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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep11 ウェイトレスの正体


 酒が進むと口の滑りも良くなるものだった。




 最初こそ事務的な会話が多かったが、徐々にイルディエが快活となり始め、次にゲルマニアが酒に酔い始めた。ゼノス自体はそこまで酔っていないが、それでも幾分か饒舌になっている気がする。



「でねでね、私ったら何の生活知識も無いまま故郷を飛び出したから、ほんっと料理には困ったものよ~。傭兵団に入る前は色んな人に頼んだわねえ……」



「ど、どんな人達ですか……?」



「ん~っと……傭兵団に入る前は踊り子やってたんだけど、その仲間からとか、後は一部のお客さんから…………あ、あとゼノスもよく頻繁に作ってくれたわよねえ?」



 イルディエは何だか意味深な表情で、妙ににやけながら言う。



「――あ、ああそれ、それです!ゼノス!わ、私だって一応貴方の相棒なのですから…………は、話ぐらいは聞かせて下さい!」



 また随分と酔っぱらっているようだ。ゲルマニアは大声で、しかも包み隠さず本音をぶちまけてくる。しかも顔を至近距離にまで寄せて来るから、尚タチが悪いと言っても過言では無い。



「ま、まあ別に構わないけど」



「……本当ですか?」



 何故かジト目になるゲルマニア。日頃の中途半端な対応がいけないのか、明らかに疑っている。



「ほ、本当だって……これに関しては、特に隠す話でも無いしな」



 そう前置きし、すっかり聞く態勢に入るゲルマニアとイルディエを相手に、簡単にあの頃の事を話す。




 自分が六大将軍になる前、ランドリオ騎士団に入る前だから……大体五年前の事だろうか。




 ゼノスはある理由によって故郷を去り、金を稼ぐ為に傭兵となっていた時代があった。……学も無く、何かになる為の名誉や金銭さえ無かったゼノスにとって、傭兵以外に出来る事は無かったのだ。



 ――あの頃のゼノスは荒れていた。ゲルマニアには詳しく話さないが、当時の彼の戦いを間近で見てきたイルディエは、その全貌を知っている。だから『荒れていた』という単語だけで、彼女は暗い表情となる。



 ……まあとにかく、イルディエとはある砂漠のオアシスの町で出会ったのだ。



 当時の彼女もとある理由で踊り子をやっていたが……妙な巡り合せから始まり、イルディエもまたゼノスと同じ傭兵団に入団した。今思えば、腐れ縁と言っていい程の関係である。



 要点をまとめるならば、こんな所だろう。最も重要な部分はイルディエの為に省いてあげたが、本人としては有り難かったのだろう。ゲルマニアが見ない隙をつき、軽くゼノスに詫びを入れてきた。



「……というわけだ。あの時代に関しては特別変化も無かったし、単なる人生の通過点だよ」



「あ、ちょっとそれ酷い言い草ね。通過点って言うなんて……泣いてもいいかしら?」



「拗ねんな、あとどさくさに紛れて頬をつまむな。……おいゲルマニア、まだ何か言いたい事があるのか?」



 ゼノスは納得いかないのか、頬を膨らませるゲルマニアに問う。



「……あります、一杯あります。特に抽象的な面が多々あって、それが納得いきません。……本当は問い詰めたい所ですが、ゼノスはまたはぐらかすのでしょう?」



「……それは」



 何だろう、今日はやけにはっきりと言う。



 酒が入っているせいか、彼女は本心を露わにする。憤慨というよりも、悲壮めいた感情の方が大きいと見える。



「う、うぅ……酷いです、あんまりですゼノス。お互いをよく理解してこその相棒なのに……私は……えぐっ、私はそこまで信用に足らない女なのでしょうか?」



「お、おい泣くな。……って、お前どんだけ飲んでんだ!?」



 気付けば、ゲルマニアは事前に頼んであったビール瓶を何本も飲み干しており、全てが空になっていた。当のゲルマニアはすっかり泥酔していて、しかも泣き上戸である……何とも面倒な酔い方だ。



 果たしてその言葉が虚言なのか。……または本音なのか。もし後者ならば、ゼノスは言うべきなのだろうか?



