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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
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ep10 memory⑥ ―さらば、我が故郷よ―



「……う」



 ロザリーは呻きを漏らし、意識を取り戻していく。



 ぼんやりとした感覚は未だ続くが、それでも彼女は目を徐々に開かせていく。自分で今いる場所を知る為にも。



 ――目を開けると、目の前は薄暗い森の中だった。



「……ここは、どこ?」



 深い闇が森を覆っていて、その先は、裸眼では見通す事が出来ない世界が広がっている。一歩進むだけでも躊躇してしまう、そんな闇夜が映し出されていた。



「――ッ」




 そして座り込むロザリーの前に、一人佇む青年がいた。




 彼を前にし、言い知れぬ恐怖がロザリーを襲う。



 また自分を殺そうと企んでいるのか、こんな人気も無い場所で……と、強い猜疑心を込めて言い放つ。



「……だ、れ?」



 恐怖のあまりに、ロザリーは上手く声が出せなかった。だがそれでも声を絞り出し、青年に声を掛ける。



 青年はそれに気付き、ロザリーへと振り向く。





「ああ、起きたか。……ちょっと待ってくれ、今は忙しい所なんでな」





 その声音は――ロザリーとは真逆の呑気なものだった。



 言葉少な目に返答をし、青年はまた視線を正面へと向ける。




 ……訳が分からない。一体どれだけ自分は眠っていたのだろうか。




 ノルアに命令された騎士に抱えられ、眠らされたまでは覚えている。騒動の行方は?城はどうなった?……ノルアは、無事なのか?



 疑問が尽きる事は無かった。突然の出来事はロザリーの思考回路を混乱させ、絶望の波が押し寄せてくる。



 絶望に浸る彼女の前にいる青年も、今では恐怖の対象でしかなかった。



 彼の持つ剣と殺気が、その感情を更に助長させていく。




「――全く。強引にリリスに誘われ、騎士団に入ってみたけど……こんなに面倒な仕事があるなんてな。…………剣なんて、もう使いたくないのに」




 青年は心底嫌そうに剣を睨みつける。ロザリーは何の事情も分からないが……まるで彼は長年の戦いに疲れ、全てを放棄したがっているような……そんな様子に見えた。



 それでも青年は剣を構える。



 彼から湧き出る様々な感情は一瞬にして消し去り、全神経を周りに集中させていく。




「……まあいいか。こういう仕事だって事は大体分かったし……これからは適当にサボって行くかな……」




 愚痴を零しながら、青年は剣を振るう。滑らかに剣の軌跡を描いていき、剣の舞は素早い速さでこなされていく。



 どこまでも鮮やかに、且つ一寸の乱れも無いその動きは……一体何の為に行っているのだろうか?




 ――しかし、その理由はすぐに理解した。




 その場で剣を振るい終えた後――青年は剣を鞘に納める。




「……情けない連中だな。まさか俺の殺気に、身動きさえも取れなくなるとは」




 青年は興味を失い、颯爽と後ろを振り返る。



 ――その瞬間、森の奥から血しぶきの音や悲痛に叫ぶ声が鳴り響いてくる。姿形は闇夜のせいで見えないが……森の奥で何十人もの人が殺されたのは確かだった。



 しかも一瞬にして全員が斬り伏せられたのだろう。断末魔の連鎖は五秒程で鳴り止み、また静寂の森へと返る。






「――聖騎士流剣技、『月下強襲撃』。……姑息な手段でしか殺せぬ貴様等には、闇夜での死がお似合いだよ」






 非道を憎み、悪意を持つ者に死の制裁を喰らわせた青年。どこか優雅なその物腰もさることながら、ロザリーはその剣技に驚愕していた。



 ……信じられないが、先程の青年の動きは、数十人も潜んでいた兵士を斬り倒していた動作だったようだ。直に肉を削ぐ事も無く、しかも最小限に抑えられた動きで……全員を殺した、と見ればいいのだろうか?



 とにもかくにも……その圧倒的強さを前にし、ロザリーは呆気に取られていた。




「――待たせたな、王女様。俺はシルヴェリア騎士団員の一人――ゼノス・ディルガーナ。団長の命により、今からあんたを保護する……いいな?」




 青年――ゼノスは面倒そうに自己紹介をし、自分の使命を簡単に説明する。



 シルヴェリア騎士団……そういえばあの時ロザリーを抱えた男も騎士団を名乗っていた気がする。恐らくその団員、なのだろう。




「あ、あの……ここは一体何処ですか?それと城は……父様や姉様、それに他の方々はどうなったんですか!?」




 なら知っている筈だ、あの大聖堂で起きた事件の末路を。ロザリーは取り乱しながら、彼に答えを求める。



「あ~、そんなに質問されても困る。……てか俺も、そんなに知らないし」



 ゼノスは森を見渡しながら、だるそうに呟く。




「……ここはギルガント王城の裏手に覆い茂る森林地帯だよ。城門前で団長から王女様を引き取って、詳しい事情も分からないまま……今はこうして街道目指して突き進んでいる所だ」




 そう言って、今度はロザリーを両手で抱え、軽々と彼女を持ち上げる。俗に言う、お姫様抱っこというやつだ。



「――てなわけで、城の事情とか、あんたの詳しい経緯は知らないんだ。……変な追求は勘弁してほしいね」



「…………そう、ですか」



 ロザリーは絶望的な表情でそう呟き、以降彼女が口を開く事は無かった。



 自分がどうなるかさえも分からない状態のまま…………彼女はゼノスという青年に抱き抱えられ、城から離れていくのであった。













 ロザリー・アリエスタ・ギルガント第二王女。



 その日、彼女は運命の死から逃れる事となった。



 右も左も分からない未知の世界へと抜け出した所で――シルヴェリア騎士団員、ゼノスによって城から出て行くのであった。



 暗い森を抜けて、人の闊歩がまるで見受けられない夜の街道を歩いて行く。ゼノスは疲れを一切見せず、ロザリーを抱えながら歩き続け――約三時間程で小さな村へと到着した。



 深夜の時間帯故に、勿論外を出歩く村人はいない。だがゼノスにとっては好都合だったらしく、身を潜めながらも、警戒を若干緩めながら目的の場所へと向かっていく。



 目的の場所――それは村の一角にある少々大きめの建物であり、今はシルヴェリア騎士団の本部、宿ともなっている所だ。





 ゼノスはロザリーを連れて中に入り、ロザリーはあてがわれた部屋で休息を取る事となった。





 長かった過去話も、あと二話か三話ほどで終了します。

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