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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep6 謁見2(改稿版)



 ニルヴァーナ退出から数分後、玉座の間にまた新たな訪問者がやって来た。


 コツ、コツ、と甲高いヒールの音を鳴り響かせるのは、とある一人の女性。


 妖艶な雰囲気を纏う彼女は、この帝国では珍しい褐色肌であった。


 ――帝国南部の原住民族、アステナ。


 伝統的な踊り子衣装を着飾り、艶やかな銀髪を揺らす。スレンダーな肢体は露になり、その豊かな胸さえ垣間見える――いわゆる際どい恰好だ。


 年齢はとても若い。大体十九か二十歳、といった所だろう。


 とても場違いな姿を見せながら、彼女はリカルドの御前で立ち止まり――片膝をつく。



「――六大将軍イルディエ。只今帰還しました」


「うむ、ご苦労。して戦果は?」


「無事達成しました。あとは騎士達が何とかするでしょう」


「そうか。流石は『不死の女王』、シールカードの脅威も容易に弾くか」


「……」



 イルディエと呼ばれた彼女は、何か含んだような視線をリカルドに送る。


 ランドリオ騎士団を支える六大将軍の一人――モハヌディ・イルディエ・カラ・ハリヌ。世界最強を誇る騎士団の中でも、次元を超えた実力を誇る六代将軍。彼女はその一角を担うだけあり、その若さで幾つもの英雄譚が語られていた。


 中でも神話上の怪物――『最果ての巨人』や『古代魔女』を滅ぼした逸話は、もはや知らない者はいないだろう。


 その偉業を称え、人々から与えられた異名こそがーー『不死の女王』。


 そんな彼女は今――代理皇帝に対して隠しきれない疑念を感じていた。



「……それで、私に何か御用でしょうか?これから新たな戦地に向かう所ですが」


「そうか。――だがイルディエよ、まずはお前にやってもらいたい事がある」


「……?」



 代理皇帝自らの頼み、それに対してイルディエは疑問符を浮かべる。


 

「今から一週間後、かのシルヴェリア騎士団と模擬試合を執り行う。お前にはその模擬試合を見届けてもらうことにした。異存は?」


「……何故私が?シルヴェリア騎士団の件は知っておりますが」


「相手は世界各国に名を知らしめている騎士団。だが此度の件は、あの始祖と関わる話だ。まずはその実力を測るため、六代将軍の誰かに見定めてもらおうと思っていてな」


「……承知しました、引き受けましょう」



 その為だけに呼んだのか、と、言葉とは裏腹に、イルディエは密かな怒りを覚える。


 六大将軍とは、何千人といるランドリオ騎士団を束ねる最高位の役職。常に帝国内外で起こる紛争や討伐作戦に参加し、その最先端を切り開く存在でもある。


 だから、本来であれば真っ先に断りたい。


 特に現状は最悪であり、白銀の聖騎士不在の今は――常に人材不足である。


 聖騎士だけでなく、イルディエは知らない六大将軍だが、『知られざる者』と呼ばれる六代将軍も二年前に失踪している。既に後釜が添えらているが、あの将軍は残念ながら戦闘向きではない。


 事実上、この国を支えているのはこのイルディエと、今もどこかで戦い続けている他の六大将軍三名のみである。早く六大将軍の空席を埋め、この混沌とした時代を乗り越えなければならない。


 そんな状況にも関わらず、模擬試合にこだわる理由は何なのか。ーーリカルドの意図が読めない。だからイルディエは、誰よりもこの男が嫌いであった。


 ……見るだけでも吐き気がする。



「――ふむ、相変わらずだなイルディエ将軍。お前はこの老いぼれを疎ましく思っているのだろうが、それだけではこの地位は揺るがぬ」


「……」



 沈黙を肯定と受け取り、リカルドは言葉を続ける。



「今さら敬わずともよい。何せ六大将軍は、()()()()()()()()()()()()()()、その上でこの私に反旗を翻してしまった者達。だが、我は寛大である。率直な意見を述べてみるが良い」



