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バカとアホの放課後

取り敢えず一話だけ投稿、次はいつになるやら

日差しは沈み始め、晩夏の夕暮れは肌寒さを帯びてきており、夕暮れは眼下の長く緩やかな坂をオレンジ色と藍色のグラデーションで染めている。半袖のワイシャツから露出する二の腕に寒気を感じ、夏の終わりを感じさせた

何も無い放課後、刺激の無い日常、近くの高校を選んだが故に通学路すらも慣れ親しんだものだ

今下っている坂も良く自転車で下ったものだ、坂が適度に緩やかな自動車通行の少ない道


「そういや日野よぅ、今日は野球部はないのかよ」


隣で高校二年生にしては長身の柴田が言う

幼馴染では無いが中学からの縁で親しくしている一人だ


「顧問の親戚が死んだそうで自主錬」


肩の荷であるエナメルバックの中身の大半は無駄になってしまった、強豪でもなんでもなく三回戦目まで駒を進められれば御の字と言うくらいの野球部、監督などいない我が野球部では顧問がいないのならば自主錬が通例だ

そして本来なら部活をしているはずの五時現在俺は帰り道にいた


「不良選手め」


柴田が毒づく、人の不幸を蜜の味として良い訳はないが降って沸いた休日は嬉しかった

部活と言えばこいつも


「お前こそ水泳部は?」


あぁ?と口癖を間において、答えは来た


「秋は屋内でシコシコ筋トレだよ、だるいからパス」


十秒前の自分の台詞を悪びれもせずに堂々とサボタージュ宣言をしてきた、しかもしれっと

俺に言ったくせに……


「不良選手め」


「俺が二番手なかぎり適当にやる」


むん、と鼻から息を吐き出し彼は尊大と言う文字を顔に貼り付けた

確かにそこそこの選手が集まる水泳部で三年を含めて柴田は二番手だった、県大会で五位や四位など字面にしてみればパッとしない順位ではあるが、それでも柴田はそれなりの水泳選手となる、が


「デブだから浮くだけだろ」


ぐいっと柴田の腹の辺りを押すとむにょんと柔らかな感触が返ってくる

彼は太っていた、合宿に行こうと、夏は毎日泳いでいようと、県大会で好成績だろうとなんだろうと彼は痩せなかった

マネージャーが一番親しい俺に相談に来たくらいだ、どうすれば痩せるんでしょう、と


「その通り、だからジュース買っていいか」


柴田の指は行く先の坂の中ほどにある自動販売機を指していた


「そんなんだから……」


そしていつも通り「奢って」「やだ」のくだりがあり

刺激物博士、という身体に悪そうな味で身体に悪い糖分濃度の飲み物のボタンの前で指が止まる、止まりボタンを押すことも無い


「早く買えよ」


「おいお前、あれ・・・」


柴田の指がゆっくりと動き俺の後ろを指す、指差す先には、ゆっくりと動き出す引越し用のトラックの姿があった、運転手の姿は…ない


「なんていうかとっても危なくない?」


今いるのは坂の中腹だ、夕日をバックにトラックは動き始めていて


「そうだな」


同意する、とても危ない


「「どうすっか」」


ふーーむと二人して悩む、そしてすぐさま結果は出た


「「どうすっかじゃねぇよ!!」」


落ち着いている場合ではない


「どうする!!」


早口で問う柴田


「下の民家に知らせる」


一次被害よりも二次被害を減らすべく二人して荷物を道に放り捨て、走り出す


「今更だけどよ、止めるか?」


柴田が問う、それは巨体から来る案なのだろうが…

物体が坂を下るとき速さはまさに加速度的にあがる、つまりこれからどんどん早くなっていく訳で

車に乗ってブレーキを踏もうにもハリウッド映画よろしく車に飛び乗らなくてはいけない、それよりも事故の被害を軽減するほうが肝要だ


「無理だ、馬鹿!!それよりもあれだよ!!」


鉄の塊を人二人でどうにかできるはずも無い

鈍足故に少し遅れ始めた柴田を横目で見ながら指を刺すのは、坂の延長線上にあるT字路に止まっている白い乗用車だ


「あれって?」


「寝てんじゃねえの?あれ」


男がいたが雑誌を被って寝るという現実ではあまり見ないスタイルで昼寝をしていた

ここからでも大口を開けて寝ているのが分かる


「こんなとこで昼寝すんなよーぅ」


暢気に柴田は言うが走る足に力は篭る

更に必死に駆け出す、坂道をノンブレーキで駆け下りるなんていつ振りだろうか

そして、何か出来ることは無いかそう考えると


「おい!!ポケットでジャラジャラ言ってる小銭投げてみろよ」


走りを押さえて柴田の横に並ぶ


「え・・・巾着なんだけど・・・」


ポケットから取り出した巾着は丸々と太っていた、躊躇する気持ちもわかるが


「そんくらいくれるさ!!」


きっと助かった人がくれるだろう

俺は上げないだろうけど


「二代目銭形警部は僕だぜコンチクショー!!」


柴田の水泳で鍛えた無駄に太い腕が唸る

そして巾着は緩い放物線を描き


「窓おもっくそ割る奴があるか、ばああああか」


金属の塊である小銭だらけの巾着は窓へと突っ込み、大きな破砕音と共に窓を割る

ぐえぇ、と運転手が唸り、がくりと力なくうな垂れた


「必殺仕事人に小銭で戦うやつ居なかったっけ?必殺仕事人おひねりの柴!!」


半泣きで必殺ポーズを走りながらとるが


「ギャグ言ってる場合かああああ!!どうしよう見捨てても良くね?」


俺の予定としては扉に巾着を当てれば音で運転手が起きると思ったのだ、しかし予定は大きくずれ、窓ガラスにぶつかり、柴田の大きな慣性力で巾着はまどをぶち破り、運転手の元まで届いたのだ、大きな威力を持って


