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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
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ep3 ゼノスの追求



「……というわけだ、ユスティアラ」




 ゼノスが事情を簡単に説明した後、ユスティアラは深いため息をつきながらソファの背によりかかる。その表情はいつもの気難しさを倍増させ、何とも苦い様相を示していた。




「……成程な。下層は迂闊に監視員も配備できないし……かといって、私自身が直接監視する事も不可能だった。状況を掴めなかったが…………とんだ失態を犯したものだな、私は」




 自分が注意を払っていれば、大事にならなかったかもしれない。だがゼノスから見れば、彼女がいてもいなくても……状況は変わらなかっただろう。未だ謎に満ちたシールカード相手に、どう予測を立てれろいうのだろうか?



「後悔はまだ早い、ユスティアラ。これはあくまで予想だが、恐らく魔王は完全にシールカードに受け入れられていないと思う。カードは主を選ぶらしいからな」



 シールカードにも意志が備わっている。騎士のカードであるゲルマニアが正義を求め、占い師のカードがミスティカの様な先見を求めるのと同じく、カードはそれぞれの意志に沿って主を見定めている。



 この事実は道中にゲルマニアから伝えられたものであり、カードが主だと認識すれば、その力は発揮される。



 力さえ備えれば、例え世界一強固な牢獄だと謳われるアルギナスさえも……シールカードの前では脆く崩れるに違いない。



 ミスティカの話では、シールカードの力は着々と増大していると聞いた。だがそれは完全では無く、魔王はカードを掌握しきれていないとも断言していた。



 掌握中の期間――そこが狙い目だ。




「今が好機だよ、ユスティアラ。奴がギャンブラーになる前に叩くんだ」




 ユスティアラはそれを聞き、少々困ったような表情を見せた。



「……しかし、私がここを易々と離れるわけにもいかん。特にこの事態に便乗し、脱獄を図る罪人も現れるかもしれないからな」



 そう、この上層部に備えられた管理区域は脱獄防止の為に存在している。凶悪な罪人がいる手前、最高責任者であるユスティアラが離れるという事は、この管理区域の安全確率を半分以上も減らす事になる。



 さてどうしようか、とゼノスとユスティアラが悩んでいると、ふいに部屋のドアが開け放たれる。

この部屋に、見知った二人の人物が入ってきた。





「なら、ここは僕に任せてくれよユスティアラ」





 開口一番にそう答えてくるのは、全身黒タイツ、首にバンダナを巻き付けたラインであった。もう片方は黒のドレスに身を包み、無愛想な表情を浮かべるロザリーである。



 対するユスティアラはラインを凝視し、その登場に驚きを隠せなかった。




「お前は…………ライン。――お前までもがランドリオへと帰還していたのか」




 ユスティアラは明らかに不機嫌な声音で言い放った。



 (ああ……そうだった)



 ゼノスは彼女とラインの関係を思い出した。



『知られざる者』と評されてきたラインであったが、実はユスティアラだけはラインが六大将軍であった事を知っている。



 二人はゼノスが知り合う以前から見知りだったようだが……異常に仲が悪かった。いや正確に言えば、ユスティアラがラインを一方的に嫌っていた。



 それは今も変わらないらしく、ラインは彼女に対して嫌悪せずに答えていた。



「はは、帰還というよりは…………成り行き、かな?僕もゼノスと同じく、元よりランドリオへは依頼の為に、仕方なく戻ってきただけだからね」



「……そんなの、私にとってはどうでもいい事だ。だがロクに権威を持たないお前に、この場所を容易く預ける事は難しい。――何よりも、六大将軍に戻らないお前を、私は信頼する事が出来ない」



「……相変わらず厳しいねえ、君は」



 ラインとユスティアラは互いを睨み合い、複雑な感情がぶつかり合う。ああ見えて仲間意識の強いユスティアラであるが、彼女は今でも六大将軍の座に戻らないラインに嫌悪しているのか?……その真意は、ゼノスでさえ理解し得ない。



「……ふん、まあいい。今回ばかりは事が事だ。猫の手も借りたい故に、私は一時的にお前を信用しよう。だがもし下手な真似をし、このアルギナスの治安に影響を与えてみろ…………その時は我が刀を以てして、お前の喉元を掻っ切る」



「あ~分かったから、全然信用してないでしょ……もう。というか、それは六大将軍の時からそうだったか……」



 ユスティアラの断固たる拒絶に、優男のラインでさえも困り果てたものだった。何か衝突し合えばユスティアラが愚痴り、ラインがそれを面倒そうに受け止める。最悪の場合は、何回か決闘をしていた時もあった。本当に仲が悪いのだ。



 とにもかくにも、上層の安全管理は一時的にラインへと委ねられた。



「――よし、では最下層へは明日の夕方に出向こう。魔王が相手とならば相応の準備が必要……聖騎士達もそれまで旅の疲れを癒していてくれ。ここまでは強行軍で来たのだろう?」