 ――彼の人生を。美しくも残酷で、希望を辿って歩み続けてきた絶望の日々を、今この場で、ありのままを吐露すべきなのか?



 あれは自分だけの記憶。笑い話として、又は着飾った詩として語られるべきもの。……その真髄は余りにも悲しいから、言うだけで心を抉られる気分になるから……そして、皆に余計な心配を掛けさせてしまう。




 ――と、そこでまた頬をつままれた。今度は結構強い。




「い、いふぁい……」



 ゼノスが涙目でイルディエを見ると、彼女は少々怒った様子だった。



「ほんっと、昔から変わってないわねえゼノス。……そうやって自分の記憶を秘密にして、一体何人の女の子を泣かせたのかしらね」



「……よせよイルディエ。大体な、お前だってそういうタイプだろ?」



 案外、ゼノスとイルディエは似た者同士である。



 過去を引き摺りながらも、それを糧として未来へと突き進んでいく。時折見せる悲壮の表情は周囲の者を心配させ、それを誤魔化し続ける。



 だから二人は意気投合したわけだ。



「ふふ、確かにそうね。――でも、今日はそうはいかないわよ?その為にこんな『機会』を用意したのだし…………ふふ、うふふ」



 イルディエは不気味な笑みを浮かべる。



 何事だと訝しむゼノス、おぼろげな瞳で酒を飲み続けるゲルマニア(多分何も聞いていないと思う)。



 そんな彼等を他所に、イルディエは周囲を確認する。



「……うんうん、皆もう私達を無視出来るぐらい酔っ払ってきてるわね」



 イルディエは納得しながら頷く。



 確かに既にこちらをチラ見する者もいなくなり、今は大声で歌う者もいれば、話に集中する者しかいない。




 ……にしても、一体イルディエは何を考えているのか。




 ――すると、彼女は突如手を振って一人のウェイトレスを呼ぶ。




 その人物はというと、先程ゼノスと目が合った若草色のエプロンドレスを着た少女であった。




 呼ばれて驚いたのか、身体を一瞬ビクつかせ、恐る恐るこちらへと振り向く。何故か顔を俯かせ、こちらから見えない様精一杯に配慮している。



 ――もしかしてあの子、顔を知られたくないのか?



「あらあら……お~い、こっちよこっち!」



「は、はは、はいっ!」




 ………………。




 イルディエが声を掛けると、ウェイトレスの少女は上擦った声音で返事をする。そそくさとゼノス達の席へとやって来て、赤面しながら佇む。



 ……おい、ちょっと待て。



 ゼノスはウェイトレスを間近で見て、思わず持っていた手羽先を落とす。



 口をあんぐりと開けながら……暫く無言を貫く。



「え~っと、確かここの店って女の子を指名して、尚且つ選んだ子を自分の席に座らせる事が出来るのよね?」



「あ、は、はい。今はフリーの状態なので大丈夫です。……とはいえ、今の所指名は皆無ですけどね」



「あらそう、じゃあ私達が最初の相手という事ね。ほらほら、座って座って~」



 言われるがまま、ウェイトレスは頷いてゼノスの対面へと座る。




 整った容姿は見る者をうっとりさせ、どこか気品さを感じさせる少女。美しい声色はまるでどこかで聞いたような――――というか、知ってる。




 これは幻覚なのかと思いつつ、ゼノスは目をごしごしと拭き、もう一度少女をジッと見つめるが……見間違いようが無かった。



「おやあ?もうゼノスは分かってるようね」



 イルディエはにやにやとしながら言う。




「…………な、んで」




 ゼノスはイルディエと少女が苦笑する中、思わず席を立つ。




 ――そして、裏返った声で当然の疑問を口にする。





「な、なんでアリーチェ様がここにいるのですかっ!?」





 ……嗚呼、もう訳が分からん。






 ゼノスは頭を抱えながら、この現状を精一杯受け入れようと努力する。



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