンの洗い場に捨てると、小隊長の部屋へと入る。

 そこには、物珍しそうにあたりをきょろきょろする小さな後ろ姿があった。

「なんだ? 隊長室ってとこは初めてなのか?」

 小馬鹿にしたように、そう声をかけてみる。

 しかし、ジャンはその後ろ姿に見覚えがあった。

 男子にしては華奢な片幅と、小さな体。そして、肩までの男にしては長めの髪。

 そして、こちらを振り返ったその人物の顔は、案の定、ジャンの見覚えのあるものだった。

「は、ハンナッ!」

 そう言われて、その少女はぱあっと顔を輝かせていた。

「ジャンっ!」

 しかし、そこで遅れて紅茶をお盆に乗せたファルジアが部屋に入ってくる。

「おお。これはこれは、可愛らしい小隊長殿ですね。どうぞこちらに」

 そう言って、ファルジアは執務机のソファにハンナを勧める。

 そして、ハンナがちょこんと腰かけると、ファルジアも向かいに座って紅茶を差し出していた。

「小隊長は初めてですか? 部隊指揮のご経験は?」

「いやぁ、それがさっぱりで」

「ははぁ、そうですかー。それは不安ですねー」

「って、意味分かんねえよ! っていうか、気がつけよファルジア!」

 そう言って、ジャンが慌ててファルジアの身体を揺する。

「ハンナだぞハンナ! お前会ってるだろうが!」

「分かってますよ。ちょっとした冗談です」

「なんだ。冗談か・・・・・・。だよな、ハンナが小隊長な訳ないか」

「いえ、それは本当ですよ」

「何だとっ?」

「まあ、そう興奮せずに。とりあえず座ってください」

 ファルジアに勧められるまま、ジャンはファルジアの隣に腰掛ける。

「お前のやりたい事って、こういう事だったのか・・・・・・?」

 唖然とするジャンの言葉に、ハンナは気恥かしそうに応えていた。

「うん。僕、ジャン達と一緒に戦ってて気がついたんだ」

「まさか大砲撃ちたい、とかじゃねえだろうな・・・・・・」

「もう僕をなんだと思ってるのさ! そうじゃなくて、その、もしも僕がここにいなかったらどうなってただろうって思って・・・・・・」

「いなかったら?」

「うん。そしたら、たぶんジャンもファルジアさん達も無事だったのかなって。けど、そんなこと考えたって、いつ死んじゃってもおかしくないんだよね。今は戦争なんだから」

 その言葉に、ジャンもファルジアも黙っていた。

「けど、僕が知らない間に二人が死んじゃったら、絶対悔しいと思う。だって、僕がいたら何か出来たかもって思っちゃうから。だったら、せめてジャンやファルジアさんと戦って、それで死んじゃったら諦めもつくのかなって」

「だから、お前は俺達と同じ所に来たのか?」

「うん。僕が今やりたい事は、みんなを守る事。戦争が終わってから、次にやりたい事は考えれば良いかなって」

 真っ直ぐなハンナの瞳を見て、ジャンもやれやれと肩をすくめていた。

「しかし、どうやって小隊長になったんだ? お前、何の経験もないただの田舎者だろう?」

「えへへっ。実はジャンのお父さんに手伝ってもらったんだよね」

「ああ? 親父にか? そう言えば、二人でなんかやってるとは思ってたが・・・・・・。だが、うちの親父には、今や権力も何もねえだろう?」

「なに言ってるのさ。じゃあ、何でジャンはここに居れてると思ってるの?」

 その言葉に、ジャンは首をかしげていた。

「そりゃあ、俺は軍人だからだよ。まあ、士官学校は出てねえけど」

「そうじゃなくて、そもそもこの国の軍隊と違う考えを持つジャンが、なんで波風立たずにここにいれてるのさ」

「ん? まあ、言われてみりゃあ・・・・・・」

 ジャンの一族の語る機甲主兵論は、共和国では異端視されている。当然、そんな奴が部下としていれば、どんな上司だって嫌がりそうなものだ。

「まさか、親父が手をまわしてたのか?」

「そうだよ。ジャンの上司の人が元部下の人なんだって。だから、ジャンの周りにはわざわざ機甲主兵論を悪く思わない人を配属してるらしいよ」

 言われて、ジャンはファルジアを振り返った。

「まさかお前もそうだったのか?」

「ええ。戦車が戦争してくれれば、我々歩兵は楽が出来ますからね」

 そう言って、ファルジアは紅茶を啜っていた。

「けど、本当の事を言うと、私はこの通り歩兵しか出来ないバカですから。戦車が歩兵の代わりになると分かっていても、戦車は操れません。だから、せめてジャンの手伝いぐらいは、ね」

 その言葉を聞いて、ジャンはため息をついていた。

「俺の周りは、最初から味方だらけだった訳かよ・・・・・・」

 彼はそう言うと、脱力したようにソファにもたれ掛かる。

「何を悩んでたんだろうな。俺は・・・・・・」

「そもそも悩む必要なんてなかったんじゃないの?」

 ハンナのその言葉に、ジャンは顔を上げる。

「―――ジャンが良ければ、それで良いんだよ」

 それは、だいぶ前にジャンがハンナに言った言葉。

それを聞いて、ジャンはやれやれと肩をすくめて胸ポケットから煙草を取り出していた。

「そうだな。じゃあ、みんなで実現させるか。―――俺達の機甲主兵論って奴を」

 そう言って、ジャンは咥えた煙草に火をつける。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


ボクっ娘と戦車を絡めて書きたいと言う欲望だけで書いて来た作品ですが、他の作品に比べて意外にも戦車戦が多い気がします。

なんか書きあげたら大好きなキャラがいっぱい詰まった作品でした。

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