第3話 ゴブリン退治
翌朝。
微妙な視線をサシャから感じるが、何事もなく朝食を終えた。
装備を整え、村長のゼブラ氏に挨拶をしてからゴブリン討伐へと向かう。
……なぜかサシャが着いて来るんだが。
「どうして付いて来るんですか?」
振り向いてちょっと丁寧に尋ねる。
彼女は作ったような笑顔で答えた。
「ゴブリンのいる洞窟への案内をする為です」
「なるほど」
そう言えば場所を詳しく聞いてなかったっけ。
「でも危険な目に遭わせる訳には……」
「戦いにはなるべく巻き込まれないようにします。洞窟の前には見張りがいますが、その近くまで案内したら、終わるまで隠れていますので」
「ううむ」
でもなぁ、万が一があるし。
「それに、ある程度の覚悟は出来てます。それとも、AAAのプレイヤー様でも人一人を守りながらゴブリン退治は難しいですか?」
「そう言われると……まあ、簡単なんだろうけどね」
ちょっと吃驚したみたいだ。
もしかすると、AAAってことは信じてなかったのかも。
「覚悟が出来ているなら重畳。案内してくれ」
サシャは頷くと、先導して村の西へと歩き始めた。
「……いるな」
「いますね」
岩石状の山肌に沿って森の木々は茂っており、洞窟の入り口付近10メートルほどは木や草が払われてちょっとした広場になっていた。
そこにゴブリンが2体、哨戒に立っていた。
ゴブリンの容姿は人の美的感覚からすると醜悪な部類に入り、身長は150cmに満たない。木を粗く削った棍棒を武器に、身に着けているのは布切れ1枚だけだ。
ゴブリンは一応警戒している様子だったが、時々周りを見回す程度で、だらけているのが伺える。
洞窟の入り口から30メートルほどの距離の茂みに、オレたちは隠れて息を潜めていた。
「それじゃ、ここで待っていてくれ」
「……はい」
サシャの返事を聞き、哨戒に立つゴブリンとの距離を詰める。
15メートルほどのところで気付かれない限界と感じ、背中のルーンブレードの留め具を外した。そのまま、ずらすように斜めに剣を引き抜き、頭上に邪魔な物がないすぐ側のところへ移動。
落ちていた小枝を拾って岩肌へ軽く投げつけると共に、音を立てないよう注意しながら強めにジャンプをした。
コンッ
小枝が岩肌へと当たり、乾いた音をさせてゴブリンどもの注意を惹く。
一瞬、2体の視線が音のした方へと向き―――刹那、着地と同時に振るったルーンブレードによって首が落ちる。
1体目の首は直撃した為すぐに落ちたが、2体目の首は数センチほど繋がっており、剣を振って付着した血糊を落とした時にようやく、胴体とともに崩れ落ちた。
位置的に、2体を同時に仕留めるには岩肌を掠るようにしなければならなかった。よって斬撃はギィンッと嫌な音を発生させ、洞窟の入り口を少し欠けさせていた。
ガサリ
音のした方を見ると、やや顔色の悪いサシャが、口元を押さえるようにして茂みから出て来たところだった。さすがに刀傷沙汰を目の当たりにするのは、一介の村娘には刺激が強かったか。
「凄い、ですね」
「大したことない」
実際、大したことをしたワケではなかった。この程度の動きならば、Lv50もあればこなせる。
さて、洞窟の中の残党も始末しなければならない。今は未だ気付かれていないが、わらわら出て来られても困る。
装備している指輪に意識を集中し、マナを集める。大気中のマナに自分の魔力を僅かにブレンドし、魔法を発動させた。この間、僅か0.2秒。
【インフェルノ】
ファイアーボールを魔改造し、詠唱・消費MPともに無し。範囲と威力を増大させている。ちなみに、いくら詠唱時間が無くても最低限の動作や集中はある為、この0.2秒の壁は破れない。仕様と言う奴だ。逆に言うと詠唱もディレイもないスキルは1秒間に5発近く撃てるのだが、消費MPの問題が残る。
