表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
68/162

ep8 円卓会議 前半


 かくして、円卓会議が始まった。




 稀に見ぬ最強の集いは傍に侍る兵士二名を緊張させ、お茶を汲みに来たメイドを驚かせる。それだけこの者達の集合は異例の事態だ。



 一通り挨拶を済み終えた一同。アリーチェはそれをしっかりと把握した上で、皆に着席するよう求める。



 着席後、アリーチェは重々しく呟く。



「……では始めましょうか。まずは本日の議題を提示した上で議論を重ねていきましょう」



 全員が首肯すると、彼女は会議のテーマ……つまりは議論の中心となる話題を宣言する。




「今回貴方方を集めたのは、他でもありません。――議題は二つ、一つはシールカードと呼ばれる者達について。もう一つは私、アリーチェの婚約について議論致しましょう」




 ――やはりか。



 ゼノスは愚か、その場の皆が納得する議題であった。この国の運命を左右し得る二つは、自然と六大将軍に緊張と不安感を与えてくる。



「――さて、皆も既に存じている事でしょう。我がランドリオ帝国は古の時代から他国の侵略を受け続け、幾多もの困難を乗り越えてきました。……しかし最近ではその秩序が崩壊しようとしています」



 そう、今やランドリオ帝国は存亡の危機に関わっている。



 マルス率いる盗賊のシールカード達は、その類稀なる罠と裏切りによって帝国崩壊の直前まで押し寄せていき、魔王ルードアリアの強襲は事前の対処によって外部への被害は出ていないが……下手をすれば甚大な被害を受けていたに違いない。



「彼等の素性や目的、果たして彼等は『団体』であるのか『個人』なのか?未だ不可解な部分が多いというのが現実です」



「……確かに奴等の情報は少ないけれど、推定出来る部分はあるわ。実際マルスと対峙した私からしてみれば……彼等シールカードはギャンブラーという主によって動かされ、当のギャンブラーも個人的な恨みを以てして強襲していた……団体という可能性は低いのでは無いかしら?」



 発言したのはイルディエである。だがそれに対して、ユスティアラが冷静に反論する。



「しかし、それはあくまでマルス個人の場合。彼が独断専行を行っていたという事も十分有り得る話だ。現にルードアリアの事例では曖昧な点も多々ある……」



 二人の意見にはそれぞれ理解出来る点があるが、やはり抽象的である存在に対しては、憶測で意見を交わすしか無かった。




 ――ある六大将軍を除いては。




「……しっかりせい、六大将軍の名が泣くぞ」



 静かな声音で、しかし重みのある口調で介入してきたのはアルバートであった。彼は腕を組み、六大将軍最高齢としての威厳を改めて発揮させる。



「奴等が徒党を組むなぞ分かりきった事であろうに」



「何故そう言いきれるのかしら?可能性はあるにせよ、これは本格的対策を練らねばならない大事な話し合いよ。……もし明確な根拠があるならば、遠慮なく言って欲しいわね」



「珍しく突っかかってくるのう、イルディエ。……無論、根拠はある」



 そう言って、アルバートは言葉を続ける。



「――いや根拠というよりは、確信じゃな。仮に騎士マルスの行動が独断であったにせよ……奴はランドリオを崩壊の危機にまで追い込んだ。勿論、ルードアリアの一件も同じ事よ」



 彼等の共通の目的、それは破壊と滅亡をランドリオに呼び寄せた事である。



 アルバートは確信する。




「簡単な話じゃて。ミスティカやゼノスの様に、ゲルマニアの様に争いを好まぬ者もいて、互いに結束し合っているのは事実。じゃが、逆説的にも考えられる。――破壊と滅亡を求む者達も、結束し合う可能性がな」




 その言葉に、皆は息を呑む。



 人の真理とは何とも浅はかな物であり、人生経験の長い者はその仕組みをよく存じている。



 そうだ。人は同じ意思の下にて協力し合い、一つの目標に向けて共に進んで行くのが人の定めであり、条理である。



 我等ランドリオ帝国の騎士達が集うのと同じく、彼等シールカードやギャンブラーとて、同じ意思を持った人間であるのは間違いない。



 ――悪の意思を持った者達がいるならば、彼等が組み合う事も有り得ない話では無く……むしろ現実的な考えだと思われる。



 それは確信でも無ければ根拠でも無い。だが彼から放たれる一言は、自然とその場にいる皆に妙な合理的な納得感を与えてしまう。



「儂が言えるのはここまでじゃ。……もし更なる根拠が欲しいならば、そこのホフマンに聞くがいい」



 ふいに向けられた言葉に、ホフマンが感心した表情で呟く。



「……ほお、ほおほお。アルバート殿はよく分かっておられますね、流石は『始原旅団元首長』だけあり、広い視野を持っておられる」



「……ふん、昔の話じゃ。妙な褒めや称えは逆に印象を悪くさせるぞい?」



 アルバートは心底嫌な様子で吐き捨てる。




 ――始原旅団。ここで深く語る事は無いだろうが、その名は全世界に住まう者ならば一度聞いた事ある名称であろう。




 とどのつまり、辺境の草原に住まう部族が一変し、僅か数年もの歳月を経て国滅ぼしの旅団と呼ばれた団体であり、アルバートはその時の首長であった。……だがそれはまた長い物語、アルバートの劇的半生を描いた長い長い話である。



