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7thWorld  作者: 池沼鯰
4/10

第4話 クランマスター


 通信機から聞こえて来たのは女性の声だった。


『あ、カジナ~? ようやく反応ありか。今どこー?』

「えっと、誰?」

『クランマスターの(コン)だよ、棔』


 唐突かも知れないが、ICFのゲームではオレはサブマスターをやっていた。「無色の虹」と言う名のクランだ。

 マスター含めクランメンバーと文字チャットでやり取りをしていたが、実際の声を聞くのは初めてだった。だから、分からなくても仕方ない。仕方ないんだ!


『で。今どこよ?』

「んーと、アデレイドの冒険者ギルドだけど」

『受付のところ?』

「う、うん」

『そっか、腕輪を再発行したばっかりか。……って今まで何してたの!? バカなの? 死ぬの?』

「な、なんでそんな扱い!? 何もしてな……」

『ッカじゃない!? 何もしてないのが問題なのよ! そもそも初日に……うぁ~、もう言いたいことたくさん有り過ぎて増えるワカメを箱ごと味噌汁に入れた感じだわ~。ないわー。もう良いから、ちょっと待ってなさい。迎えに行くから!』

「え? あ、へっ?」


 プツン。ツーツー。

 そんな音は聞こえてこないけど、心情的に補完された。


「えっと……お仲間ですか?」


 サシャが恐る恐る尋ねて来た。首を縦に振って肯定する。


「同じクランの、まとめ役の人でね。オレは補佐ってところかな? まあ、良い様に使われてただけな気もするんだけど」


 そう説明している間に、何やら外で騒音が発生していた。

 ドドドドド、ダダンッ、ダンッ。

 何か重量級のモノが、ギルドの建物の入り口に停まった気配がする。

 ガチャダンッッ!! ガラン、カラカラコロロロ……ッ

 扉が非常に強い力で押し開かれ、蝶番が曲がって悲惨なことになった。上部についていたベルは外れて床に転がり、無惨な姿を晒している。


「カジナッ!!」

「ひゃ、ひゃい!?」


 ソレをしたのは、20歳代の女性。服装は冒険者風、結構高レベルでなければ着用出来ない制限装備に見覚えがある。ミスリル銀をふんだんに使いつつ、外見にかなり気を配ったタイプの軽装であり、確かギルマスのコンさんが愛用していたような。


「付いてらっしゃい!」

「え、えっと。ハ、ハイ」

「……ッ! ちょ、ちょっとお待ち下さい! ドアを弁償されないと……ッ!」


 推定コンさんが、受付嬢の勇気ある言葉に眉を顰める。扉の残骸を一瞥し、溜め息を吐いて懐の袋から金貨を10枚出して受付嬢に手渡した。


「余った残りは手間賃であげるから、後処理も任せて良いかしら?」

「は、はい!」


 確定。完全にコンさんだ。普通過ぎて印象が薄い顔なのだが、この言動、この行動、間違いない。うちのクランのマスターだ。

 正式名称コンさんは、受付嬢に対しにっこりと笑う。そして素早くオレの腕を引っ張り、建物を出るよう急かされた。

 サシャがそれにハッとして反応し、オレのマントの端を握りしめて「私も同行します!」と叫んだ。

 コンさんがサシャをジト目で見、続いてオレを訝しげに眺める。


「もしかして、カジナの彼女?」

「あ、はっはー。まあその、何て言うか?」


 背中を冷たい汗が流れた。


「彼女じゃありません! 貰ってくれると言う約束ですから、婚約者です! どちらかと言うと…つ、妻ですッ」


 真っ赤になって恥ずかしがるくらいなら言わなければ良いのに。でも、そこが可愛いんだけどな!