 ――この男……


 リカルドの言う通り、二年前のちょうど今頃、イルディエ達は一度リカルドに反乱を起こそうとしている。その圧倒的な武力を持って、リカルドを失脚させる計画を立てていた。


 理由は極めて明白、二年前のあの戦い――死守戦争はこのリカルドが原因で勃発した。この国に白銀の聖騎士しかいなかった、あの最悪のタイミングで。


 ――白銀の聖騎士。


 六代将軍の中でも、彼は特に強かった。


 だからこそ、あの結末が信じられない。信じたくなかった。


 始祖を何とか封印した彼が、行方不明になるなんて。イルディエ達は急いで帰国し、必死に探そうとした。――けど、このリカルドは言った。



『聖騎士の捜索を打ち止めよ。これ以上の捜索は無意味である』



 そう騎士団の前で公言したリカルドに対し、イルディエ達は疑いを隠せなかった。……その理由を探る過程の中で、六代将軍全員は事実を知ってしまった。


 リカルドが始祖を復活させたのだと。


 復活させた理由は今でも分からない。だけどそのせいで、守るべき民が、そして仲間であった聖騎士が――忽然といなくなってしまった。


 せめて仇討ちだけでも、そう考えて行動に移す直前――リカルドはそれを予期した上で、六代将軍全員の前でこう述べた。



『――我は始祖を解き放つ方法を知っている。聖騎士の行いを無駄にしたくなければ、今まで通り英雄を気取るが良い』


 

 と、その立場から有り得ない一言が返ってきた。


 ……悔しいけど、あの時は何も出来なかった。そして今も……。


 これ以上、民の危険を伴う行動は出来ない。――そう考えると、暗殺計画はあまりにも軽率だった。皇帝の不条理な政策方針や前皇帝の暗殺疑惑に不満が募り、その怒りを行動で示す――それはあまりにもリスクが大きいと分かっていたのに。


 そう、その件に関してはそれまでだった。これ以上争うことは出来なかった。


 成す術もなく、この男に従うしかない。


 唯一の悪あがきとしては、ただ反論を示すのみ。――そう、こんな風に。


 イルディエは立ち上がり、本来の強気な目でリカルドを睨む。



「……何が目的か知らないけど、隊長クラスで十分じゃないかしら?模擬試合を見るほど暇なんてないわよ」



 イルディエは冷めた口調に切り替える。


 リカルドはその威勢に満足し、にやりと口端を上げた。皇帝に対してこの口の聞きようであるにも関わらず、リカルドはまるで気にも留めない。



「それではシルヴェリア騎士団に失礼であろう。かの有名な放浪騎士団をお迎えするのに、六大将軍が一人もいなくてどうする?」


「……もう一人、今いる六代将軍の方がおあつらえ向きだと思うけど?」



 もう一人の六代将軍、それを聞いてリカルドは不機嫌になる。



「奴は何かと反抗的だ。前皇帝と懇意にしていたせいか、我に対して常に策略めいた行動を起こしおる。――余は奴を信じられん」


「なら、私は信じられると言いたいのかしら?チャンスが来ればお前を殺そうと思っている、この私を」


「無論。お前は既に反抗の意思を捨て、余の犬と化している。飼い犬に疑念を抱くほど、余もそう忙しくはない」



 まるで挑発するかのように、イルディエを蔑むように告げてくる。


 頭の中で何かが切れる音がしたが、イルディエは何とか自制する。震える右手を左手で押え、怨嗟のこもった瞳をリカルドにぶつける。



「くく、そう睨むでない。それに、模擬試合に参加する意味もちゃんとあるぞ。むしろ、お前にとっては興味深い話だと思うがな」


「何ですって?」



 それを聞いて、イルディエは動揺する。


 その変わりように愉悦を覚えたのか、リカルドは揶揄うような態度を取る。



「――白銀の聖騎士、今でも捜しているのだろう?もしかしたら……見つかるかもしれぬぞ」


「っ……出鱈目を」


「出鱈目などではない。我は一部の騎士団員に命じ、独自に聖騎士の行方を追わせていたのでな。――とうの昔に、奴がどこにいるのかも知っておるわ」


「……まさか、シルヴェリアに聖騎士殿がいると?」


「それは自分の目で確かめると良い。……そのためにどうすべきか、言わずとも分かるだろ?」


「く……!」



 反論しようとするが、言葉には表せなかった。


 イルディエはずっと聖騎士を探していた。このリカルドの発言が嘘だったとしても、わざわざ模擬試合を見る価値はあるかもしれない。


 それほどまでに、イルディエは聖騎士を求めている。友として――そして、



「…………了解、しました。模擬試合の立ち合い、しかと引き受けましょう」



 様々な思いを押し殺し、やっとの勢いでそう口にするイルディエ。


 リカルドはほくそ笑むように微笑んだ。



「それが賢明である。流石は『不死の女王』――そして、我が『飼い犬』だ」



 その言葉を聞き、左手を右手の爪が皮膚に食い込み――僅かな血を垂らす。


 リカルドに対する敗北感を、噛み締める。



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