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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep22 ――愛しきガイアの弟子達――



 ガイアはグラナーデ王国騎士教育指揮官にのみ支給される正装を着こみ、城へと入城する事となった。




 今日は年の初め、元日である。



 ここグラナーデ王国は毎年、国を挙げての元日祭を催している。今年一年の豊穣を願って、人々は酒を酌み交わし、朝から深夜まで踊り歌う。そうする事で豊穣神の機嫌を取り、喜ばせる意味があるらしい。



 ……だが、ガイアは酒を飲みに王城へと来たわけでは無い。



 それは市民の話であって、王家や王家に関係する者達は城へと集まり、国王から激励の言葉を賜る日である。昨年の功績を称えられ、今年一年も精進せよ……そんな至上の褒美を貰いに行くのだ。




 ――ふと、ガイアは隣にいるゼノスを見やる。




「いいか、ゼノス。くれぐれも粗相の無いように……いや、大人しくしてるんだぞ」



「うん、分かった」



 そう言って、ゼノスは素直に頷く。



 ゼノスを連れて来た理由は一つだけだ。今日は国王陛下への謁見、その後には大々的な舞踏会も開かれ、恐らく夜通し付き合う羽目になるだろう。まだ六歳程度の子供に対し、深夜まで留守番を任せる事は出来ない。



 ……かと言って、ゼノスを行事に付き合わせるのも酷だ。



 勿論、ガイアはちゃんと考えてある。



 ゼノスを退屈にさせず、安心して任せられる場所。ガイアは入城した後、ゼノスの手を引いてその場所へと連れて行く。



 今の時刻は午後四時を過ぎた所、城下町は大いに賑わっているにも関わらず、城内は依然として厳格な雰囲気が漂っている。通り過ぎるメイドや騎士達も普段通り働いており、とても元日祭の日とは思えない。



 まあとにかく、ガイア達は城内を抜け、本城の裏手に佇む騎士団詰所へと赴く。詰所は本城とは違って質素な造りであり、王国騎士団の宿舎が備えられ、更に訓練施設も充実している。



 ――ガイアは迷う事無く、詰所へと足を運ぶ。




 すると詰所入口には、一人の騎士が佇んでいた。恐らく警備兵の者だろう。




「待て、そこの者。今は騎士団の総合訓練の最中だ。また後で…………ッ!?」



 途端、騎士は驚愕の色を示す。



「仕事熱心なのは良い心掛けだが……まずは訪れる者を認識してから言う事だな」



 ガイアはニヤリと笑み、恐縮する騎士に言い放つ。



「こ、これはガイア殿。失礼しました」



 慌てて頭を下げる騎士。……ちなみに、この騎士は昨年に養成学校を卒業した新米騎士である。未だガイアには頭が上がらないらしく、先程とは打って変わって低い姿勢だった。



「……私はこの場所に用があって来たんだが、話は聞いているか?」



「はッ!確かに聞き及んでおります。……ですが先も仰った通り、今は総合訓練を執り行っています。ガイア殿と面会の約束をしている騎士団長と副団長は、恐らく模擬試合を繰り広げているかと」



 その言葉に、ガイアは興味を駆り立てられる。



「ほう、模擬試合か。では久々に、グラナーデ騎士団の稽古を拝見するとしようか。――教育指揮官が訓練を見守る事に関しては、何も問題はないだろ?」



「はは……ですな。ならばご案内しましょう、こちらです」



 ガイア達は騎士の後を付いて行く。



 詰所内へと入り、エントランスホールを抜けて細長い廊下を突き進む。




 ……すると、廊下の先から剣戟の響きが聞こえてくる。




 ゼノスは一瞬身体を硬直させ、繋いでいた手に力がこもる。初めて聞く鉄剣の音色に恐怖を示しているようだが……それは致し方ない。ガイアはゼノスの頭を撫でてやり、大丈夫だと呟く。