地獄の業火と呼ぶに相応しい炎が洞窟内部を蹂躙し、ゴブリンたちの絶叫が聞こえて来た。
グレーターデーモンでさえも恐らく一発で灰にするこの魔法。追加でブリザードストームを洞窟内に3度放って温度を下げたのは、討伐したことを一応確認しなければならないからである。
吹雪が収まった頃に灯りの魔法を使い、サシャを伴って内部へと入って行った。
結論、消し炭。焼け残った骨だけが、彼らの存在を示していた。
多分居たであろうゴブリンキングの武器らしい鋼鉄の剣は、少し融けて岩肌にくっ付いてしまい、取れなかった。
いやまあ、無理すれば欠けた状態で回収は出来るのだろうけれど、そこまでする価値はないから視認して終わりとしたのだ。
吹雪で温度は下げたつもりだったが、長居をするとサシャの靴の革部分から焦げたような異臭がして来たので、数を確認して退散する。
見張りと合わせ、数は18体。言われていた数よりちょっと少ないな。
念のため洞窟の入り口で待つことにし、持って来ていた昼飯をサシャが広げる。パンに肉と野菜を挟んだ簡単なものだったが、サウザンなんちゃらと言うソースは良く合っていてなかなかの味だった。
昼過ぎに、狩りに出かけていたであろうゴブリン5体が、奇声を挙げながら攻撃して来た。
サシャは座らせていたがオレは立った状態だった為、迎撃に問題はない。ブリザードストーム一発で終わった。
「これで終わりで良いかな?」
「ええ、恐らくは……。それにしても、本当にお強いんですね」
何やらキラキラした目でこちらを見て来る。一般人からすれば、オレは英雄―――を軽く超えた超人ってことか。
これが現実なら、割と好みなタイプのサシャの面倒を見てあげるのも吝かではないんだが……。いかんいかん、どうも思考が『好色』に引っ張られている気がする。
夕方前にマルナの村へと戻り、討伐完了をサシャの太鼓判付きで報告した。
村長のゼブラ氏から、銀貨80枚を受け取る。これでとりあえず一文無しじゃなくなったワケだ。
夕食時にサシャから町までの案内を提案された。ギルドの指輪の再発行が必要なので、首都アデレイドまでとなる。
ワイアラの町へは徒歩で丸一日、明日早く出発すれば夕刻頃到着するだろうとのこと。町で一泊し、週に2回ほど出ている乗り合い馬車で4、5日ほど掛けてアデレイドまで行くことになった。話によると明後日がその定期便の日らしい。その前の便は昨日だとか。
馬車の速度は人の小走り程度らしいので10km/hくらいか? 1日10時間ほどとしてアデレイドまでは300km~400kmくらいあるのだろう。さすがオーストラリアを元にした世界、無駄にデカイ。
明けて翌日。
村人たちに見送られながら、サシャと共にワイアラの町への道を歩き始めた。
ゼブラ村長に感謝の言葉を言われ、サシャの父親のヤナックさんからは『娘をよろしくお願いします』とか言われてしまった。誤解があるようなので、否定しておいたけど。
さて道中。……気まずい。サシャは少し前を案内するように歩いてくれているが、なんだか近付き難い雰囲気を纏っていた。
「あの……サシャさん?」
思わず丁寧に呼び掛ける。
「………………何でしょう?」
1分ほど置いてから応えてくれた。
「何か、お気に触るようなことをしてしまいましたでしょうか?」
女性の扱いに自信が無い為、下手に出る。
「それは本気で仰っているのですか……?」
蔑むような目でこちらを見て来る。ヤバイ、何かに目覚めそうだ。
しばらく直立不動で視線を受け止めていたが、彼女は溜め息を吐くと諦めた口調で切り出してきた。
「本当に分からないみたいですね。……昨日はモンスター退治でそれどころではありませんでしたが、良い機会なのでハッキリさせましょうか。最初の晩のこと、覚えてますか?」
「ええ、まあ……」
