おみやげ
ぽとりと、潔く落ちる橙色の小さな花は、樹木から離れてなお芳しく香り続ける。
落ちてくる花に気づいた男の子は、その匂いに惹かれて近づいていく。その一つを手に取り、すんと匂いを嗅いでみた。
「いい匂い」
男の子はズボンのポケットからハンカチを出して広げ、丁寧に一つづつ花を拾って夢中でその上に乗せていった。四十とも五十とも分からない程、たくさん。
母の喜ぶ顔を想い描きながら、一心に。
ハンカチに包みきれない程の花を両手に抱え、背中のカバンをカタカタ鳴らせながら家路を辿る。
「お母さん、よろこんでくれるかなぁ」
黄色い帽子とランドセルカバー。背の低い順に並ぶと一番前。未だにランドセルが歩いているみたいと、両親に笑われる。大きめのズボンから、にょきっと生えた小さな足を精一杯動かし家路を目指す。
ただいまと玄関ドアを開けると、お帰りとハツラツとした声が聞こえてきた。
「ほら、お母さん。おみやげだよ」
ずっと零れ落ちないように優しく閉じていた両手を、母の目の前でゆっくりと開いた。
まばゆいオレンジ色と、金木犀の香りが部屋全体に広がっていく。
「まあ、こんなに沢山。ありがとうね」
母は我が子を思いきり抱きしめた。
この後、硝子のお皿に金木犀の花を入れ、玄関に飾ります。
*
長女が幼い頃、金木犀の花を持って帰って来た事があって
「ぎゃ~! 今すぐ捨ててきて!!」
と言った事があります。匂いが苦手で、余りに強い匂いは頭痛がしてくるんですよねぇ……。長女には可哀想な事をしたなと思いますが、こればっかりは…ね…