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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep30 聖騎士ゼノス・ディルガーナ

 

 シールカードの脅威から白銀の聖騎士が救った。もはやこの偉業は三日間で世界中へと広まり、最強騎士の再来を歓喜し、大いに称えられた。


 それから更に二日後の今日、あらかたランドリオの復興作業を一段落させ、ゼノスにとっての一大イベントが執り行われる。



 ――そう、それは再叙任式である。



 シルヴェリア騎士団との契約を終わらせ、晴れてゼノスはランドリオ騎士団の六大将軍として復帰する事になるのだ。


 不安もあれば期待もある。ただ自分の正義を貫く為にゼノスはこの場にいる。


 そんな思いに明け暮れながら、ゼノスは一時間後に待ち受ける再叙任式に備え、ハルディロイ城の控室のソファに座っていた。



「……全く、結局こうなるとは思ってたよ」



 苦言を漏らすのは、つい今さっき部屋に入って来たラインである。今日は全身黒タイツの恰好では無く、式典用の甲冑に身を包んでいた。


 このライン、そして今はいないロザリーだが、二人もまたシルヴェリア騎士団を抜け、ゼノスと同じくランドリオ騎士団へと入団する事になったのだ。まあ、ラインの場合は実際、再入団という形になるのだが。しかし彼はあえて新規入団という形で手続きを済ませたようだ。


「ライン。お偉いさん方との世間話はもういいのか?」


「いや、話をする前に社交場を抜け出してきたよ。六大将軍の頃から慣れなくてね……あ、ここ座ってもいいかな?」


「ああ、いいぞ。丁度俺も、暇を持て余してたしな」


 じゃあ遠慮なくと言って、ラインはゼノスの対面に備えられたソファに腰掛ける。



「……なあライン。お前はもしかして、俺がランドリオに戻るって分かっていたのか?」



 ゼノスの突然の問いに対し、ラインは即答する。



「何となくはね。――ゼノスは正義にどこまでも忠実だし、いくら口で言っても、ランドリオの危機には必ず馳せ参じる。君は昔からそうだったからね」



 さも当然の如く答えるライン。旧知の友はあくまでゼノスの進む道を阻まず、こうしてゼノスの良き理解者となってくれている。ロザリーといい、二人はどこまでもゼノスを支えてくれるものだ。


 だが――


 彼等を動かすモノは一体何なのか?ゼノスの為に相談に乗り、ゼノスの為にシルヴェリア騎士団を辞めてまで行動を共にする。シルヴェリアに入団したのも、元はゼノスが入団したから入ったのであって、二人はどこまでも付いて来る。……その真意は、ゼノスでさえもよく理解出来ない。


「……まあ俺はいいとしてだ。俺は結果的にランドリオ騎士団へと戻り、また陛下の下で忠誠を尽くそうと思う」


 ゼノスは一拍置き、言葉を続けた。


「だが、お前達はどうするんだ?特にライン、お前は……六大将軍に戻るつもりは無いのか?」


「……痛い所を突くね」


 ラインは自嘲めいた笑みを見せる。


 この男は六大将軍の中でも『影の存在』として扱われ、自らが成してきた偉業を語られる事は無かった。――しかし、それでもラインは影なりの役目をしっかりと果たし、本人も充実しているとよく言っていたものだ。


 影の如く誰にも知られず、しかし誰とも接してきたライン。勿論、その正体を隠したままである。ラインはそういった『影』と『光』の面を持ち、帝国に居座ってきた。


 それなのに、何故彼は六大将軍の座に戻ろうとしないのか?


陰りのある瞳から察するに……色々と理由があるに違いない。なので、ラインがどのような返答をするかは大体見当がついていた。


「本当の所、僕やロザリーは迷っているんだよ。今の自分は何者で、何の為に生きているのか?そんな、過去に縛られた亡霊なんだ。――そして恥ずかしい事に、僕等は君という存在が導いてくれると信じちゃっているんだ」


 やはりか、とゼノスは納得せざるを得なかった。


 ゼノスだって、つい最近までは迷走していたのだ。自分は何者になりたいのか?このままでいいのか、と焦燥感を覚えていた。曖昧な返答になるのも無理は無い。


 結論的に言えば、ラインとロザリーはゼノスに頼っているのだ。


 いつか救ってくれる。そう信じて、二人はゼノスと共に歩こうとしている。


「……だから今は、六大将軍の座に戻るつもりは無い。それに、僕の後釜も出来ているようだしね。今更、こんな中途半端な奴が六大将軍になれるわけがない」


 ラインはその事に関して、終始何の感情も見せずに答えた。友であるゼノスにさえも隠す理由――恐らく、これ以上の追求は彼の心に傷を付けてしまうだけだろう。それ程までに……ラインは悩み苦しんでいる、とゼノスは思う。