 その通り。ゼノス達は緊急事態であったから、足の速い馬を使い、寝る間を惜しんで樹海を抜けて平原を突き進んできた。この状態で牢獄へと行っても本来の力は発揮できない。



 ここは焦らず、徹底的に体力回復に努めるべきである。



「そうさせてもらおうかな……って、もう夕飯時じゃないか」



 ゼノスが時計を見ると、時刻は既に午後六時過ぎとなっていた。



 正直、凄く腹が減っている。腹の音も先程から止まらず、昼食吐いた分も食えと要求している。



「夕飯なら会食があるよゼノス。一応ゲルマニアさんがお願いして、ユスティアラと夕食を摂る形にした……らしいけど」



 ラインがまるで先を予測したかの如く、軽く苦笑いをしながら説明する。



 案の上、ゼノスはあっさりと答えた。



「いや、それはキャンセルするよ。俺は……」



 と、言いながらゼノスは席を立ち、無表情のまま立ち尽くすロザリーへと歩み寄り、その肩に手をポンと置く。




「ロザリーと二人で近くの酒場で食べるから。てなわけでライン、ゲルマニアを上手く説得してくれ」



「だと思ったよ!はあ~~~~っ」




 ラインは予想的中により(嫌な予感が)、その場でうずくまってしまう。ロザリーは少々驚いた様子でゼノスを見つめる。



「……なぜ私と二人?」



「そうしたい気分だから、かな。こんな事は何十回もあったじゃないか」



 流石は白銀の聖騎士、とロザリーとラインは胸中で賛辞していた。



 何せユスティアラ自らが執り行う会食なんて、歴史を紐解いても全然存在しない。この世の中で会食を希望する者は数えきれない程いるだろうに、ゼノスはそれを早急に断ったのだ。



 だがユスティアラは不快感を示さないどころか、その態度に満足していた。



「ふ……聖騎士の思惑は理解したぞ。それならば断わる理由に足る」



「分かってくれたようで何よりだ。ささ、ロザリー行こうか」



「あ……う、うん」



 戸惑うロザリーを意にも介さず、そそくさと退出してしまうゼノスとロザリー。




 ……静まり返る室内。




 脱兎の勢いで去りゆく友人を見送ったラインは、頭痛を感じながら呟く。



「……ゲルマニアさん、ああ見えて怖いんだよなあ」



「むう……」



 自由奔放なゼノスを恨むラインと、聖騎士の変わり様に終始悩まされるユスティアラであった。









   
















 夕日も落ち、夜闇が支配する時間帯となった。



 ゼノスとロザリーはいつも通り町の酒場へと行き、酒を飲みながら食事をする――という訳では無かった。



 ロザリーの疑問は更に増すばかりであり、ゼノスは自腹でちゃんとしたレストランへと行こうと言い出したのだ。そしてゼノスは、ロザリーを宿場通りのレストランへと連れて行った。



 雰囲気も酒場とは違い静かで、活気溢れる雰囲気とは正反対である。



 ロザリーはメニューを見ながら、無機質な瞳をゼノスへと向ける。



「……どういうつもり?ここ、結構高い」



 いつも値段を気にするゼノスとは思えない太っ腹さに、疑問を抱くロザリー。一方のゼノスはというと、その事に関しては全然気にも留めていない。



「いやはや、たまにはこんな場所もいいだろ。それに昼間重いもの食い過ぎたせいか、ここの薬草料理が食べたくてな」



「……それだけ?」



「いや、それだけじゃないぞ勿論」



 むしろ、本題はこの後だと言わんばかりに豪語するゼノス。何の意味も無しにユスティアラとの会食を断ったわけでは無い。



「でもその前に腹ごしらえだ。腹が減っては戦は出来ぬ、とはよく言ったものだよ」



「……」



 こうして、ゼノスとロザリーは夕食を摂る事にした。



 ゼノスは薬草料理を中心とし、ロザリーは軽くパスタとサラダを頼み、互いはほぼ無言のまま食べていく。



 何故彼が自分を誘ってきたのか?その理由を何となく理解しつつ、彼が話し出すまで、待つ事にした。



 やがてゼノスが料理を平らげ、食後のお茶を飲んでいる時に、ゼノスは咄嗟にロザリーへと話し掛けてきた。



「はあ、美味かったな」



「……で、本題とは何?その為に私を呼んだんでしょ」



 ゼノスはお茶を啜り、真面目な雰囲気を作る。



「ああ、まあちょいと昔話をしたくて呼んだだけさ」



「……昔話」



 そう、と付けたし、ゼノスは椅子の背もたれに腕を乗せる。幾分か話しやすいのは、騒音が無いせいかもしれない。長話を前提に選ばれたのも頷ける。



 ロザリーが長話と分かった理由は、次の一言を聞いてから悟ったのだ。









「――お前が、『王女様』だった頃の話さ」










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