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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
三章 披露宴は亡霊屋敷にて
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ep6 六人の英傑


 円卓の間――ハルディロイ城最上階に設置されたこの部屋は、城内でも至高の美と荘厳さを誇る。



 円卓を取り囲む堀には清らかな水が流れ、立ち並ぶ円柱より先は空色の世界が広がっている。開放的な空間はどこか神話時代の建築様式を思い起こさせ、神秘的な雰囲気を忠実に再現している。




 ……さあ、ここに役者は揃った。




 円卓を囲むのは帝国屈指の騎士達。そしてランドリオ皇帝その人。最重要たる議論を交える場合、常に平等と平穏な進行、決定を重要視する。円卓会議には騎士と皇帝という地位よりも、一人の有力者として扱われる場所である。



 ……ここに集う七人は対等の立場で席へと座す。



 それを見届けた現皇帝、アリーチェは静かに開幕の言葉を紡ぐ。




「よくぞ集ってくれました、我等が同志……天と地を支配する正義を担いし騎士達よ。――我が名はアリーチェ・ルノ・ランドリオ。さあ、皆もその名を口にせよ。本名と異名を共に!」




 決まり文句の言葉に従い、彼等は席を立ち、順々に言う。



「――『白銀の聖騎士』、ゼノス・ディルガーナ。誓いましょう、我が主の為に」



 ゼノスは右拳を胸に当てて宣言する。



「――『残酷なる剣豪』、アマギ・ユスティアラ・レンカ。誓おう、我が国の統率の為に」



 ユスティアラは刀の刃先を天へと掲げ、絶対の約束を呟く。



「――『戦場の鬼』、アルバート・ヴィッテルシュタイン。誓うぞ、我が弱き民の為に」



 アルバートは瞳を閉じ、重々しく告げる。



「――『不死の女王』、モハヌディ・イルディエ・カラ・ハリヌ。誓うわ、我が国に生きる全ての生命の為に」



 イルディエに不敵に微笑みながら、堂々たる宣告を放つ。



 以上は馴染み深き四人の将軍の挨拶。……そして今日、更に二人の六大将軍がその場にて姿を現し、初めて公の場に姿を示す。



 まずは一人、イルディエに続くのは赤髪をオールバックにし、大層な貴族服に身を包んだ若き青年であった。



 彼は何とも爽快な笑みを放ち、高らかに言う。




「――『戦略の貴公子』、ホフマン・ガイ・ノイディクス。嗚呼、誓いますとも!我が麗しき姫君の為に、ここに集う友の為に!」




 芝居がかった調子で言う彼は、これはまた大袈裟に身振り手振りを使いながらそう公言する。



 ……そうか、彼がホフマン。



 ゼノス達は愚か、世界中の者ならば誰もが聞き及ぶ名だろう。



 彼は十九の若さで貴族達の社交場、つまりギャンブル場にて特別待遇栄誉市民として参加を許され、類稀なる知識と勘で巨万の富を得た青年だ。



 平民だった彼はある大貴族に目星を付けられ、後に貴族の称号を受け賜り、その才能は後に軍事的・経済的面において発揮されたそうだ。



 ランドリオは勿論の事、経済に対しても他国から強い圧迫を強いられており、そこにはやはり知略家なる存在が必要だった。……これは英雄譚に似た噂であるが、ホフマンが関わった外交や財政問題は的確な対処によって安定的な方向へと進んでいるらしい。