「私としては、人生を賭けた行為だったんですよ? それを無惨にも断られて、辱めを受けるなんて」
「ちょ、ちょっと! 断ったのは事実だけど、『ハズカシメ』なんてそんな破廉恥なこと! 事に及んで無いでしょう!?」
「同じことです! いえ、もっと酷いですッ!! どうせなら抱いてから捨ててくれた方がまだマシでした…! 抱いてさえくれない。私には抱いてもらう価値すらない。そんな思いを女性にさせたんですよ? 万死に値しますッ!!」
えー、そーなのかー? なんか価値観とか倫理観とか色々なものがずれていて、でもこれって男女間の考え方の違いでもあるのか? いや、環境の違いでもあるような。
ううむ、分からん。だが、一つだけ言えることがある。
「サシャのことが魅力的じゃない、なんてことはないよ。ただ、今の時点でお金をほとんど持ってなくて、きちんと責任を取れるか怪しいからってだけさ」
「…………本当に?」
「ああ」
「神様に誓って?」
「勿論! 八百万の神に誓って!」
「……え? ヤオヨロズの神…様……?」
「あー、えーっと、そのだな……この世におわす全ての神様に、って意味だ。故郷の言い回しだ」
「ふーん、それならそれで良いけど……。それじゃあ、もしアデレイドでお金があるって確認出来たら、私のこと、貰ってくれます……?」
おおっと! あんまり豊かではない胸を強調するポーズをしながら、上目遣いでこちらにおねだりしてきたぞぉ!
く~~~~~っ、たまらん! おっもちかえり~~~♪は出来ないから、首をコクコクと縦に振ることで意思表示をした。
……あれ? 最初に考えていたのと違う結果に。やんわりと断る未来予想図がいつの間にか破綻していた。やはり好色の特徴は業か。今更先ほどの承諾を撤回は出来ない。いや、したら色々と怖い、ヤバイ。
それからはサシャの機嫌も直り、道中お喋りをしながらワイアラの町に辿り着いた。
そろそろ陽が暮れそうな為、宿屋を探す。人口1,000人強で交易の要所と言うこともあり、宿は複数あって選り取り見取りだ。
一人一泊二食付きで8S(≒8千円)の「飛び跳ねるトビウオ亭」と言う宿にした。サシャも同じ宿に泊まる。
夕食は白身魚のムニエルに野菜の煮付けがどっさり。やわらかいパンが付いて来るが、ドリンク類は別料金とのこと。二人合わせてエールを3杯頼む。
ニンジンとブロッコリー、ジャガイモをテンポ良く口に運ぶ。うん、美味い。薄味だが出汁が効いていて、幾らでも食べられそうな感じがした。
適度な焼き加減のムニエルを味わいながら、掛かっているホワイトソースをたっぷりとパンに付けて頬張る。……うむ! 爽やかな酸味の混じる甘いクリームが、パンに至極合う。
そこですかさずエールを流し込むと、口の中がさっぱり。更に食が進み、一通り頬張って嚥下したところでエールを飲み干す。うーん、もう一杯! すかさず、2杯目のジョッキを手に取った。
翌朝、サシャは少し疲れを残していたようだ。まあ、昨日一日歩きっぱなしだったしなぁ。
オレが平気なのは、やはりキャラクターの身体の性能のお陰だろう。確かランニング技能も高かった覚えがあり、軽装(今の状態だ)ならば1日80kmもの移動が可能だ。
重装備行動と言う技能もあり、金属鎧を着用しての軍事行動でも、1日30kmは歩ける。短い? いやいや、フルプレートを着込んで荷物も持った状態だとかなりのものだ。そこまで装備あるなら素直に馬を使え、とは思う。どちらかと言うと貧乏騎士団の必須技能。
今日からは馬車で移動だから、多少疲労が残っていても大した問題ではないだろう。午前8時までに町外れの広場に集合することになっていて、15分前には乗り合いの馬車が停まっていた。
