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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep16 亡霊の出迎え



 パーティー会場から抜け出したゼノスは、怪しまれずに何とかマーシェルの自室がある五階へと辿り着いた。



 ……恐ろしく静寂で、不気味にすら感じるこの階層。



 廊下は酷く冷え冷えとしていて、背筋を過る悪寒には逆らえない。流石幽霊屋敷と称されるだけあって、常人に恐怖と不安を植え付ける光景だった。



 ……だが、ゼノスにとってそんな事はどうでも良かった。



 今はとにかく気を引き締め、マーシェルの自室に向かうしか無い。そこで隈なく調査し、シールカードと協力しているという証拠を見つける……それが今の使命だ。




 ――こうして、ゼノスはマーシェルの部屋へと到着した。




 幸いな事に、ヴァルディカ離宮はヘストニス家の催事場であると同時に、マーシェル氏自身が私有する場所だ。



 当然の事ながら自室も存在する。……この目前に控える扉の先に、何かが見つかるといいのだが。



「……」



 無言のまま、ゼノスは扉を開けて入る。



 ……中は勿論の事、静寂に包まれていた。



 見事な調度品の数々が置かれ、クラシックな本棚には沢山の書物が置かれている。



 如何にも幽霊屋敷に相応しい雰囲気。更に壁に掛けられた貴婦人の肖像画、その他沢山の人物画が……まるで暗闇からこちらを見ている様な錯覚を、ゼノスに与えてくる。




「……こりゃゲルマニアだったら卒倒してたな」




 ゼノスは噂話だけで震え上がる相棒を思い出し、ふと笑みが零れてしまう。



 ――しかし表情は一転し、真剣なそれへと変わる。



 時間も限られているし、すぐに調査を始めないといけない。そう意気込むゼノスは、さっそく部屋の調査に移る。



 部屋の構成としては、どうやら寝室と書斎を兼ねているらしい。同部屋に執務机と天蓋付きベッドから設置されており、部屋は広大だ。



 しかし目立った家具は余り無く、調度品・ベッド以外の日用家具はタンスが一つ、執務机が一つ、あとは本棚が三つ等々……それ以外の家具を探る必要は無さそうだ。



 ……タンスを漁ってみるが……あるのは小物やアクセサリー。



 裏をかいて額縁の裏やベッドの下も探ってみたが、目立った書類やシールカードも存在しない。



 いや、シールカード自体は恐らく無い確率が高いだろう。あれがもしギャンブラーを見つけているならば、ギャンブラー自身が離さず所持しているに違いない。




 ゼノスが欲しいのは――シールカードとの密約書だ。




 もしホフマンが言う通り、ランドリオ貴族と手を組んでいて、大規模な形でランドリオ帝国と争うつもりならば……何かしらの書簡が送られてきても可笑しくは無い。――いや、絶対にある筈だ。



 ……部屋を粗方調べ終えたゼノスは、最後に執務机へと赴く。



 まあ大体想像はつくが、ここに重要書類が保管されていると見てもいいだろう。丁寧に引出しが施錠されている辺り、確率が高い。



 ――栄えある騎士将軍が盗人紛いの行為をするのもどうかと思うが、背に腹はかえられない…………ここは堕ちるに堕ちて。



「……ピッキング作業を行うか」



 ――ランドリオ帝国六大将軍が一人、白銀の聖騎士ゼノス。



 全ての代に渡って築き上げた誠実さを……今ここで捨てたいと思います。



 そう心中で呟いたゼノス。



 …………開錠を試みた、その瞬間だった。





『――ミテハ、イケナイ』





 ……刹那、そんな低い声音が部屋に響き渡る。



「――ッ」



 ゼノスは咄嗟に後方を振り返るが、そこには誰も人は存在しない。



 ――だが、『人ならざる者』はいた。




 先程まで沈黙していた筈の貴婦人の肖像画がガタガタと動き出し、それにつられて他の肖像画達も動き出す。




『ソコハダメダ』



『ミレバ、オマエはシヌ』



『シヌ、シヌ、ゼッタイシヌ』



『ノロワレロ……ノロワレロ』



 肖像画の紳士が、淑女が、様々な怨嗟を露わにしながら呪詛を口々に唱えている。



 挙句の果てに床から、壁から、天井から……全方向に半透明となっている者達が顔を覗かせ、恨みの視線をゼノスに突き付けてくる。



「ちっ。まさか本当に幽霊がいるとはな!」



 状況を詳しく分析する暇も無い。証拠探しはひとまず諦め、ゼノスはその左手にリベルタスを呼ぼうとする。相手は幽霊だが、リベルタスは女神より与えられし剣――これでアグネイアスの亡霊共を全て薙ぎ払っている。



 ……だが、一歩遅かった。



『――ムダダッ!』



「……ぐ、おおっ!」



 突如体全体に負荷がかかり、勢いよく吹っ飛ばされてしまう。



 開かれた部屋の扉を抜け、ゼノスは廊下へと押し戻されてしまう。



「――くそっ!」



 何とかまた部屋に入ろうとしたが、時すでに遅し。



 バンッと閉められてしまい、いくらドアノブを回しても開く気配は全く無かった。




 ……それどころか、何か不思議な力によって封印された様だ。




「…………シールカードか亡霊かは知らないけど、そう簡単には行かせてくれないのか」



 ゼノスは歯ぎしりを立てる。



 だがこの場で何をしても、証拠を掴む事は出来ないだろう。



 手元の腕時計を見ると……時刻は八時を過ぎていた。



 確か八時半には自分達夜の使用人は仕事を終え、一旦エントランスホールに集合する予定だ。






 ――仕方ないが、今日は調査を断念しよう。






 


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