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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep31 ――夢の終焉――




 壊れる、嗚呼全てが壊れて行く。




 見慣れた風景は灰色に色褪せ、心優しかった人々は砂となって散る。下卑た笑い声と勝鬨を叫ぶ怒号が交差し……全てを略奪し尽くす。



 これは単なる侵略であり、この世界ではよくある出来事だ。



 大国が小国を占領し、強者が弱者を狩る。



 弱肉強食の連鎖に、ただグラナーデ王国という小国が犠牲になったに過ぎない。



 それは世界にとって、些末な出来事。





 ――だがゼノスという子供の人生は、ここで大きく変化した。





 ……夢は激動を描く。ゲルマニアに、断片的ながらもその真実を曝け出す。



 幼きゼノスは全てを明かされる。アルバートと名乗る老騎士から、あの日起きた出来事を……全て。






『……嘘だ。ドルガ兄ちゃんが……コレット姉ちゃんが死ぬなんてッッ!』




『――現実じゃよ。…………お前を、守る為にの』




『嘘だ…………嘘だああああああああああああああああッッッ』






 ゼノスは絶望し、この世を憎んだ。



 育ての親であるガイアが死に、自分を弟の様に面倒掛けてくれた二人も死んで行った。……そして、故郷と化したグラナーデ王国も。



 孤独の旅が、始まる瞬間――。







 ――――時は移ろい行く。







 少年期を迎えたゼノスは、最年少でとある傭兵団へと入り、そこで壮絶なる人生を送る事になる。



 騎士を目指し始めた彼に襲い掛かるのは……度重なる不幸と現実。






『ありがと、ゼノス。……そして、さようなら』






 ゼノスは旅先で出会った街を救えなかった。



 幼く弱いという理由で戦場に駆り出されず、結局言う事を聞かずに戦場へと出て…………結局、自分を好いてくれた少女と街を救えなかった。






『それでも騎士になりたいのかよ……あんな誰も救わねえ連中みたいにッ!』







 ゼノスは親友の家族を救えなかった。



 奢り高ぶった領主の騎士達が村を破壊し尽くし、村娘が犯され、男たちが斬殺される光景を……ただ傍観する事しか出来なかった。



 騎士になると言うと、よく傭兵団の仲間から笑われたものだ。






 …………人間の屑である騎士に、ならない方がいいと。





 


 ――――時は移ろい行く。







 ……一体自分は何人、大切な存在を無くしたのだろう。



 殺され、犯され、虐殺され、奴隷にされ、敵にされ…………そうした光景を、ずっと見てきた。



 騎士の汚職も、仕える筈の主の醜さも、その目でしかと見据えてきた。



 泣いて、悲しんで、頭がおかしくなる様な出来事が多くて――いつしか、自分さえも見失った。






 ――騎士とは何だ?






 段々とゼノスは、その意味さえも分からなくなってきた。



 これは仕方ない事であった。だってゼノスが見てきた騎士達は、全て傲慢で欲深い……あのガイアやドルガ、コレットの様な騎士が全くいなかったからだ。



 ……だから、彼は彷徨い続けていた。







 ――騎士になる筈だった少年は、単なる殺人狂と化していた。







 この世の全てに絶望し、あらゆる人間が汚く見える。



 全てを救えなかったという思いが自暴自棄を呼び起こし、その捌け口は戦場へと向けられる。






『……俺は…………俺はッ。どうすれば――――ッ!』






 ――殺し尽くした、醜き人間達を。




 騎士になるという夢も潰え、ゼノスは剣を振るい――殺す。



 とにかく殺した。身近な人々を奪った奴等を、権力を無用に振り翳し、暴挙に出る権力者達を……沢山、沢山。




 彼の人生には――色々ありすぎた。





「……やめて、ゼノス」





 ゲルマニアは一生懸命に手を伸ばし、彼の背中を掴もうとする。




 しかし届かない。




 どんなに彼の名を呼んでも、振り向いてくれない。




 笑い叫び、涙を流し続ける彼の殺戮を……止める事が出来ない。




 ――ゼノス、ゼノスッ…………ゼノ、ス





 ゲルマニアは何度も呼び続ける。





 ぼやけていた思考が鮮明になっても、何度も、何度も。








 この夢が終わる、その時まで――







 


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