既に2人の先客がおり、オレとサシャはそれぞれ40Sを御者に払って乗り込んだ。これは食費込みであり、自分で食事を用意する場合は30Sになるそうだ。客はオレたちを含め4人、最大8人までが規定人数になっていて、2頭立ての馬車の中は全員が寝られるほど広い。規定人数を越えそうな団体の場合は、事前に予約すれば乗り合い馬車ギルドが手配するらしい。「急に大人数で来られても、食料の用意とか出来ない」とは御者のオヤジの言。逆に客が居なかったらどうするんだと聞いてみたら、郵便配達の都市間移動もギルド経由で請け負っていて、最低賃金は保障されているらしい。ただ、それだけでは飢え死にしない程度しかないので、最低二人は乗客が欲しいと笑っていた。
途中に町も宿もないから野宿となり、二人の御者が交互に休んで夜警を担当していた。客に任せるワケにはいかないんだろうけど、疲れるだろうなぁ……。まあ、それが仕事か。
聞いたところによると、盗賊とかはあまり出ないらしい。そもそも大陸の半分以上が魔物の棲み処となっており、人間はその狭間で国を興し集まることで何とか安全を確保している状態だ。街の外で生活出来るくらいなら、低級の魔物でも狩って素材や魔石(魔物がたまに落とす結晶石)を売ってやっていける。いわゆる冒険者、ハンターとも呼ぶらしい。
道は当たり前だが未塗装で、気候が乾燥傾向な為、人や馬車などの付けた跡がそのまま道の識別痕となっている。実際のオーストラリアは広域で低雨量故、川沿いや湖周辺以外で十分な水を得るのが難しい。広大な土地に低人口な理由の一つとなっている。尤もICFのゲーム内では、「実際の気候よりも若干湿潤気味に設定されており、豊かな緑と多様な生物の繁栄が見られます(魔物的な意味で)」とアナウンスされていた。括弧内が余計だ。
3日目の昼に、ワニが道を塞いでいるハプニングが起こった。少し距離を空けて睨み合っていたようだが、異常に気付いたオレは一瞥して状況把握後、馬車から飛び降りると同時にルーンブレードを抜き放ち、斜めからワニの胴体に切り込んだ。ゲーム的に言うと、最大LP120の相手に対し『クリティカルヒット! 500のダメージを与えた』状態。オーバーキルも甚だしい。そのまま何度か斬り付けてナマス切り状態にし、肉を回収。ただの野生動物な為、魔石や稀結晶(力が凝縮されたレアな魔石。武器や防具などに付けることで特別な力を発揮する)はない。その晩はワニ肉のステーキが食い切れないほど出、先客の少年兵と妙齢の女性からの視線に変化があった。気にしないけどね。
その後、4日目の昼頃にアデレイドの都へ到着した。雨が降ったりすると5日掛かったりするらしいので順調な旅だったことになる。
首都・アデレイド。スチュアート共和国の中枢であり、国で一番栄えている都市である。人口は80万近くに達するそうで、入り口の検問でさえ活気に溢れていた。
8メートルほどの壁に囲まれ、出入りには証明が必要―――ってオレないし。衛兵には「またか」と言われ、マルナの村出身のサシャが保証するなら問題なしとされた。なんか最近同じようなことが多く、衛兵は対応に追われて辟易していたみたいだ。「いちいちやってられっか」とか「どうせ再発行で問題ないんだろうから、付いて行くだけ無駄足」とか「もし犯罪者でも、滅茶苦茶強いプレイヤーなんだろ? 殺されるだけじゃないか」なんて愚痴が聞こえて来た。
メインストリートのちょっと脇に、冒険者ギルドの本部はあった。サシャを連れて中へと入って行く。
ドアに付いていた鈴がシャランと鳴り、来客を伝えた。周りを見回し、「総合案内窓口」と書かれた場所へ向かう。隣には「新規登録窓口」があったが、誰も座っていない。離れたところには「依頼関連窓口」が3つあり、依頼の紙が貼ってあるクエストボードが側にある。何人かの冒険者らしき人物がそれを眺めていたりした。
「すみませーん」
「ハイハイ」
