流星博士と宇宙人
流星博士は研究所の庭の一角にいつものようにガラクタを運んでいた。
日々の研究で生まれたガラクタは、もうすっかり山積みになっている。ゴミ処理業者に取りに来てもらわなくては。しかしその処理代もばかにならない。
博士はふうとため息をついた。
そのとき。
ふと地面に影が落ちたので空を見上げてみると、そこには雲ではなく、一艘の大きな宇宙船が浮かんでいた。
なぜこんなところに宇宙船が。
驚いてじっと見つめていると、底がぱかっと開いた。そこから光の柱が伸びて、ヒト型の影が下りてくる。姿は人間によく似ているが、目が緑で、肌が全身銀色の彼は、どう考えても地球人ではないだろう。
宇宙人は博士に挨拶でもするのかと思いきや、ガラクタのそばに行ってそれをしげしげと眺めだした。
ぼうっと博士がその様子を眺めていると、ふと宇宙人が振り返った。
そしてなにやら喋ったが、通じないのがわかると、小型の拡声器のようなものを取り出した。どうやら翻訳機のようだ。
彼は博士に向かってこう言った。
「これはあなたの持ち物ですか?」
持ち物というよりゴミだが、自分のものであることには変わりは無い。
「そうだ」
と博士は答えた。
「ぜひこれを分けていただきたいのですが・・・」
博士は驚いた。こんなガラクタを引き取ってどうしようというのか。
しかし、持って行ってくれるなら、捨てる手間が省けるというものだ。
喜んで、と言おうとしたら、さらに宇宙人は頭を下げた。
「わが星ではとても貴重な物質でできているのです。どうかお願いします」
そう聞くと、なんだか分けるのも惜しい気がする。
うーん、と博士が考えていると、
「私の星の宝と交換でいかがでしょうか」
という申し出があった。ゴミを持って行ってくれて、しかも宝までくれるとは!
しかしここで大喜びしては、ゴミの価値がわかってしまうというものだ。博士はできるだけもったいぶって答えた。
「そこまで言うなら仕方ないのう。全部持っていくがよい」
その言葉に宇宙人は飛び上がって喜んだ。
「なんと全部いただけるのですか!ありがとうございます!お礼は必ずいたします!」
博士は内心嬉しく思いつつも、表向きは真面目にうんうんとうなずいた。
宇宙人は宇宙船の船員たちを呼んで、総出でそのガラクタを中に運んでいく。そして全員で礼をして、宇宙へと帰っていった。必ず礼をすると念を押して。
ゴミが宝になるなんて、なんという幸運だろう。
数日後。
博士が今か今かと待ちわびていると、空に宇宙船の影が。
庭の上空で止まった宇宙船から、前と同じく底が開いて、宇宙人が現れる。しかし今度は一人ではなく複数だった。
長いローブのような服を引きずって歩いている先頭の人物が、博士の前に立ち、翻訳機を掲げた。彼が一番偉い人物なのだろう。
「先日は大変貴重な物質を頂き、まことにありがとうございました」
おそらくその星の正装をしてきたと思われる宇宙人が数人並んで、うやうやしく挨拶をする。
宇宙人のお偉いさんが長々と謝辞を述べた後、ようやくお待ちかねの言葉が。
「お約束通り、この星の宝を持ってまいりました。どうぞお受け取りください」
そして宇宙船から、乗組員がどんどんと降りてきた。
乗組員は高々と「星の宝」を掲げ、庭に運び込んでいく。それも少しではない、先日持って行ったガラクタよりも大量だ。博士は驚いて、その光景を呆然と見つめていた。
最後に宇宙人たちは感謝を込めて深々と礼をして、宇宙船へと乗り込んだ。
宇宙船は小さくなって、キラリと光ったのを最後に、見えなくなった。
それでも博士は固まったまま、動けなかった。
「ど、どうしたんですかこれは!?」
庭に出てきた助手たちはどよめいた。
呆気にとられた博士の目の先には、うず高く積み上げられた生ゴミが・・・。
まったく、価値観の違う相手と取引をするのは難しい!