「事故が俺のおひねりボンバーのせいと思わせたらどうすんだ」


「他人事かな」


そうはいっても見捨てられるわけも無く一緒に走り続ける、最悪こいつなら友人を売って自分の刑を軽くしそうだ


「「ぐうえ」」


二人して加速を殺すことなく思いっきりバンに体当たりをぶちかましヒキガエルのようにうめく、最初に俺がバンにぶつかり、次に柴田がぶつかった

ぶつかった際に嫌な快音が自分の中に響いた

柴田は暢気に痛てぇと口にしながらすぐさま立ち上がっていたがいたが俺はそれどころじゃなかった


「ぐおおおおお」


アスファルトの上で悶絶する


「え、なにしてんの」


心配と言うよりも疑惑の目で俺を見ながら運転席の扉を開ける柴田


「脱臼した、足も挫いた、クッソ野球部だぜ俺、引きずり出せ、引きずり出せ生きてりゃ良いだろ」


ズルズルと体重を車に預けながら立ち上がる、脱臼と比べ捻挫のほうは大したことがないらしい

脱臼と比べてだから、良く分からないけど

そもそも脱臼かも分からない、ただ痛い、熱いという重い感覚が肩にのしかかっていて腕が動かないのだ

しかし痛めたのが左腕だったのが幸いか


「一人戦力外かよ、重い痩せろよ畜生、お前のために言ってんだ」


「オメーが言うな」


柴田が扉を開けてズルズルと運転手の背広を掴んで被害の無いであろう位置まで運んでいる

途中ビリッと音がしたが気にしない、命のほうが大切だろう

まだ時間的に余裕はあり、巾着回収するか、そう思い運転席に侵入する運転席には窓ガラスが散乱していたガラス片に注意しつつ進入する、会社帰りか鞄が助手席においてある、『ついでだ』そう思い助手席に入る、すると後部座席にチャイルドシートがあり、そして自分の身体は勝手に動いた

そこには当然のごとく子供がいた、一歳ほどの男の子で、すやすやと寝息を立てている

助けなくちゃ、とそう思うと身体は動いていた

ガラスを踏み割りつつ運転席から後部座席に移動するが


「く」


子供の安全性のためかチャイルドシートのシートベルト片手ではなかなか外れない、そもそも外し方すら分からない。焦れば焦るほどにドツボに嵌り、痛みで鈍った身体は簡易なはずのシートベルトの留め具が難問の知恵の輪のように思えた


「外れた」


外れたと共に赤子を抱き上げる、脇に抱える形だ、泣き声は無い、唖然としているようだ

しかし時間が掛かりすぎた、外れたには外れたが窓の外にはトラックが迫っている

後部座席用のドアは家の塀で埋まっていて通るには狭い、そして助手席を通るうちにトラックは1到達する、車から出るのにも子供を助けるのも間に合わない、

俺は中途半端でいつも終わるのだろうか

そう思ったとき

フロントガラス越しに巨体の男が飛ぶのが見えて


「うおおおおおおおおお」


フロントガラスを踏み蹴り、蹴り破り柴田がダイナミックに入車した

その際にガラスが飛び散り男の子を庇った背中や首筋を叩く、ちくちくとした痛みが来るが問題は無い


「ヘイパス」


バスケットボールのように柴田が手を伸ばす

素直に柴田がいるのは助手席でまだ逃げられる、そう判断し赤子を預ける


「ヘイパーース」


柴田は逃げずにアンダースローで赤子を自分が入ってきたフロントガラスの穴から外へと投げた


「馬鹿あああああああああああああああ!!」


男の子は放物線を描き滑らかに飛ぶ、飛んでいる瞬間こいつ馬鹿だ、そう確信した、地面はアスファルトであり打ち所が悪ければ死んでしまう、打ち所が悪くなかろうと一歳児ならば骨折だ

しかし幸いなことにアスファルトではなく父親であろう運転手の男の上に落ちた、地面よりはまだマシだろう

投げ終わると同時に、どさりと助手席へと柴田が倒れる

何故逃げなかったそう問い詰めるために顔を向けると

助手席に倒れる柴田の足からはだくだくと大量の血が流れ出ていた、太い足を尖ったガラスが貫いている


「く……赤子投げの柴」


脂汗を滲ませながらまた弱弱しく必殺ポーズを決める

人生で最大の痛みに覆われているのだろう、身じろぎ一つにもうめき声が聞こえる


「ばーか、もう間に合わないぞ」


「いやぁ身体が勝手に動いててな、今後悔してる」


声からは余裕が無く死への恐怖か、痛みによるものか俺には判別がつかなかった

おれ自身も死への恐怖で歯が音を立てる


「カッコイー」


あぁあぁああああと子供の泣き声が聞こえる、少なくとも大声を出して泣く程度には無事らしい


「「ふぅ」」


死ぬのかぁ、俺たちは、多分心残りはたくさんある、青春真っ盛りの高校二年生である

恋もセックスも出来ず、これからの人生も味わえないのだ

二人して坂側を見るとガガガガガガと音を立てトラックは突っ込んでくる


「「男と心中はいやああああああああああああああ」」


気を紛らわせるための最後の言葉は見苦しかった


まだデブが本性出してませんね

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