「ふぅん? そう言えばカジナ、あんた『好色』持ってたわよね?」

「はいィ!?」

「そんなにビクつかなくても、私はあんたのモトカノでも何でもないんだから……。プレイヤーは結構『好色』持ち多かったからね、それに関わるトラブルがこっちに来てから絶えないのよ。元はシナリオ分岐でフラグが立ち易いからって理由で特徴取ってる人が多いらしいけど、こうなると厄介よね」

「プ、プレイヤー……もしかして、貴女もプレイヤー…様ですか?」

「まあね。私は棔。『無色の虹』のクランマスターをしているわ。漢字の読みから、ネムとも呼ばれることがあるけど……どっちでも良いわ」

「あ。わ、私はサシャです! コンさん、よろしくお願いします!」


 サシャがコンさんに頭を下げた。姑みたいな雰囲気になってきたぞ。


「ともかく、移動するわよ」

「はい」

「分かりました」


 コンさんに右腕を引っ張られるオレは連行されるような形になり、オレのマントを掴んだサシャは早足で付いて来る。

 ギルドの建物から少し離れた広場に到着し、コンさんは呪文を唱えた。


「彼の地と一時(ひととき)空間を繋げよ……【ワープ・ゲート】オープン!」


 離れた場所へも一瞬で移動出来る高位の空間魔法だ。セカンドジョブ以降のなんちゃって魔法使い程度では使えない、高度なスキルである。コンさんはこう見えて、ファーストジョブが魔術師系統の大魔導士(ハイウィザード)だ。まあ、魔法は補助で、物理で殴るタイプだけどな!

 低めの位置に直径3メートルほどの黒い円が出現する。ゲームの際は街間移動なんて描写されておらず気にしてなかったけれど、こうして考えてみると便利過ぎるだろう……。

 促されるまま、コンさんに続いてワープ・ゲートへ入って行った。




 移動先は、アデレイドよりも更に発展している都市の広場だった。


「ここは……?」

「王都シドネイよ。ハンターバレー王国の、ね」

「ふーん」

「王都……? ハンターバレー……!? アデレイドからどう考えても2週間以上掛かる場所じゃないですか! さっきの魔法って……え? 宮廷魔術師クラスしか使えない……。ああ、プレイヤー様、でしたっけ……」


 サシャが遠い目をして悟りの境地に入ってる。


「それで、どうしてここに連れて来たの?」

「色々説明してあげたいところだけど、どうせ二度手間になるだろうから要点だけ言うわ。これからプレイヤーの首脳会議を行う。カジナ、貴方も出席してもらうわ」

「え、それって拒否権は……」

「『無色の虹』のサブマスの癖に、この異常事態で連絡も取れない状況に居たのは、100デスペナの刑に処しても問題ないと思うのだけれど?」


 うわぁ、目がマジです。怖いです。これは逆らうのは自殺行為でしょう。


「ともかく、カジナの彼女も連れてきちゃったけど、さすがにプレイヤーじゃない人間を同席させられないし。どこか宿屋でも取って待ってて貰いなさい」

「ふぇい。……あ、そうだ。お金も幾らか渡しておいた方が良いよね? 口座からお金を下ろすのって……」

「ギルドで出来るわよ。冒険者ギルドは、あそこ」

「了解」


 指差された建物へ向かう。サシャとコンさんが後ろから付いて来た。

 窓口で適当に端数を現金化して貰い、サシャに金貨10枚と銀貨40枚を渡した。ついでにお勧めの宿を尋ね、そこへ向かう。『眠る鯨』亭と言う名の宿で、一部屋2名で一泊20S、1週間で120Sにしてくれた。


「それじゃ、行って来るから適当に時間を潰していてくれ」

「はい、あなた。待ってます」


 頬を赤らめながらそんな可愛いことを言ってくれる。思わず額にキスをしてしまった。

 終わった後に、腕を組んで呆れた表情のコンさんと顔を合わせることになってしまい、乾いた笑いが出る。


「ゲーム内では面倒見が良いキャラだったけど、意外と女誑(おんなたら)しだったのね」

「これは、その。アハハハ、何ででしょう? 自然とそんな行動になっちゃってて」


 はぁ、とコンさんが溜め息を吐いた。


「気を付けなさい。好色と言う特徴は、身を滅ぼしかねないわ。普通の交際に文句を付けるつもりはないけれど、女性を軽視するような行動を取るようなら私刑(リンチ)も考えるわよ。既に娼婦を買いまくって20人以上と関係を持ってる、『好色』なプレイヤーが居るわ」

