表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
47/162

ep15 memory⑪ ―王女の旅立ち―

 


 ロザリーが目を覚ました時、そこはまた暗闇に満ちた世界であった。




 ……あの悲劇の夜と違う所は、そこが村の裏手にある小川の近くであるだけ。他は全く同じ状況であり、ロザリーの隣には小川で釣りをするゼノスが座っていた。



 彼はカンテラを頼りに小川をジッと見つめ、獲物を探していた。……が、ロザリーの起床に気付くと、彼はちらりと彼女を見やる。



「……よう、やっと起きたか」



 そう言って、ゼノスはまた釣り糸に視線を戻す。



「……私は一体」



 言い掛けて、ハッと自分が倒れてしまう迄の経緯を思い出す。



 そうだ、自分はシルヴェリア騎士団の入団試験を受け、あのラインと名乗る青年と戦いを繰り広げ……戦っている内に気絶してしまったんだ。



 ラインが強すぎて、彼の放つ奥義によって倒れ伏してしまった。



 ロザリーは自分の身体を確かめる。……傷はまだ残っているが、その箇所にはしっかりと包帯が施されている。動かしても極度な痛みは感じない為、普通に動かしても大丈夫そうだ。



 ……それはいいが。



 ロザリーはあの戦いで勝利しておらず、互角とも言い難い勝負を繰り広げてしまった。



 結果、こうして無残にも敗れ、やっとの事で起き上がった今であって――




 ……多分自分は、入団試験に……



 だが――その予想と裏腹の答えが返ってきた。






「――合格おめでとう、ロザリー騎士団員」






 ……え。



 彼が言い放ったその一言に、ロザリーは瞠目する。ゼノスへと振り向き、何食わぬゼノスの顔を見つめる。



「……今、何と?」



 ゼノスの言葉が余りにも衝撃であり、ついロザリーは疑問を投げかけてしまう。



「そのままの意味だが?先程の入団試験――満場一致でロザリーの戦いぶりが認められ、見事合格したんだ」



「……」



 ――自分が、合格した。



 圧倒的な差を見せられ、それでも抗い続け……最終的にはその化け物じみた力に成す術も無かったのに……。



 ロザリーは現実味の無い告白をされ、戸惑うしかなかった。



「……まああの戦いを見て、互角とは言えなかったけど……団長はお前の才能を考慮し、これからに期待するって意味で合格を許したらしい」



「……そう、なんだ」



「――それに、ラインにあの夜叉の面を出させたんだ。……本当、大したもんだよ」



 ゼノスは適当に称賛を送り、大きく欠伸をする。



 ……一見全然気にしているように見えない。しかしロザリーから見れば、その挙動は不自然に感じた。



 何だか若干嬉しそうな様子なのは……ロザリーの気のせいだろうか?




 ――いや、多分気のせいでは無いだろう。




 幼少時から人の感情を読み取るのに慣れているせいか、ゼノスの現在の感情が手に取る様に分かってしまう。



 何となくだが……その感情には祝福の意が込められている気がする。



 まるでノルアが傍にいる様な感覚、何気ない優しさが……ロザリーの心を満たしていく。



「……本当、不器用な人」



「む……何だよ唐突に。――てか、いつになったら俺の夜飯は釣れるんだろうなあ……くそ……ラインとリリスの奴等、せっかくの初給料なのに、俺の金で酒を飲みやがって……」



 ゼノスはぶつぶつと文句を言い、ロザリーはその様子を無表情に、しかし心の中では穏やかな気持ちで見守っていた。



 そんなロザリーを横目で見るゼノス。……何だかその視線には様々な感情が込められている様な気がして、ゼノスとしてはあまり落ち着ける状況では無かった。



「……はあ」



 ゼノスは溜息を吐き、釣りを続けても獲物は来ないだろうと悟り、釣竿とバケツを片付ける。



 まあお金も底を尽いているわけでも無いし、無闇に飲み食いをしなければ来月まで持つかもしれない。……それに、ロザリーにこんな醜態を晒し続けるのも嫌だなとは感じていた。