 さて、ガイア達は王国専用の室内鍛練場前へと辿り着く。



 騎士が躊躇なく扉を開けると――――





「――はあッ!」



「でやあっ、おらぁ!」





 二人の騎士が、激しい攻防を繰り広げていた。



 漆黒のジャケットとスカートを身に纏い、洗練された動きで相手を翻弄していく銀髪の女性。



 対する大男は、自らの身長よりも巨大な大剣で彼女の攻撃をいなし、隙を見ては大振りで攻撃を仕掛けている。



 どちらも一進一退の戦闘をしているが、一歩狂えばどちらかの命が瞬時に奪われるだろう。怒涛の勢いは周囲の騎士達をも圧倒し、戦いという名の舞踏を垣間見、見惚れている。



 両者はほぼ互角の力量を持ち合わせ、その実力はグラナーデ王国屈指の騎士達とも称されている。



「……相変わらず凄いですね、ドルガ団長とコレット副団長」



 ガイア達を案内してきた騎士は、戦いを傍観しながら言ってくる。コレットとは銀髪の女性であり、ドルガとは大男の事である。



「確かにな。以前と比べてコレットの瞬発力も増し、ドルガも冷静に対処できている。…………成長したな」



 ガイアは誇らしげに両者を見つめ、静かに微笑む。




 ――と、ここで勝負がついたようだ。




 甲高い鉄音と共に、両者は動きを止める。



 ……結果は引き分けだった。



 ドルガ、コレットの手には剣が握られていなかった。その剣はというと、両方とも鍛練場の隅の方に飛ばされていた。



「……やるじゃない、ドルガ。また腕を上げたのかしら?」



「へっ、お前もなコレット。伊達に副団長を務めてはいないぜ」



 模擬試合を終えた両者は握手を交わし、ドルガが騎士達へと振り向く。



「おーし、今日の訓練はここまでだ。この後は何も予定は無いし、各自元日祭を酒飲みで楽しむなり、てめえの女連れて楽しむなり好きにしな!」



「はっ!有難うございました!」



 ドルガは豪快な口調で騎士達に終わりを告げる。



 騎士達は揃って呼応し、速やかに訓練場を後にしていく。



 ――ドルガとコレットが彼等を見送っていると、ようやくガイア達に気付いたらしい。



「――ッ。師匠!」



「おお、ガイアの爺じゃねえか!何だよ、来てたならすぐ声かけてくれよ」



 二人は満面の笑みでガイアを呼んでくる。



「はは、訓練の邪魔をしたくなくてな」



 ガイアは訓練中の騎士達に声を掛ける程、無粋では無い。ましてやあれほどの気迫を見せられては尚更だ。



 ドルガとコレットがガイア達の傍に近付いて行くと、二人の目線はゼノスへと向けられる。



「……こちらが預かって欲しいという、ゼノス君ですか?」



「ああ、急な頼みですまない。こんな事を頼めるのは君達ぐらいだし、聞いた所によると、元日祭に参加しないのだろ?」



「はい。部下達はともかく、私達はまだ書類作業がありますから……そうよね、ドルガ?」



「う……まあそうだけど。……それ、今日やらなきゃならねえのか?」



 あまり気乗りしない様子のドルガに、コレットは腰に手を当てて答える。



「当たり前でしょ。……それとも何、気に入った女の子と一緒に祭りを楽しみたかったのかしら?」



 コレットは意味深な笑みを浮かべ、ドルガに詰め寄る。



 対するドルガは顔を真っ赤に染めて、コレットから一歩退く。



「……何だよ、人の気も知らねえで」



「何か言った?」



「~~~ッ。い、いや……別に」



 ドルガは苦い表情で、その性格に相応しくない態度で押し黙る。彼がどうしてそうなのかは、ガイアは昔から知り得ている。




 ――コレットとドルガ。この二人もまたガイアの養成学校を卒業している。それもコレットは十六歳、ドルガは十七歳という若さでだ。




 実力や精神面に関しては問題無いのだが、この二人、特にコレットは『恋愛』というものに凄く鈍感だ。



 なのでこうしてドルガの片思いが続き、コレットはそれを知らず過ごしているわけだが……まだ続いているようだ。



 ガイアとしては、今年二十になるコレットが早く良い相手を見つけてくれれば嬉しいのだが。



「――とにかく私が戻ってくる間までいい。ゼノスを宜しく頼むぞ」



 ガイアは話を切り替える。残念な事に、色恋沙汰の面に関しては何も言う事が出来ない。むしろ居心地が悪くなりそうなので、用件だけを済ませようと思う。



「はい、分かりました。ゼノス君は私達が責任を持って預からせて頂きます。……ドルガ、貴方もいいわね?」



「勿論構わねえよ。俺はよくゼノスぐらいの弟達と遊んであげているし、子供の付き合いには手馴れてる」



「そうか、それなら大助かりだ」



 ガイアは一安心し、二人に対して軽く会釈する。幸いな事に、ゼノスは信頼出来る相手ならば怖がる事もせず、初対面の相手とも上手く付き合える。



 二人はその信頼足り得る存在らしく、既にゼノスはコレットのスカートに掴まり、ジッとこちらを見つめている。



 ゼノスの目前でしゃがみ込み、ガイアはその頭を撫でてやる。



「……しかし師匠。預かる条件とまではいきませんが、私達からもお願いがあります」



 突如、コレットが神妙な面持ちで切り出してくる。



 それを聞いたガイアは笑顔を引き攣らせ、真剣な顔へと変化する。




「……内容は大体想像出来る」




「そうか、なら話は早え。――ゼノスを引き取る際に、そろそろ白黒つけようぜ、爺」




「…………一端な事を言う」




 ガイアの返答は肯定とも取れず、否定とも取れない。



 ――それ以前に、ガイアは何故急に『例の頼み』を打ち出して来たのか、それについて疑問を抱いていた。






 何か急ぐべき事があるのか……意図が全く掴めないガイアであった。








5月4日追記;画像掲載サイト「みてみん」にて、「ゼノスの休日」のイラストを投稿致しました。興味がありましたらどうぞご覧になって下さい。リンク→http://6886.mitemin.net/i74056/

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