「へ、へえ。そいつは羨ま…けしからん! いやー、いかんですよね? 清く正しい男女交際こそ、あるべき姿!」


 冷や汗を掻きながら、フォローをする。


「カジナは結構そう言ったところ真面目だから、大丈夫だとは思うけどね。一応の注意よ」




 その後、ギルドの一室を借り切った会議室へと向かいながら、軽く情報交換をした。


「一体今まで、どこで何をしてたのよ?」

「実はかくかくしかじかで……」

「略さず説明しなさい! まず、六日前にこの世界で目覚めたと言う点は共通かしら?」

「えっと、うん、そうだね。寝て起きたら、いつの間にかこの世界にこの格好で寝転がっていて、近くに村があったからそこの村長宅に泊まらせて貰ったんだ」

「……はぁ。村ってことは、ギルドの支部もないところで過ごしていたのね。どうしてもっと大きな街へ行こうと思わなかったの?」

「それは、だって。距離も結構あったし、翌日以降に……」

「御馬鹿。あんた魔術師サブで持ってるんでしょ? 【フライト】はどうして使わなかったのよ」

「………………あ」


 【フライト】は時速40kmほどで飛べる中位の魔法だ。なんちゃって魔術師でも使用可能で、徒歩と比べると圧倒的な速さで移動出来る。


「で? その後は?」

「えーっと、ゴブリン退治の依頼をされたから、仕方なく受けて、それから街へ移動して……徒歩でです、すみません。んで、そっから馬車で首都のアデレイドまで……すんません! すんません!」


 持っていた両手杖を上段に構えて、コンさんは思いっ切りオレの頭に振り落とそうとしていた。

 考えてみれば、【フライト】を使っていれば自分一人なら1日目の夜にアデレイドまで行くことも可能な距離なのだ。

 うん、まあ。怒るよね。


「これから会議だし、打ち所が悪くて記憶が飛んだりすると厄介だからこの制裁は保留にしておくけど、馬車馬のように働いて貰うからね!」

「……ハイ」


 凄い剣幕の笑顔でそう言われては、素直に頷くしかない。






 会議室に到着すると、既にオレたち以外は揃っている様子だった。


「まずは、この場に来ていただいたことに感謝を」


 コンさんが仕事モードで、17人の代表とその付き人に挨拶をした。オレはコンさんの付き人扱いで、『無色の虹』からは他にも2人同席していた。外見から察するに、すももちゃんとツァラ氏だ。

 6つの机を六角形の辺のように配置し、代表者3人ずつが机の片側つまり外側に、部屋の中心へ向かって座っており、全員が円状で向き合う格好になっている。


「では情報整理から始めましょう」


 代表者が頷き、会議が始まった。


「今まで入手した情報により、我々プレイヤーは六日前にこの世界の各地で目覚めたらしいと言うことが分っています。異なるデータがある場合は提供をお願いします」


 満場一致で否定はないようだ。


「……イレギュラーは存在していない、として進めさせてもらいます。

 我々は、現実世界のオンラインRPG、InfinityCrystalFantasiaの中でプレイしていたキャラクターデータと相似の存在と推定されます。

 レベルも顔グラフィックも身体能力も同様で、所持アイテムおよび冒険者ギルドへ預けてあるお金とアイテムも保持されてます」


 おう? アイテム……だと……? そう言えば確認してなかったな。


「ゲーム内と違う点があります。

 一つ目は、ギルドの指輪型認証証が個人特定と銀行口座を担っており、初期段階では失われている為、ギルド本部での再発行が必要と言うこと。

 また、個人チャットは腕輪型通信機が必要であり、フレンド登録していない状態では同じクランメンバーのみ可能。やはり初期段階では失われており、これについてはフレンド登録も初期化されています。

 ギルドの銀行口座については、引き出すのは各冒険者ギルド支部で出来、利用は認証水晶球のある大き目の商店ならば可能となってます。金額の大きな取引が多いところは大体置いてありますね。目安は100G(ゴールド)、ゲーム内単位はS(シル)でしたので、それに直すと10,000です。

