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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep28 ――安らぎの眠りへ――




 世界は残酷で非道だ。





 いつまでも続くと思っていた日々、皆が愛しいと感じていた充実感。



 ……それは気付かぬ内に築かれ、気付かぬ内に崩壊していく。



 まるで走馬灯の様に。



 何の遠慮も無くやって来る。



 抗う事も出来ず。



 ただただ――





 ――死を受け入れるしかない。





「……よお、コレット。まだ……生きてる、かよ」



 ドルガは、最愛の彼女に声を掛ける。




 倒れ伏すコレットに、何度も……何度も。




 腕の力だけで全身を引き摺らせ、彼女の元へと近寄る。




「……なあ、答えてくれよ。いつもみたいによ……強気な声を、聞かせて……くれよ」




 涙声になりながら、ドルガはコレットの身体を抱く。



 もう体温さえも感じない。コレットの身体は冷え切っていて、まるで美しい人形の様だった。



 自分に笑顔を見せてくれない。



 何も……話してくれない。



 ドルガは抱き締める。強く抱き締める。





「……う、うう。コレット…………コレットぉ」





 彼はすすり泣く。



 コレット自身がどう思っていたのかは分からない。ただ友として、好敵手としてドルガと接してきたのかもしれない。



 ――しかし、ドルガは違った。




 小さい頃から彼女の強さに憧れ、尊敬を抱き……同時に恋心を抱いていた。




 どんなに悲しい時も、どんなに苦しい時も、彼女が傍にいてくれたからこそ、自分は生きてこれた。



 ……そう、ずっと一緒だったのだ。



 だから泣くしかなかった。だから……絶望するしかなかった。




「う、ああ……あぐッ……う……くッ……」




 涙がぼろぼろと零れる。



 情けない声は、雨音と共に消える。



「…………」



 泣いても。泣いても――




 それでも、コレットが口を開く事は無い。




 どんなに彼が嘆いた所で――もう『死んでしまった彼女』が、言葉を発する事は有り得ない。現実的では無い。




 ――思い出の中の彼女とは、もう会えない。




「……」



 ドルガは最後の力を振り絞って、彼女を抱き上げる。



 出血がより一層増すが、そんな事は関係ない。虚ろ眼のまま、ただ正面だけを見据えて……無言のまま歩き始める。



 歩いて、時々転んで、それでも彼女を抱え直して歩く。



 ――歩いて、歩いて、歩き続けて。



 無我夢中に突き進み。




 ドルガは、街道沿いにそびえ立つ大樹の下へと辿り着く。




「ぐっ……」



 遂に力を失ったドルガは、大樹へと寄りかかり、崩れ落ちる様に座り込んでいく。




 ――もう出る血さえ存在しない。




 隣には相も変わらずのコレット。雨のおかげで付着していた血は洗われ、大樹のおかげで、彼女が濡れる事は無い。




 ――そう、たったそれだけ。




 死んだ彼女の為に、ドルガはここへとやって来たのだ。




「…………何がしたかったんだろうな……俺。……これじゃ、ただ馬鹿みたいに歩いて来ただけじゃねえか」




 力なくそう呟き、漆黒の夜空を見上げる。





 ……気付けば、雨が止もうとしている。





 曇り空から眩い満月が姿を現し、ドルガとコレットを仄かに照らす。今まで真っ暗だった世界が、鮮明に見え始める。




 ――ふと、コレットの顔がドルガの肩へと乗る。




「――――」



 その表情を見た瞬間、ドルガは僅かに動揺した。








 ……コレットは、微笑みを浮かべていたのだ。









 まるで好きな人と共に過ごしているかの様に、愛しい余り想い人の傍に寄り、甘えてくるかの様に……彼女は微笑していた。




「……」



 ドルガは彼女の手を握る。



 しっかりと、絶対に離さないという勢いで。





「…………なあ、コレット。お前はもうさ……天国に行ってるのか?」





「……」





「俺も……行けるかな。…………行けたら…………いつものお前に……会える、かな」







 彼女は返事をしないが、それでもドルガは問いかける。




 自分達が行き着く場所は、争いも憎しみも無い……本当の平和が存在する世界なのだろうか?




 ――自分達は、もう戦わなくてもいい世界なのだろうか?




 だとしたら……何て素晴らしい世界なのだろう。





「……ああ、やばい。……何か、眠くなってきたよ…………」





 ドルガもまた笑みを浮かべ、コレットに寄り添う。





 安らかな心のまま。





 ただ眠気に誘われて。








 彼もまた、眠りにつく事にした。









 

 

 ――二人は愛し合いながら、まだ見ぬ楽園を夢見て









 


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