 ロザリーがきょとんとする中、ゼノスはその場から立ち上がり、ロザリーに手を差し伸べる。



「……どうせ魚も釣れないし、入団祝いとして飯屋で何か奢ってやるよ。戦いで腹も減ってるだろうし……立てるか?」



「……うん」



 嗚呼……この人は本当に不器用で、それでいて優しい。



 自分を奮い立たせ、道を作ってくれたゼノス。こうしてシルヴェリア騎士団に入団出来たのも……全て彼のおかげだ。



 ロザリーはその手を握り、自分もまた立ち上がる。



「――あ、待って」



 ふと、そこでロザリーはある疑問が思い浮かび、先を行こうとするゼノスを呼び止める。



 ピタリと彼はその場に止まるが、こちらを振り向く素振りは無い。




「……一つ、聞きたい事があるの」



「何だ?」



「……あのラインと言う男、彼は自分の事を『知られざる者』と呼んでいた」




 知られざる者――そのような異名を持ちながら、その存在を知らないという者はいないだろう。



 なぜなら、知られざる者は六大将軍の一人。――そして、一か月前にランドリオで勃発したという死守戦争以降、消息を絶った一人とも呼ばれている。



 もしラインが六大将軍であり、その者であるならば……更にもう一人、死守戦争にて姿を消した六大将軍も付き添っている筈である。



 ――白銀の聖騎士が。



「……確証も無いし、これは偏見かもしれない」



 ロザリーは……彼に本音を告げる。



 ゼノスにとっては邪魔なものでしかない――その言葉を。




「――貴方は、白銀の……」



「よせよ、ロザリー。……その質問に対する答えは、互いに心を傷付け合うだけだ」




 彼女の言葉を打ち止めさせるゼノス。




 ――ロザリーの言いたい事は大体分かる。それは結局の所、皆が思う当然の疑問なのだから、ゼノスは自然と理解出来る。




 ……察するに、ロザリーは困惑しているのだろう。



 仮にゼノスが白銀の聖騎士だとしたら、何故貴方は『最強』を貫いてきたにも関わらず……そのような弱さを握っているのだ、と。



 世界を知らないロザリー、人間を知らないロザリー。彼女は詩や本で活躍する聖騎士に尊敬を抱き、何の不安や絶望も知らない人間だと認識しているのだろうか?




 ――そんな人間、いるわけが無い。




 現にゼノスは苦悩し、絶望と不安の中で生きている。彼女の幻想を壊す気はないが……これもまた現実である。



「……『あいつ』の時代は、もう終わってるんだ。だからそんな卑怯者には頼らず、お前は自分の力で生きるしかないんだよ」



「……」



 そして、彼はまた歩き始める。



 何の感情も無く、ただただ歩を進めていく。



 ロザリーはその背中に言う言葉が見つからず……彼女もまた、ゼノスの後を付いて行った。















 ロザリー・カラミティ。





 この日を境に、過去の自分を捨て……ノルアと祖国の真実を探る為に旅立って行った。




 先も見えなければ、具体的な道も分からない騎士団での人生。




 ――けれど、自分にはゼノスがいる。ラインという友達もいる。




 彼等のおかげで……今自分は生きていて、こうして歩んでいける。




 ……だがそれ以上に、絶望に暮れるゼノスを見守ろう、この恩を返し続けていこう……そして、ノルアを救おう。そんな感情があったからこそ、自分は前に進めているのかもしれない。







 ――ロザリー・アリエスタ・ギルガントの物語は幕を閉じ――ここに、ロザリー・カラミティの物語が始まったのである。

 


 

 


画像掲載サイト「みてみん」にて、ゼノス(聖騎士ver)を掲載しました。興味がありましたら、どうぞ拝見して見て下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