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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep17 寝る時は共に




 午後九時を少々過ぎた頃。




 パーティーはどうやら早々に終了したらしく、貴族や騎士達は明日の舞踏会に備えて、それぞれが既に与えられた部屋へと戻っている。



 それはゼノス達も例外では無く、常駐している使用人以外の臨時使用人達も早朝仕事に備え、早めの就寝を言い渡された。



 ……という訳で、今ゼノスはヴァルディカ離宮三階にある自室にいる。



 隣室のゲルマニアとアスフィも呼び、三人は今日一日目で収集した情報を提供し合う事にした。




「――さて、じゃあ揃った事だし本題に入ろうか」




「そうですね……。ではまず誰から報告しましょうか?」



 ゲルマニアが神妙に切り出す。



「はいは~い!じゃあまず私から話すよ!」



 そう快活に答えたのは、まだメイド服姿のアスフィであった。



「アスフィは確か……到着した貴族達を会場に案内してたな」



「うんうん、もうそればっかりだったよ。スケベな貴族親父は尻を触ってこようとするし、どさくさに紛れて抱き着こうとしてきた人もいたし……疲れたよ~」



「……そんな報告はどうでも宜しいです。まあ、同情はしますが」



 ゲルマニアも同じ様な事があったのか、怒りの籠った様子で答える。



「あ、ごめん……えへへ」



 いつもの調子で、舌を出して謝るアスフィ。



 そんな和やかな雰囲気のまま、彼女は続ける。



「えっと……一応案内してる最中に漏らしてた話を盗み聞きしてみたけど、誰も革命を起こそうという話題は出してなかったね。今の皇族家の不満や騎士階級に対する罵詈雑言は言ってたけど……」



「成程。やはりそうか」



 という事は、他の貴族はランドリオ撲滅に直接関わっていないと判断出来る。



 まだ確証は得ていないが、貴族達は案外思った事を口にするタイプが多い。帝国撲滅という旗を掲げていれば、誰かがそれを誇張する筈……しかしそれが一切無いとなると、彼等は関与してないと認識出来るのだ。



「となると、更にマーシェル様が怪しくなってきますね……。彼に関してはゼノスが調べていた様ですが、何か分かりましたか?」



「ああ、実はそれなんだが」



 ゼノスは躊躇しながらも、簡単に先の内容を説明する。



 マーシェルの自室に入る機会が与えられ、自分は鍵を入手して入る事が出来た。そこで何とか書類を掴もうとしたが……突如現れた幽霊共に阻まれてしまったという事をだ。



 ……案の定、ゲルマニアはそれを聞いて顔が真っ青となる。




「………………あ~、よく聞こえませんでした。え?何が出て来たんですか?ユレイ?ああ~、あの南大陸に栽培されている独特の野菜ですね。もう~ゼノスったら、変な想像をしてしまったのですね」




