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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
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ep16 牢獄街


 時はまた現在へと戻る。




 およそ一時間は掛かったであろうロザリーの過去を聞き終えた後、ゼノスとロザリーは少々沈黙していた。



 ……何と言えばいいのだろうか。その経緯が余りにも壮絶で、上手い言葉が見つからない。それ程までに、ロザリーの過去は酷過ぎた。




 店内は食事を終えて帰る人で目立っていき……気付けば静かな話声さえも聞こえなくなった。




 ……ゼノスはすっかり冷めてしまった薬草茶を啜り、脳内で話を一通り整理する。それから衝撃の話に対する感想を口にした。




「あの国でそんな事があったのか……。確かに邪教国家という噂は耐えなかったが、それ関連でアルギナス牢獄連行部隊が動いていたのか」




 ゼノスは二年前のあの日、シルヴェリア騎士団から何の事情も知らされず、ただ団長の命令で門前にて待機していろと言われていた。……まあ騎士団の会議にも参加せず、ずっとすっぽかしていたので、その事実を知らなかったのは当然なのだが。



 ――ライガン国王、及びノルア第一王女の行方。



 ……そうか、やっと話が繋がった。



 何故ロザリーがここまでアルギナス牢獄に拘り、無理やり付いて来たのか?どうしてそんな必死の形相を醸し出しているのかを。



「――ロザリーお前……アルギナス牢獄で父親と姉を探す気なのか?」



 そんな辛い過去があったにも関わらず、それでも過去と向き合おうとするロザリー。



 非常に危険な行いだし、更なる精神的苦痛の展開が待ち受けているかもしれない。ラウメ教信者であるライガン王がルードアリアを崇拝しているとなれば……大体最悪の予想が出来る。



 ――魔王ルードアリアはギルガント王国と精通していて、ロザリーの血族は間違いなく奴の侵略下にあったのだろう。……いや正確には、奴を信仰対象にしていた、だろうか。



 ゼノスが心配なのは、その醜悪なる意志を剥き出しにした家族や民を見て、ロザリーが狂ってしまわないかどうかだ。……これは長年の勘だが、牢獄の地下は凄惨な光景に満ち溢れていると思う。



「……それでも、私は行く。その為に今日まで生きて来たのだから」



 ロザリーは恐れも見せず、堂々とした態度で言う。



 嫌な予感が尽きる事は無いが……かと言って、今のロザリーを抑える事も出来ないだろう。



 ――過去との対決。それが果たしてロザリーにとって吉と出るか、はたまた凶と出るか……今の段階では分からない。



「……ゼノスがそんなに思い悩む必要は無い。これは私自身の問題……貴方に迷惑を掛けさせない」



「いや、そういう事を心配してるんじゃない……。第一ロザリーの話を聞く限り、どうにも気になる点がある」



「……気になる点?」



 そう、ゼノスが悪寒を感じる原因は他にあった。



 ――ライガン王は『シールカード』を手にしていて、啓示と称した声の主はロザリーを殺せと言っていた。



 ……ゼノスはマルスに秘められた記憶を思い起こす。マルスもまた不思議な声を聞き、それと同時にシールカードが舞い降りたという……。ライガン王の一件と妙に一致するのだ。



 そして今回、魔王ルードアリアがシールカードを手にし、こうしてランドリオ王国の新たな脅威となって襲い掛かって来た。



 ――もしも、ライガン王が未だにアルギナス牢獄の地下に囚われており、シールカードを持っていたとするならば…………ロザリーにとって、最悪の真実が待ち受けているのは確かだろう。



「……いや、やっぱり何でもない。根拠の無い話だし……今のは忘れてくれ」



「?」



 だが今この事を彼女に話しても意味が無い。どちらにしても、彼女は真実をその目で垣間見るまでは信用しないだろうし、ゼノスが断言する権利も無い。



 ……しかし、やはり危険過ぎる。



 ゼノスは何とか彼女を踏み止まらせようと、あらゆる口実を画策しようと――



……………………そう思って、いたのだが。






「……………………あ、あれ?」






 嫌な冷や汗をかき、そんなゼノスを不思議そうに見つめるロザリー。



 一方のゼノスはというと……ロザリーの遥か背後にある店の玄関前、そこに仁王立ちし、怒りを露わにしている人物を発見し、恐れ慄いていた。




 組んでいた腕を解き……ゼノスに向かって「こっちに来い」と手招きしてくるのは――――紛れも無い、ゲルマニアであった。




 ラインがしくじったのか、恐らくゲルマニアに脅迫されて店を教えたに違いない……じゃなきゃ、何故彼女がここにいるか説明が付かない。



「あ……あの、ロザリー?ちょ、ちょっと……俺は、これにて失礼するよ。会計は済ませておくから……じゃあまた明日!」



「……ゼノス?」



 慌てふためくゼノスの挙動に対し、初めて見るゼノスの動揺に驚きを隠せないロザリー。彼は青ざめた顔のまま、ロザリーと別れた。






 ――ゼノスはその後、ゲルマニアの明朝にまでわたる説教と、どんな怪物の一撃よりも痛い拳骨を喰らったのだった……。

 



 



















 ――時刻は午後四時前後、ゲルマニアの説教の後に軽く睡眠を摂り、ゼノスはユスティアラ、ゲルマニア、ロザリーと共にアルギナス牢獄へと向かっていた。




 上層部の町を下り続け、その先には巨人の全長以上の高さを誇る壁が広がり、その先にアルギナス牢獄は存在する。壁は牢獄全体を覆う形となっており、壁の内側に入るには一つの大門を潜って行かなければならない。



