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7thWorld  作者: 池沼鯰
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第1話 前日


<メールが1件届いています。(未読件数 1 )>


『こんにちは、こんばんは。もしかしたらおはようございま~す?

 さーて今週は、今度アップデートする内容のテストをお願いしますYO!

 キャラクター側からの視点の感想をいただけたら、超ラッキー!!

 報告はいつものように、随時私へのメールで行っていただければオッケー。

 それでは、貴方の勤労を期待しています。SeeYou.』


 DJ紛いに陽気なソレは、GameMaster(以後GM)からのボイスメールだった。

 馬頭星雲を壁紙にしたPCで、ゲームのプログラムを実行する。すぐにオープニングムービーと音楽が流れ、長いローディングを誤魔化す状態になった。

 InfinityCrystalFantasia―――通称ICFと呼ばれるゲーム。ICFは、ここ10年での総プレイヤー数が五指に入るほど多い人気RPGだ。

 手軽にオンラインで遊べ、グラフィックなども好みの系統だったため、オレはテスト版から今までずーっとやっている。

 お陰で廃人と呼ばれる域に達し、GMからも“協力者”として扱われている。


 “協力者”としての報酬は、家賃収入などと比べると微々たる物だ。だが一番嬉しいのはやはり、最新のアップデートを調節する為に誰よりも早くそれで遊べることだろう。

 今回のは久しぶりの大型アップデートと言うこともあり、普段所属しているクランのメンバーからも内容を教えてくれるよう頼まれてる。……守秘義務があるんで無理なんだがなぁ。


 ようやくゲームが起動完了する。オンラインモードを選び、ログインIDとパスワードをタタタターン!と入力してドヤ顔をした。……誰も見ていないが。

 ICFは最初はLv1から始まり、40Lvまではサクサク上がるのだが、上になるほど段々ときつくなってLv100に到達するには4,5年ほど掛かる。オレのペースで、だ。まあ、オンラインゲームのLv上げはどれも大体似たようなものだったりする。

 今回のアップデートでは長らく100が最大だったレベル上限を引き上げ、150までにするとのこと。正直、ゲームバランスを取るのが難しいと推測される。

 基本的に、キャラクター同士でも10Lvの差があると、対戦等では勝つのが難しくなる。

 これからGMとどれだけやり取りしなければならないかを想像し、途方に暮れた。……本当に出来るのか?

 まあ仕方なし。やるっきゃないっしょ。まずは10Lvごとに試すか。

 GMお助けモード(オレ専用)を呼び出し、普段の自分のキャラをLv100から110にする。ピロロロロロッと面白いように経験値が加算され、ファンファーレが10回鳴る。さてと、まずは―――






 Lv101では特別に、自分の望んだ魔法の武具やアイテムが貰えた。Lv100から101になる為に必要な、限界突破クエストでの報酬らしい。

 サンプルで某剣風戦記なドラゴンスレイヤーのような巨大武器があったので、大して考えずそれにした。……でけぇ、重い。

 Lv102からはスキルの改造が特典になる。と言っても早く遊びたくてそんなに長々と考えてられなかったから、適当なスキルに改良を集中させる。


「うりゃ! コメットシュート!! ッシュート! ッシュート!」


 戦士系スキルの中では範囲が広く、消費MPとディレイが大きいメテオシュート。これを改良してみたんだが……


「嘘だろ…? 昨日まで苦戦してた奴らが、秒殺……だと……」


 ディレイ無し、消費MP半減。さすがに連続で使うとMPががっつり減るが、大剣の威力と合わさり無敵に感じる。

 5体いた上位モンスター(エルダードラゴン、ヴァンパイア、アイアンゴーレム、忌まわしき者、グレーターデーモン)が、数秒で粉みじんだ。今までソロだと2分近く掛かっていた相手なのに……。

 GMにメールしよう。


『壊れ性能です』


 しばらくしたら返信が来た。


『110Lvだよね? 少しくらい壊れ性能(ソレ)で良いから^^』


 ダメだこいつ、早く何とかしないと……






 武器が重過ぎた為、GMお助けモードを呼び出して再度カスタマイズする。本来は一度選ぶと変更なんて出来ないが、テストなんだから幾らでも可能。

 少し小ぶりにし(それでも刃渡り150cmくらいある)、刀身を紫色で厚みのある直刀へと変更。使用時に、金色の文字が刀身の溝に浮かぶよう設定。

 キャラクターのLvは一気に150へ。特典のはずのスキル改造に時間を喰って面倒だったが、10Lv毎に改造度数が更に上がるため、適当にやっていてもとんでもない性能になった。

 詠唱カットやディレイなし、消費MPなしとかもう笑うしかない。魔法職のスキルだとチート間違いなし。しかも威力や持続時間、範囲は乗算とか、ふざけてる。

 単体スキルのスマッシュIIIをビッグバンインパクトって名前にして威力を上げる。3回魔改造して……約405倍?

 バカだろ。運営、氏ね!

 試しに上から10番目くらいの強さのボスモンスター(エンシェントドラゴン)を呼び出し、VIPルームでタイマンする。

 普通はLvカンスト(現状100Lvの意)のプレイヤー5人以上のパーティで相手にするボスモンスターで、楽に勝とうと思うなら20人くらいが集まることも珍しくない相手なんだが。


「ビッグバンインパクト!!」


 ザシュッ!


 ぐぉぉぉおおおおおおおお!!


 今、LPゲージが半分以上減ったろ……。

 もう一撃喰らわせると、ボスモンスターは呆気なく崩れ落ちた。


「………………………………」


『バランスおかしいです\(^o^)/』


 送信。


『何々? ……Lv150かぁ、良いんじゃない? それくらいで』


 イラッ


『何考えてるんですか!? こんなプレイヤー居たら、ゲーム詰まらなくなりますよ!!』


『……ん? 嗚呼、そうだね。“居たら”、ね。そんなのが“居たら”。必要経験値表、送るよ』


 会話に違和感を覚え、送られてくるメールの添付ファイルを開いてみる。……なるほど。こりゃねーわ。

 並みのプレイヤーならLv102か103で停滞、廃人でも3年以上かけて110Lvがやっとか。

 確か、このアップデートでモンスターの追加などは特になかったはず。

 それを考えると、120Lvでさえ気が遠くなるほどだ。130? 140? ないから。150Lv到達に必要な天文学的な数値を見て呟く。


『これは、Lv150で遊ばせる気、皆無ですね』


『そーだよー。ま、せいぜい110Lvくらいで楽しんでくれって仕様さ』


 と言うことは、150Lvを味わえるのは今だけ!ってことですね、分かりました。

 一旦ホームエリアに戻り、悩みながら宿屋でスキルの調整を行う。こう言った作業の最中が一番楽しかったりするのは、万国共通だろう。

 テスト内容をまとめて文章化し、GMに送った時点で日付が変わろうとしていた。オレはPCの電源を落として就寝し――――――日常がひっそりと終わりを告げたことに気付けなかった。

誤字・脱字はひっそりと直すことがあります。

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