 アイテムは、ここ冒険者ギルドの総本部でのみ引き出しと預け入れが出来ます」


 な……に……? アイテムは総本部だけだったのかーッ! ってここで良いなら問題ないな。


「特定の街への【ワープ・ゲート】サービスもありません。

 これについては初日から連絡を取り合い、労力を注ぎ込んである程度の移動網を構築出来ています。各クランマスターに取り次ぎ協力を要請、ファーストジョブに魔術師系を持つ高レベルのプレイヤーに連絡を取り、各々【フライト】で大きな街や都市へと移動して貰いました。のちに【テレポート】や【ワープ・ゲート】を駆使して繋ぎ合わせ、各国の主要都市への瞬間移動を可能としました。現状、協力してもらった魔術師とその関係者には主要都市へのゲート・メモリーを設定してもらっている為、今後スムーズにこれを広めることが出来ます」


 ゲート・メモリーってのは、ワープやテレポートのメモ場所って意味になる。オレだとマルナの村、ワイアラの町、アデレイドの都市が該当する。

 ……実はこっそりメモってたのだが、地味なので描写はしてなかった。シドネイについては暇もなかったので未だだ。


「それと、この世界での死亡は一応蘇生魔法で復活させることが出来ます。……条件が付きますが。

 脳の損傷がないこと。死亡から10分以上経っていないこと。

 これは不幸な事故があったことで判明しました。20分以上経ってから死者を蘇らせようとしたところ、蘇生魔法が発動しなかったと。また5分ほど過ぎた場合で蘇生に成功したとも。故に10分と推測されます。現実世界でも10分程度脳に酸素が行かないと障害が残り易いので、恐らくそう間違った認識ではないと思われます。

 それと、こちらの世界の住人にもこのルールは適用されています。蘇生は割と認知されていますが、条件が厳しい為『運が良いと生き返ることもある』程度の認識のようです。

 蘇生した場合のデスペナルティについては、身体がだるく感じると言った自覚症状の様です。ゲーム時代と同じ、経験値1%ロストの可能性があります」


 これは衝撃だった。心のどこかで、もしかするとゲームかも知れないと思っていたこの世界で、死ぬ……?

 本当にゲームだったのならば、復活ポイントで自動蘇生するのだろうけれど、それがない……。改めて、この世界では実際に死の危険があることをジワジワと認識出来てきた。


「現在、この世界にいるプレイヤーは約4万人から5万人ほどと推測されます。

 内訳から、第七サーバーを拠点としていたプレイヤーのようだと解析出来ました。複数のサーバーで活動している人は現実世界で居ましたが、この世界ではほとんど確認出来ていません。その例外条件は、『第七サーバーを主な接続場所にしていた』ことのようです」


 ICFは9つのサーバーに分かれている。それぞれ別世界と言ってよい。

 当初は3つだったのだが、人気が出るに従ってプレイヤー数が増大。負荷が増えた為、分散する意味で移住キャンペーンなども行われた。

 サーバー、或いはワールドと呼ばれるそれは、ニュートラル・ロウ・ケイオスに別れていた。第一がニュートラル、第二がロウ、第三がケイオス。その名の通りコンセプトが違っており、ニュートラルでは中庸なルール設定に、ロウではかなり締め付けの強い法が罷り通っており、ケイオスは逆に無法地帯。それぞれのサーバー/ワールドに配属されていた運営のルーラーも、そのコンセプトに則って世界を調整していた。

 1・4・7がニュートラル、2・5・8がロウ、3・6・9がケイオスで、オレたちが遊んでいたのは第七サーバー/ワールドとなる。

 第七サーバーの最大接続数は、確か7万前後。プレイヤー数が4,5万とするとそれほどおかしくない数字だ。ライトプレイヤー層もいただろうから、それが除外されていたりするとこの数字になるのかも知れない。


「ここまで、宜しいでしょうか?」


 細かい質問がされる。皆の主な興味は、やはり死亡についてだ。

 様々なやり取りがなされ、結局は死の危険をなるべく冒さないこと、常に蘇生魔法をすぐに受けられる状況を構築することが最善だとまとまったようだ。


「それでは、そろそろ本題へ入りましょう。

 3日前、ここから北にある都市ブライズベインが、大量の魔物に襲われ―――――陥落しました」



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