「……」



 こいつ、今の話を帳消しにしようとしている。



 捲し立てる様に早々と別の解釈をするゲルマニア。



 だが――




「……残念ながら本当なの。ほら、お前の左肩見てみ」




「へ?」



 嘆息しながらゲルマニアの左肩を指差す。




 そこで、ゲルマニアは初めて悪寒を感じてしまった。




 先程から重苦しかった左肩。……嫌な予感が漂うが、勇気を振り絞って振り向くと、





 ――肩には、女性の手が添えられていた。





 手より先の腕も無く、手だけが露わとなっていた。




「~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ。い、いやあっ!」




 混乱しきったゲルマニアは跳ね上がり、ベッドに座るゼノスへと素早く抱き着いてくる始末。



 ゼノスの顔に胸を押し付け、泣きじゃくる。



「も、もう嫌ですこんな所!帰りたい!帰りたいです!」



「まあまあ落ち着けって。……にしても、この屋敷全体が幽霊の巣窟となっているようだな」



 今の幽霊には害が無かった様だが、ゲルマニアにとってそれも怖かったようだ(アスフィは全然気にしてない所か、この状況を楽しんでいる様子)。



「ゼ、ゼノス……今日は一人で寝たくありません!だから帰らせていただきます!」



「そ、そりゃ無いだろ。俺一人でやれってのか」



「別に大丈夫でしょう……ゼノスは強いのですから」



 何やら棘のある言い方だった。



 妙にふてくされた様子で答えるゲルマニアを見て、途端にアスフィの目が光った様に感じた。




「――じゃあさ、今日は二人で寝るっていうのはどうだろう?」




 ……突如、アスフィが良からぬ提案をしてきた。



「…………………ふえ?」



 ゲルマニアは変な声を出し、顔面が紅潮し始める。



 一方のゼノスはというと、至極真面目な表情で何度も頷く。



「……成程。確かに俺がいれば簡易式の結界も張れるし、そうすればゲルマニアが怖がる事も無い筈だ」



「そ、その結界は隣の部屋まで伸ばせないんですか!?」



「う~ん……難しいな。元は自分の身を守る為に作り出す物だし。……まあ異性と共に寝たく無いのは分かるが」



 ゲルマニアとて騎士であると同時に、まだ十八の少女だ。



 好きな男と寝たいという気持ちもあるだろうし、ゼノスだって強要はしない。アスフィと一緒に寝ても大丈夫だし、その点に関して彼女が悩む事も無いだろう。



 ……と、思っていたのだが。



「――いえ。別にゼノスと寝るのが嫌という訳ではありません。仕方ないですが……一緒に寝る事にしましょう」



「はあ。……でも本当にいいのか?アスフィの所に行っても大丈夫だと思うがな」



「残念ですが、むしろそちらの方が嫌ですよ」



 そう言って、ギロリとアスフィを横目で睨み付ける。




「貴方は始祖であり、多くの同胞や民を葬って来た。同盟を結んだとはいえ、そこまで気を許す事は出来ません。……するつもりもありません」




「……ふふ、そうだね。その方がいいかも」



 彼女はゲルマニアの拒絶に落ち込む所か、むしろ納得している。



 ゼノスも彼女の言う通りだと思い、これ以上は何も言わないと決めた。



「そうか。分かった、じゃあ今の内に結界を張るんで、ゲルマニアは寝間着に着替えて来な」



「あ、はい分かりました。ですが明日の予定も決めた方がいいのでは」



「それは必要無いだろう。明日の昼は離宮から離れた森での鴨狩りで、夜は使用人も参加する仮面舞踏会だ。……調査再開は明後日になるしな」



 方針はまた明日の夜に話し合えばいいだろう。明日も早い為、今日はなるべく早めに就寝したいのだ。



「そうですか。では、その通りにしましょう」



 ゲルマニアは頷き、そそくさと部屋を退室する。



 彼女は終始赤面してたが……もしかして風邪でも引いたのだろうか?



「ゼノス、今日は楽しめそうだね」



 心配するゼノスをよそに、アスフィが気味悪い笑みを浮かべながら言う。



「……いや変な事はしないから。てかお前も早く寝ろ、明日は早いんだ」



「ちえ。分かったよ~」



 何が不満なのか分からないが、渋々とアスフィも退室しようとする。



 しかしふと足が止まり、こちらを振り向く。



「あ、そうだ。寝る前に一つだけ忠告しておくよ」



「……何だ?」



 首を傾げるゼノスに、彼女は重々しい空気の中答える。




「――今回の敵は、想像以上に厄介だと思うよ」




 彼女はたった一言、そう宣告してくる。



 今更何を言うのだろうか?戦いに身を置いている以上、危険や苛む気持ちは百も承知だ。



 ゼノスが黙って頷くが、それでもアスフィの気は晴れない様子だ。





「…………負けないでね。過去に……昔の自分に」






 最後に一言、そんな呟きが聞こえてきた。








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