「おっと、これは失礼をば。――ええ、確かに私は根拠たる所以を重々と把握していますとも!神に誓います、我が麗しき姫君に誓います!嗚呼、嗚呼!」



「……五月蠅い、黙れ。貴様は要点のみを語れない愚か者なのか?」



 ホフマンと正反対の性格を持つユスティアラが、やはり予想通り苛立たしい様子で言う。……それはゼノスも同意見であるが、彼女の様に口に出す事は出来なかった。



 だが、ホフマン自身は何食わぬ顔で礼儀正しくお辞儀をし、言葉を続ける。



「――この私、ホフマンは外交や政治方面、財政面に関しては多少の知識があります。…………故に、つい耳にしてしまうのですよ」



 ホフマンは急に立ち上がる。



 自分を自分の両手で抱き締め、何とも迫真な演技で言い捲し立てる。何とも残念な光景であるが……




 彼は驚きの一言を放つ。




「嗚呼、悲しき哉。私と面会した財界の役人も、国王も、その国に立つトップは口々に告げているのですよ!……『我が国を懐柔しようとしている組織がある。――その奇跡が、我々を虜にする』と」




「……奇跡とは何でしょうか?無論、貴方ならば聞いているのでしょう?」



 アリーチェは六大将軍達が神経を尖らせる中、淡々とした口調で問いかける。



 ――嫌な予感がする。



 胸の奥底からざわめく感情は、六大将軍全員に突き付けられる。特にゼノスは、吐き気と悪寒に苛まれる。



「ええ、勿論聞き及んでおります。――奇跡とは即ち、その国が願う事。流行り病に侵された国は奇跡によって安寧を取戻し、戦争で滅亡の危機に立たされた弱小国家は、その奇跡のおかげで無敗の国家と成り立ったとか」



 それは何故か?ホフマンはそう言い足した後、狂喜に満ちた笑みを浮かべる。



「――そう、皆は口々にこう仰るのです。『シールカードを持ちし救世主に、我等は従おう』と。それは個人単体という規模では無く、秘密裏に、しかも広範囲にその傾向は広がっているそうですよ?」



 ……その言葉に、皆はしばし黙り込む。



 シールカードは烏合の衆では無く、統率の取れた組織だというのか?それも綿密に国家と提携し、何を企んでいるのか?



 奇跡とは恐らく、シールカードによる能力を表しているのだろう。全く、散々シールカードの脅威に震えていた者達が、自らの利益を勝ち取った瞬間に囃し立てるか……。



 ――それはともかく、これで事の重大さが大分露わとなった。




「……世界が、シールカードの勢力に加担しているというのかしら?」




 イルディエは額に嫌な汗をたらしつつ、慎重に言葉を紡ぐ。



「そう認識した方が良いじゃろ。――そして、奴らの目的が何なのかも大体予想がつくものよ」



 アルバートも神妙な面持ちで、自分の予想する最悪な予想に恐怖する。如何に強心臓たる彼でも、この未来は余りにも怖くて肝が冷える。



 ……そうだ。もしマルスの様な意思を持った者達がいるならば、彼等は即座にある目的を果たしに来るだろう。





「…………始祖を奪還する為に、ランドリオへと攻めて来るかもしれないと」





 ふいに、今まで口を閉ざしていたゼノスが語る。



 ……シールカードは恐れられている。世界中の人間から忌み嫌われ、あらゆる苦難と絶望を噛み締めてきた。



 彼等の唯一の救いは、母たる始祖を手中に収める事かもしれない。何か引き寄せられる魅力があるのかもしれない。――理屈上では判断出来ないが、自然とそう思ってしまう。



「愚かなり。奴等は世界をも巻き込む戦争を起こそうと言うのか?」



「……一体、始祖の何に惹かれて奪おうとしているのかしら。こんな馬鹿げた真似をするなんて……どうかしているわね」



 まるで正気の沙汰とは思えない、そんなユスティアラとイルディエの意見には賛同し得ない点がある。



 余りにも抽象的な話だが、彼等シールカードが各国のトップを掌握するのには訳があるに違いないが、それが善か悪かは定かでは無い。



 一括りにシールカードと言っても、ゲルマニアの様な心優しく、争いを好まない者もいるのが現状だ。



 ……百聞は一見に如かず。正にゼノス達は、途方も無い証拠無き推定や推論を述べているに過ぎないのだ。



「……ホフマン、他に有力な情報は無いのですか?これでは流石に、シールカードが侵略目的で他国を掌握しているか判断が出来ません」



「ふむ、確かに。………………まあ情報というわけではありませんが、これからそれを突き止める好機はございますよ」



 ホフマンはニヤリと嫌な笑みを浮かべてくる。




「――これは本当に恥ずかしい限りですが、我等ランドリオ貴族の一部もシールカードの誘惑に敗れ、始祖奪還を企てる者もいるようですね」




 その言葉に、アリーチェ以外の全員が怒気を露わにする。



 貴族には国を守ろうとする誇りが無いのか?如何に傍若無人な行為が許されても、それにも限度がある。



「誰かは特定出来たか、ホフマン?」



 ゼノスが問うと、ホフマンは首を横に振る。



「いえ、残念ながら特定は出来ませんでしたね。貴族の秘密主義は伊達では無く、一枚岩ではありません。……しかし、絶好の機会があるではないですか」



 ホフマンはアリーチェを見据える。



「――嗚呼姫君よ、結婚披露宴は忙しくなりますねえ。単なる祝福の儀だけでは無さそうですよ?」



「……そのようですね」



 ゼノス達は事情も知らず、その一連の会話を黙って見送る。



 大体予想はついているが、アリーチェ皇帝陛下自身の口からそれは告げられる。





「……皆さん、ここで次の議題も提示致しましょう、私アリーチェと――ランドリオ大貴族ヘストニス侯爵家の長男、マーシェル・ヴォル・ヘストニス様との婚約披露宴の詳細を……」





 姫は悲しげな口調で宣言する。





 円卓会議は第一の議題を含んだ上で、後半へと移り行く。







1月28日午後12時前後にて、「Black Blave」ep8を投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