 ……さて、この場所でどんな事態が起こるのか。ゼノスは嫌な予感を拭い去れぬまま、例の大門前へとやって来た。



「――ッ。これはユスティアラ様、ご足労を掛けます」



 ユスティアラの姿を確認した門前の警備兵達は姿勢を正し、ユスティアラに敬礼を取る。



 彼女は楽にしろ、と手で合図した。



「警備兵よ、事は急を要する。――この門を開け放て」



「ははッ!」



 彼女の威圧的な命令に従い、警備兵の一人はすぐさま上に向かって大きく声を掛け、門を開けるよう指示する。



 どうやら上にいる者達が人力で歯車を回し、その力によって門が開かれる仕組みらしい。……異世界の最先端技術を見てきたゼノスにとっては、何とも古典的なものだと思ってしまう。



 ――扉は徐々に唸りを上げ、開門していく。ゼノスはその間、自分の後ろに付いて来るロザリーを見る。



 昨日はあれで終わってしまったが、ロザリーはそれを気に掛けている様子は無く、ただ沈黙を貫いている。




 ……自分が予想する、最悪の事態が起きなければいいのだが。




 そんな心配をよそに、大門は盛大に開かれる。ゼノス達は敬礼を続ける警備兵の横を過ぎ、壁の内側へと入って行く。




「――ここがアルギナス牢獄、ですか」




 初めて見る牢獄の中に、ゲルマニアは意外だという表情を見せる。






 牢獄の風景――というよりも、これは一種の町に等しかった。






 ゼノスもゲルマニアと同意見である。出店で商売をする人々、それを買いに来る人々……居住する為の家屋も存在している――この光景を一目見て、牢獄だと言う者は恐らくいないだろう。



 ゼノス達が驚愕を示す中、先頭に立っていたユスティアラは後ろを振り向き、自分達に簡単な説明をしてきた。



「――ようこそ、アルギナス牢獄へ。聖騎士共々、この光景に驚くのは無理も無い話だ。……だが無論の事、ここにいる者は全て囚人。罪を課せられた愚か者共の巣窟だよ」



 ユスティアラは牢獄全体を見回しながら、話を続ける。



「ここはアルギナス牢獄でも、軽い刑に処された者が住まう地区。強盗、詐欺、傷害、その他諸々の軽度の罪を侵したものがいる場所だが……我々はただ牢獄に縛るだけでは更生の余地は無いだろうと判断し、こうして一般人と変わらぬ生活を送らせている」



 囚人は確かに罪を侵し、牢獄に閉じ込められるのは当然の報いである。



 しかし無用な犯罪を食い止めるには、牢獄の中で職を与え、経済を築き、釈放された際にその力が発揮され、およそ犯罪から遠ざけようという目論見で行っている。



 ――この世界での犯罪者は、主に貧困者、又は戦争や内乱で職を失った人々が大半を占めている。純粋に罪を重ねる者もいるが、そのような連中は当然の如く重い刑を科せられ、アルギナス地下牢獄へと投獄される。



 こうして自分や家族の為に犯罪を行った囚人は更生の余地有りと判断され、隔離されながらも一般生活を送っているのである。



「へえ……流石は世界最大の牢獄、『牢獄都市』と呼ばれるだけあるな」



 邪教の取り締まりでは容赦無く悪人を捕える一方、貧困等から犯罪へと走った囚人には福祉的措置を施す。ゼノスは聖騎士時代からその施策を知っていたが、実際に見ると、その行いは素晴らしいものだと改めて認識する。



「――で、俺達はこれからどうすればいいんだ?このまま地下牢獄へ赴くのは愚の骨頂だぞ、ユスティアラ」



「無論……そのような真似はせぬ。主な内部状況も何とか取得出来たらしい為、我々はアルギナス牢獄内詰所へと直行する。そこで現場監督兵長である私の部下から状況を報告させ――そして地下牢獄へと潜入する」



 今後の概要に対し、ゼノス一行は素直に首肯する。当然、この事に対して誰も異論を挟む者はいない。



「……それに、ランドリオ本国から二名の客がやって来ていると聞く。ゆったりと話す余裕は無いが、本国側からは必ず面会せよとの通達を受けている」



「客、ですか?」



 ゲルマニアは当然の疑問を投げかける。



 客……このような事態に、一体誰がやって来たと言うのだろうか?ランドリオ本国から派遣されたというからには、相当な重要人物だと思うが……それが一体誰なのかは特定出来ない。



 イルディエは最近ランドリオ近海に出没している大海賊、ワルシャプラの掃討に出向いている最中だし、アルバートは村を荒らし回っている神獣の討伐へと勤しんでいる。他の六大将軍も多忙な身であるし……彼等で無いのは確かである。



 ……何だか別の意味で嫌な予感がするゼノスであった。



「とにかく、実際に行くしかない。我々は強制を強いられていないが、これは必須事項だ」



「……分かった」



 ユスティアラの言う通り、こんな入口付近でいつまでも会話している暇は無いし、まだ見ぬ者にいらん予測を立てる必要も無い。百聞は一見にしかず、という言葉が今は相応しい状況だ。





 ゼノス達は活気溢れる牢獄の町を通り、アルギナス牢獄内詰所へと向かう。







 画像掲載サイト「みてみん」にて、新たに「おまけ①」を掲載しました。勿論白銀の聖騎士に関係するイラストです。

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