 ――初対面であるが、ゼノス達はその名を聞いて納得した。武力の面では遥かに劣るが、彼もまたこの国の最重要地位につくに値する存在である。



「おほんっ!……というわけで、前任の『知られざる者』に代わりまして……この才覚溢れた貴公子、ホフマンが座につきました。以後、お見知りおきを」



 キランッ、と眩い光を放った白い歯を見せ、ナイスガイな追言をしてくるホフマン。



 ……何と返事を返せばいいのか、この場にいる全員が戸惑っていた。



「おやっ?おやおや……何を白けているのですか!そのような雰囲気はこの華麗なる舞台には相応しくないですよ!?――さあ、この私にその猛き風格を示して!」



「……姫よ。これが本当にあのホフマンか?」



 ホフマンの隣に座るユスティアラが耳を抑え、心底目障りな様子で問う。



「え、ええ……。そうです…よね?」



 アリーチェが苦笑しながらホフマンに聞く。



 すると彼はバンッと立ち上がり始める。アリーチェ本人はビクッとしながら体を仰け反らせる。




「無論です、我が敬愛せし美姫よ!このホフマン、どれほどこの時を待ち焦がれていた事か!……嗚呼、嗚呼!この三日三晩の苦闘が思い出されます……。幾度も苦しみ、果たしてどれほど耐えてきた事かっ!」




「ぬぅ、分かった。分かったからホフマン、少しは静かにせんか」



 余りにもでかい声に、アルバートも困り果てていた。



 遠回しな表現といい、抒情的な言葉で話を進めるといい……ゼノスから見れば典型的な貴族だなと思う次第であった。まあ、良い意味であるが。



 続いて一同はホフマンからもう一人の六大将軍へと目を向ける。




 いや正確には――三人である。




 ゼノス以外の皆は、その余りにも逸脱した衣装と雰囲気に唖然としていた。




「ねえ父さん~、いつになったら帰れるの?あたし、まだ夏休みの宿題全然終ってないんだけど」




「同感……つか俺、明日打ち上げあるのに、何でまた『異世界』でこんな事すんだよ?」



 円卓に座る最後の六大将軍の後ろに侍る二人の青年と少女。……その恰好は、ゼノスだけが知り得るそれであった。



 少女は紺色のブレザーにチェック柄のスカートを履いており、その手にはしっかりと『スマートフォン』が握られている。人工的に染めた茶髪を弄りながらスマフォに夢中である。……一方の青年も同様の異質さだ。カジュアルな服装は『大学生』らしさを強調しており、この世界の住民から見れば何とも変わった髪型をしている。



 ――そして、円卓の席に座る六大将軍も同じである。



「こ、こらソフィア、ロブ。これは滅多に無い機会なんだぞ!この『異世界近代化計画』を優位に進める会談でもあるんだから!……た、頼む!父さんが前の事業に失敗した事はよく知ってるだろ!?」




 半泣きの状態で後ろの二人に懇願するのは、約三十代前後の男であった。




 この世界に相応しくない濃紺のスーツ姿。着慣れていないのか、赤のネクタイはやや曲がっていて、茶色の髪はボサボサである。ガタイはややアルバートに劣るけれど、他者から見れば圧倒的に大きい。



 まるで死線を幾度も潜り抜けてきた猛者の様な顔つきであるが……かしこまった態度とは明らかに不釣り合いである。



 ……で、だ。



 長々とこの三人の説明をしてきたが、多分これを理解出来るのはゼノスだけであろう。



 ゼノスは顔を巡らせ、皆がやはり困惑している事に気付く。



 ――仕方ないので、ゼノスが助け舟を出してやった。



「……見慣れない恰好だと思うが、この者達の恰好は古代民族が着ていたとされる伝統衣装の一つだ。俺は前にこの恰好をした者達が住む集落に行った事がある」



 冷静に説明するゼノス。



「……私はそんな集落見た事も無いわね。それとも、聖騎士だけが到達出来た秘境の地……なのかしら?」



 う~ん、と唸りながら自分の記憶を辿り始めるイルディエ。いや多分、どんなに模索しても、絶対にここだ!という言葉が出る事は有り得ない。



「え、えっと……失礼ですが、名前を申し上げてくれると」



 アリーチェがそう言うと、スーツ姿の男は焦りながら平謝りをしてくる。



「あ、こいつは申し訳ない!え~異名は特に無いんですが、名前は阿部……いやジハードという者です。はは、どうか宜しくお願いします」



 その男――ジハードはゼノスをチラ見しながら答える。



 ……彼等の正体。語るには長い説明が必要となるが、先程の会話を聞けば事足りる事であろう。





 ――そう、それは今から三十分程前の事である。






 追記1月19日午後11時44分=新作『Black Brave』を投稿いたしました。興味がありましたら、どうぞご覧になって下さい。


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