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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
二章 牢獄都市アルギナス
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ep1 剣豪との面会

 

 アルギナスの上層部、警備部隊本詰所の大隊長室にて、六大将軍ユスティアラに対面する一人の少女騎士がいた。



 少女の名前はゲルマニア、シールカードと呼ばれるカードに封印されている少女であり、現在では白銀の聖騎士の側近兼従者として活躍している。



 ゲルマニアは、厳格な面持ちで佇むユスティアラに一礼する。



「お……おお忙しい中、突然の訪問にもかかわらず面会をき、許可して下さり、ま、まま誠に……その」



「……容易き要望、気にするな」



 無機質な声音で答えるユスティアラ。



 一方でゲルマニアは、高まる緊張に若干声が裏返ってしまい、肝心な挨拶もロクに出来ていなかった。



 ――ほ、本物のユスティアラ様だ……



 目前のユスティアラは、大体二十代前半だろうか。艶やかな長い黒髪に、警備部隊の正装の上に漆黒のマントを羽織っている。切れ長な瞳、真紅の唇、一般女性よりも高い身長である出で立ちは、六大将軍の女性として美しく、尚且つ凛々しさを強調させていた。



 ゲルマニアは高揚感で一杯だった。なぜなら、彼女もまた様々な伝説を残し、人形劇や詩人の歌として語られている。白銀の聖騎士や他の六大将軍と同じく、今や伝説の騎士となりかけている程だからだ。



「ゲルマニア、と言ったか?心を落ち着かせよ、それではまともな会話も成せぬ」



「は、はいっ!」



 尤もな指摘を受け、上擦った返事で返してしまうゲルマニア。



 ユスティアラは盛大に溜息を吐き、ちらりと右横へと視線を移す。



「この状況、理解不能だ。……故に、説明を要求する」



 ゲルマニアは苦笑しつつ、こめかみをヒクつかせる。



 彼女達の視線の先には、部屋隅に備えられたソファに座るゼノスがいた。なぜだか知らないが、腹を押さえながら呻いていた。とてもじゃないが、誰かと話す余裕は無いようだった。



「……何故、聖騎士は苦しんでいる?」



「…………昼食を食べ過ぎた結果です、あれは」



 ゲルマニアの発言により、部屋の中に沈黙が訪れる。



 ゼノスは「う、うう……もう食えない」と呻きながら腹を押さえ、今にも吐きそうな状態である。



決して、一緒に同行してきたラインとロザリーとの大食い競争でああなったとは口が裂けても言えない。不真面目は許せないと評判のユスティアラが事情を聞けば、間違いなくゼノスに斬りかかるだろう。



 ゲルマニアの曖昧な理由に対し、ユスティアラはただ一言――



「……愚かなり」



 旧知の戦友に言い放つ最初の言葉は、とても辛辣なものだった……。












 ゼノスがトイレへと駆け込み、まともに話す事が出来るようになってから数十分が経過した。



 まだ気分が悪い様子だが、ゼノスの表情は幾分か和らいでいた。その様子に安堵したゲルマニアは、自分は他にやる事があると言い、部屋を退室した。



 よって、今この場にいるのはゼノスとユスティアラの二人のみである。



「……久しいな、白銀の聖騎士」



「ああ、久しぶりだなユスティアラ。地獄の番犬ケルベロスを共に討伐した以来じゃないか?」



「否……正確に言うならば、異界より迷いし悪鬼を討伐して以来だ」



 二人が挨拶代わりに話す昔話は、一般論とはかけ離れたものだった。



 そして、こんな事を語るユスティアラは非常に珍しい。部下の間では『冷酷な将軍』と恐れられ、囚人達の間では『アルギナスの死神』として名が通っている。そのせいか、彼女と普通に会話する者はあまりいないのだ。



 通常ならば、彼女がこんなにも語る事はないのだが、ゼノスに対してはそうではなかった。



 恐らくだが、ユスティアラはゼノスを実力者として認識しており、同じ境地に立つ覇者として、つまり何のしがらみも無い状態で話せるのだろう。それに、世界中から恐れられ、尊敬されている彼女にとって、対等に話せるゼノスを案外気に入っているのかもしれない。



 言わば、これが彼女なりの信頼とも解釈できる。



「聖騎士、以前よりも大分変わったな。その外見、出で立ち、雰囲気、波動、どれもが変化している」



「ま、色々とあったんだよ……。この二年間……色々とな」



「……ふむ」



 その意味深な呟きに、ユスティアラはこれ以上追求はしなかった。野暮だという理由もあるが、彼女は現在仕事中の身である。余計な事に時間は裂きたくなかった。その話はまたの機会に……いや、始祖に関する事も聞きたいので、空いている時間にでもまた問おう、ユスティアラはそう思った。



「――それよりも、今回アルギナスに来た理由を話したいんだが」



 ゼノスも同じ意見なようで、今回の件以外の話に深く入る気は無かった。



 余程重大な事なのか、ゼノスは深刻な表情である。



「……聞こうか。聖騎士自身が来たとならば、余程の事態がアルギナスに迫っているのだろう」



 最悪の状況を大体把握出来ているユスティアラに、ゼノスは察しが良いと感心し、さっそく説明に入る事にした。



 ゼノスが彼女に何の報せも送らず、緊急でアルギナスへとやって来た経緯を――。




 再叙任式を経てから三週間が経過した今現在……そう、六大将軍としての事務仕事を片っ端から行っていた時だった。



 突然ゼノスは現ランドリオ帝国皇帝、アリーチェ陛下に召集をかけられ、六大将軍としての復帰初の仕事を賜ったのだ――。






 画像掲載サイト「みてみん」にて、六大将軍ユスティアラのイラストを投稿しました。

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