眼鏡を掛けた女性が応対してくれた。ちょっと気の強そうなお姉さんタイプ。うん、決してオバサ……ゲフンゲフン、ではない。30歳前後かなー。化粧がちょっと濃いのが残念。
「あら、見掛けない方ね。装備も整っていて……ふむ」
何だか納得されているが、用件を言おう。
「ギルドの指輪を紛失してしまって……」
「指輪の再発行ですね?」
こちらの発言を遮るように、受付嬢は尋ねて来た。決め付けられているみたいで良い気分はしなかったが、事実なので頷く。
「はい、お願いします」
「はあ……またですか。紛失時の再発行手数料は、現在金貨100枚となってます」
「はあ? 百枚!? ちょっとそれは……」
「勿論、口座に預金が残っていれば、そちらから支払うことも出来ます。調べるため、今から持ってくる水晶玉に手を翳して下さい。―――キュラスさーん! ま! た! 水晶玉! 貸してくださーーーい!!」
事務所の奥の方に声を掛けていた。
「昼休みに調整中でして。お金は多分大丈夫でしょうから、こちらの『指輪型認証証再発行依頼書』に必要事項をお書き下さい。ついでに腕輪型通信機の再発行も出来ますが、いかがなさいますか? と言うかしますよね? ね? 今まで3,000人くらい来て、ほとんどがしてましたし」
キュラスさんらしき人が水晶玉を持って、彼女の後ろに立っていた。
「あ、はい。……これに手を翳して下さい。はい、はい。オッケーでーす。あっ、ちなみに腕輪型通信機の方は少ーしお高くなってまして、金貨500枚となってます。どうせ払えるでしょうから問題ないでしょ?」
「あー、うん、その。口座に幾らあるかは教えてもらえるかな?」
「ハイハイ。えーっと……またこの人も凄い金額ね。口頭では問題でしょうから、筆記でお伝えしますね。はい、これです」
メモ用紙に鉛筆で書き殴りされた金額は、641,925,398S。六億四千百九十二万五千三百九十八シル。一瞬頭が真っ白になったが、ゲーム内の金額と同数値なのだろう。ハハッ、これは確かに金貨600枚程度、大したことないな。同じ単位にすると60,000Sだし。仮に引き落として貰ったとして、残りは641,865,398Sだ。
「書類は書き終わりましたか? ハイ、ハイ。問題ないので、少々お待ち下さい。時間? 10分くらいです」
流れるような作業で置いていかれた気分になってしまった。
まあ、その、なんだ。お金があって良かった。これからの生活の懸念の大部分が解消され、気が抜ける。
サシャにそのことを伝えると、
「じゃあ、私のこと、貰ってくれるんですね?」
嬉しそうに腕を絡めてきた。近づいて来たことによって、女性の良い匂いでクラッとする。ちょっとだけだけどなッ!
しばらくして、先ほどの受付嬢が指輪と腕輪をお盆の上に乗せて戻って来た。隣のサシャを見て少しムッとした表情をしたが、眼鏡をクイッと直した際に消した。ある意味プロだ。
「こちらが、カジナ様の新しい指輪型認証証と腕輪型通信機になります。既存の登録されていたモノは、先ほどの手続きで使えなくなりました。尤も、既存のモノは最近使われた形跡はなかったようです」
「そうですか。有り難うございます」
そう言って席を立とうとした時に、後ろで順番を待つ人が居たことに気付いた。衛兵の付き添いを連れた、冒険者らしき人物だ。
新たな来客に、総合案内窓口の受付嬢は「指輪の再発行ですか?」と尋ねていた。
嗚呼、うん。ここまで頻繁だと、あのぞんざいな受け答えも納得だ。3,000人とか言ってたか? 総数は分からないが、かなりの、いや大量のプレイヤーが来ていることは確かなようだ。
指輪を嵌め、腕輪を装着すると、着信があることを示す部分が点滅していた。
丁度押し易そうなボタンがある。これは―――アレをやらんといかんよね。では……ポチッとな。