ep5 memory① ―忌み子―
時は今から二十年前へと遡る。
ランドリオ帝国から西海を横断し、その先には『モルボンド』と呼ばれる島大陸が存在する。
そこにはランドリオ帝国より遥かに規模が小さいけれど、モルボンドを統治する国家――ギルガント王国が君臨していた。
ギルガントは主に宗教国家として成り立ち、独自のラウメ教の意向によって政治や経済方針を取り決めていた。……断言は出来ないが、神権政治による国王の絶対王政を展開していたという話も出ていたという。
ラウメ教によって人々の生活は維持され、ラウメ教の教えが全てであるギルガント……どんなに異常な戒律があっても、彼等は常に常識として受け入れる。
……戒律に背けば、恐ろしい結末が待っているからだ。
例えばこんな戒律がある。戒律に従わない者は、それを目撃した者が罰せなければならない。近親者であっても例外は認めない。
――また、こんな戒律もある。
ギルガント王家の血筋は、銀色の髪を持つ者でなければならない。仮に他色の髪を持った子が生まれたとする。――その子は『忌み子』として扱われ、大人になった歳に死を与えなければならない、と。 さもなくば……その忌み子は大人となった歳に災害を引き寄せるだろう、と。
生を持って生まれた人間は、規律によって人生を左右されるのか?希望を持って生きてはいけないのか?
まだ見ぬ可能性を、求めてはいけないのか――
――雷鳴が轟き、激しい豪雨が降り行く中……ロザリー・アリエスタ・ギルガントは生誕した。
甲高い産声と共に産まれ、王家と民に愛されたロザリーは……その数か月後に金色の髪である事が発覚した。
とても美しく、綺麗な金色で。――しかし、王家はそれを許さない。
「……忌み子が産まれるとは。おお神よ、私は約束します。この子が成人した十八の歳――私の手で、この子を殺めると」
国王ライガンは懇願する。
この娘が成人する前に、祖国に災厄が訪れないようにと。我が娘を呪い、抱き締めるその手は、自然と強くなる。
――ここに、生きる事を否定された王女が誕生したのである。
ロザリーは国中の者から否定された。
金髪であるからという理由で、王族から、貴族から、民から、ギルガント王国に住まう全ての人々が彼女を嫌い続けてきた。
「このノロマッ!王族の娘がこれしきも出来ないのかいっ!?」
無理難題のあらゆる作法を数日間で徹底的に叩きつけられ、疲労から集中力が落ちた辺りで、まだ七歳だったロザリーは教育係から頬を叩かれ、お仕置きとして暗い地下室へと閉じ込められた事もあった。
「ほお、これが『忌み子』ですかな?哀れな娘ですなあ、嫌われる為に生まれて来たとは」
社交界や舞踏会があった日には、必ずと言っていいほど貴族達から怨嗟の声を聞かされてきた。
その子供達からはいつも不条理な憎みを買われ、陰湿な虐めがロザリーを襲った。大事なぬいぐるみをボロボロにされ、大好きな本を破られた。
「お前のせいで……ウチの店は不幸続きだよ」
王城へと入ってくる民からも憎しみをぶつけられ、些細な不幸事は全てロザリーのせいにされてきた。
何故?何故私はこんなにも否定されるの?
私は何もしていない――ただ、普通に生きたいだけなのに。
ロザリーは毎日泣いていた。母の子守歌も聞けず、侍女からも嫌煙され、彼女は孤独に枕を濡らす。
声を上げて泣く日もあれば、すすり泣きながらベッドの上で座り込む日もあった。
死にたい――いっその事なら、天国に行ければいいのに。
ロザリーはそう思っていた。僅かに残っている好きな本の中で、主人公の少女が世を儚み、誰にも愛されずに天国へと昇る話がある。その子は天国へと行き、死んだ両親とも会えた。――そう、結果的に幸せになった話を、ロザリーは知っている。
……何度死のうとした事か。食事用の銀ナイフを首に当てたり、五階にある自室から飛び降りようと思ったりと……。
銀ナイフの時は、怖くて失敗した。でも――飛び降りの時は本気だった。




