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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
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ep14 memory⑩ ―ロザリーVSライン②―

 


 ラインは脇を抑え、ロザリーは身体が技術に付いて行けず、過度な負担が押し寄せて来る。体全体が軋むのを感じ、その綺麗な素顔を歪ませる。




「…………ふふ、ふふふ」




 そんな疲弊をもろともせず、ラインは不気味な笑いを零す。




「……何が可笑しいの。……私を、馬鹿にしているの?」




「――いや、逆だよロザリー。僕は喜んでいるんだ……。この嬉しき出会いにね」




 ラインは最上の笑みを放ち、今この瞬間を最高に楽しみ、この少女に偽りの無い感謝を示す。




「くく……くふふ。全く酷い世界だよねえ……。僕達は好きでこんな力を手にしていない、僕達は好きで戦っていないのに…………分かる、分かるよロザリー。僕らの辿ってきた過去がそうさせてくれないんだよね」




「……」



 この男、ラインは世界に対して怨嗟の嘆きを露わにし、抽象的な言葉をロザリーに投げかけてくる。



 だが言っている意味は……ロザリーも何となくは分かる。



「――君も、ゼノスも……そして僕もまた似た者同士。本当に理解し合える、心の奥底までも見据えてしまえる……そんな仲になれると思わないかい?」



「……」



 ラインの瞳が語る。――自分もまた、悲惨な過去を乗り越えてきた。愛すべき全ては一瞬にして崩れ去り、こうして亡霊の如く……今を彷徨っていると。



 ラインの笑みが語る。自分達は本当にそっくりであり、この気持ちは誰にも知り得ないし、知って欲しくも無い。……ただ三人を除いては。



「……もしここで君が合格したら、僕達三人は良い友達になれるかもしれないねえ。それを想像すると、何とも奇妙な関係だなあと……ついつい笑みが零れてしまうよ」



「……そうかもしれない。――でも、それは早とちり」



 ロザリーは鋭い眼光を放ち、殺気を膨張させる。



 そう、今の自分達は敵同士。



 悠長な考えは通用しない舞台で、今ロザリーは戦いに身を投じている。友人になろうだとか、これから奇妙な関係を築くだろうだとか……そんな事を考える余裕など、今のロザリーにあるわけが無い。



「……ふふ、そうだね」



 それはラインとて同じ事である。一切の気も抜けず、ロザリーという天才に勝つには……少々力を出さないといけない。



 ここで本来の力を使えば、ロザリーの命を保障する事は出来ない。けれども、友人を希望するラインは、せめてもの助言代わりとして――これから酷い戦いに向かう前の洗礼を与えなければと考える。



 ――さあ、もう無用な会話は終いにしようか



 今から繰り広げられる戦闘は、ロザリーが知り得ぬ未到の世界。本物の強者だけが観る事を許される――元六大将軍の実力。そこに余計な会話を挟む事は、例え当事者たる両者でも許されない。






「……ロザリー・カラミティ。僕等の友人となる為にも、今後の死闘を生き延びる為にも――この『知られざる者』の一撃を食い止めてみろ」






 ――そう言って、ラインは腰に吊るしていた『夜叉の面』を手に取り、それを自分の顔に被せる。



 途端――周りの世界が一気に捻じ曲げられたかのような錯覚に襲われ、邪悪な気配がラインの周囲を包み込む。……その異常な光景を見て、さしもの騎士団達も息を呑み、騎士団の中でも弱い存在はその場に膝を付いてしまう。




 ……ロザリーは、あの面が怖くて仕方がない。





 まるで幾千人もの怨念が宿っている様で、対峙する相手の心を闇色へと浸食させるような……そんな禍々しい邪念に満ち溢れている。




 ロザリーの本能が告げる。――あれは見てはいけない、戦ってはいけない。逃げなければ、さもなくば虫けらの様に死んでしまうっ!



 怖い――今のラインが、とてつもなく怖い。



 ……これが、神々の意志に反し、強さだけを求め続けた男の末路なのか。




『――イクヨ』




 先程とは打って変わり、低い声音で呟くライン。



 その両手には何本ものクナイが握られていて、ラインはそれを持った状態で、ロザリーの前から瞬時に消え去る。



 ――音速、光速、神速……どれも当てはまらないスピード。



「……ッ!?」




 速さなど関係も無く、ラインは本当に消え去ったのだ。僅かなブレも見せず、走り去る音さえも起こさず――一瞬にして消失した。







『――影中ノ暗殺術、第六式――《天魔ノ注ギシ血雨》』







 圧倒的な身体能力を見せられた後、遥か頭上から響き渡る呪詛の叫びが聞こえてくる。――それは、彼の持つ奥義の名称である。




 聖騎士流剣術が『光』ならば、ラインの暗殺術は『闇』の技である。轟く音色はどんな魔の者でさえも恐れる。純粋な悪意は、生きとし生ける者全てを混沌へと貶める。それが彼の極めた――『影中の暗殺術』。



 彼はその一端、十から成り立つ奥義の一つを発動する。




 ――天魔の注ぎし地雨。ラインの故郷にて君臨する波洵と呼ばれし魔物の王、その魂を吸い取ったラインは、奴の力をクナイに込め――瘴気を纏ったクナイを天高くから降り注いでいく。




 光への報復、闇の念が朱色の瘴気となってクナイを覆い、クナイの五月雨は容赦なくロザリーへと襲い掛かってくる。




「――ッ!」




 ロザリーは己の限界まで高速移動を繰り返していき、クナイの雨から必死に逃げていく。




 ……だが、天魔の一撃は容赦なくロザリーを掠めていき、避け終えた頃には体中に傷が生じ、ロザリーは立つ事さえもやっとの状態であった。




 ……いや、もはや意識さえも虚ろだった。天魔の瘴気がロザリーの体内へと浸食し始め、全身が激しい痛みによって悲鳴を上げる。




「ぐっ……く……はあっ…はあ……う、ああああっっ!!」




『……』



 そんな苦しそうなロザリーを、夜叉の面を通して見据えるライン。



 さて……ロザリーは耐えられるのか?この圧倒的な洗礼を耐え抜き、その足で、その手で、その精神でまだ立ち向かって来るか?



 第六式の奥義は、かつての異世界で暴れ狂い、その末にこの世界にまで進行し始めた大蛇の主、八岐大蛇をその瘴気の毒で狂わせ――三日三晩苦しみ喘ぎ、その末に絶命させた残酷なる技である。




「う………………」



『……』




 僅かな空白の時間。ロザリーは気絶したのか、もはや苦しむ声さえも出していない。



 ……耐えられなかったか、この一撃に……。ラインは心中でそう思い、同時にニルヴァーナもまたこちらに近付いて来ようとする。




 勝負の終わり。その幕が……






 ――――――いや。






 一刃の刃が、ライン目掛けて飛んでくる。




『――ッ』



 ラインはそれを容易に止める。……そして面を取り外し、狂喜に満ちた笑みを、目の前にて倒れ崩れるロザリーへと向ける。





 ――彼女は生気の無い瞳をこちらに向け、それでも自分の持つ剣を投げ飛ばしたのだった。




 最後の一撃を放ったロザリーは……そのまま完全に意識を失った。





 ……ラインやニルヴァーナはおろか、その場にいる全員が彼女の精神力に驚き、声を発せずにいる。




「…………やっぱ君は凄いね。流石、ゼノスに見込まれただけあるよ」




 これが本当の幕引き。ロザリーは倒れ伏し、ラインも少なからず身体に被害が出ている。だが幸いな事に、ラインは軽傷で、ロザリーも傷自体は左程酷くは無い。




 ――肝心の毒だが、ラインは上手く自分の力を制限させ、毒を瘴気から殆ど抜いた状態で放ったのだ。……命に別状は無いし、毒も自然治癒で回復していくだろう。







 ――こうして、入団試験は終わりを告げた。







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