「そうか……。分かった、これ以上の追求はしない。細かい話は抜きにしようって、一年前に約束したものな」



「そうしてくれると有り難いよ。……でも、いつか打ち明ける。自分の心の整理がついた時には……必ず」



「……ああ」



 それを聞けただけで、ゼノスは納得した。


 彼だって今は悩んでいる時期――きっと、何かがきっかけで話してくれるに違いない、ゼノスはそう確信していた。


「……そうだ。そういえば……はい、これ」


 何か思い出したように、ラインは突如ポケットから一枚の手紙を取り出し、それをゼノスに差し出してきた。


 手に取って差出人の名前を見ると、そこには『シルヴェリア騎士団団長、及び副団長二名より』と書かれていた。


「これは……」


「団長達がランドリオを去る前に渡してきたんだ。全く、直接渡せばいいのにねえ」


 そう、シルヴェリア騎士団は既にランドリオ帝国にいない。昨日出立したと聞いた時は、つれない連中だなと思っていたが……まさかの置手紙である。


 ゼノスは手紙の封を切り、中から二枚の紙を取り出す。



 一枚目には、リリスとサナギからのメッセージが書かれていた。








      我が永遠の上司 ゼノス様へ


 挨拶もせずにランドリオを出立した事、誠に申し訳ありませんわ。ランドリオ騎士団へ戻るかどうか悩みましたが、私は団長と共に行く事に決めました。


 ゼノス様。どうかいつまでも、正義を重んじる騎士であって下さいませ。


 遠い異国で、私達も精一杯見守っていますわ。


 そして、何とか恋も頑張ってみようかと。こ、ここでは明言しませんけど!


 では、またいつか。お元気で。

                                   リリスより











 

     ゼノスへ


 手紙を書くのは苦手なので、手短く済ませる。


 まずお前が白銀の聖騎士だと知って最初は驚いたけど、そんな事はどうでもいい。


 ただ今までサボった分、今度倍にして恩を返せ。それだけだ。


 じゃあ、元気でやれよ。

                                   サナギより










 

 と、まあこんな内容が書かれていたのであった。


 流石騎士だけあって、無駄な文章が省かれており、淡泊な内容で締めくくられていた。……いやそれでも、サナギは余りにも淡泊な気がするが。彼女とは全く話した機会が無かったので、当然と言えば当然か。


 ゼノスは少々微笑み、最後の一枚へと目を向ける。


 だが最後の段落に刻まれた名前を見て、ゼノスの途端に真剣な表情を作る。


 なぜなら、シルヴェリア騎士団団長ニルヴァーナの直筆が書かれていたからだ。











 

 


   我が同志ゼノスへ



 急な依頼が他大陸から入った故、急遽私達は旅立つ事となった。


 だから、今の心情を手紙に書き記そうと思う。余りにも不躾なのは百も承知・・・・・・しかし、どうかこの文章を最後まで見て欲しい。


 さて、お前は前から気付いていたかもしれないが、私は白銀の聖騎士をずっと憎み続けていた。


 ここで詳細を書くつもりはないが、その昔、私は一人の女性を失った。


 名はシルヴェリア――この世で最も美しい竜の少女、そして私と将来を約束したシルヴェリアは、二年前の死守戦争で死んでしまった。


 白銀の聖騎士が彼女を殺したと知った瞬間から、私はお前を恨んでいた。けれども、同時に分かっていたんだ・・・・・・お前を憎んだ所で意味が無いのだと。


 これは後から知った事なのだが、シルヴェリアは始祖の波動に狂わされ、近隣の村を荒らし回っていたらしい。ゼノス、お前は村の人々を守る為に、彼女を殺したのだろう?


 道理としてはそちらが正しい。・・・けれども、長年私は現実逃避をし続けてきたのだ。無我夢中にお前を殺す事だけを考え、それだけを考えて、馬鹿らしい人生を送って来た。


 けれども、私はお前の正義と誇りを直に目にして、目が覚めたよ。


お前は立派な騎士だ。決して罪なき者を無闇に殺そうとしない、私はあの場でようやく理解に至り・・・・・・今までの自分を恥じた。


 これは推測だが・・・シルヴェリアもきっと許してくれていると思う。


 だから、これからも護る者であってほしい。自分を見失わず、ランドリオの守護者として在ってほしい。


 今はお前と話せる程整理がついていないが、私は必ず、必ずお前と向き合い、一言謝る事を約束しよう。近い将来――絶対にだ。



 ・・・そして次に会う時は、良き友人として再会しよう。我が同志――聖騎士ゼノス。


                                    ニルヴァーナより














「……ニルヴァーナ」


 ゼノスは手紙を読み終え、しばし感動の余韻に浸る。


 白銀の聖騎士を憎んでいた。無論、ゼノスはこの事実を以前から知っていた。シルヴェリアの討伐は鮮明に覚えているし、ある種の後悔に暮れていた。


 だがこうして、彼は許してくれている。


 こんなに嬉しい事は他に無い。






 それからゼノスとラインは、叙任式が行われる何分か前まで会話に華を咲かせていた。


 今までの旅路を語らい、これからの在り方を口にし合う内に、叙任式の時間となり、ゼノスはゆっくりと腰を起こした。


 黙って見送るラインを背に、ゼノスの足先は扉へと向く。


 そして、最後に二人は言葉を交わした。


「……さて、そろそろ行くか。直前だとゲルマニアに叱られるだろうしな」


「そうだねえ。でも彼女、この時間から行っても怒りそうな気がするけどね」


「……まあ、そこはあえて考えないようにする」


 その言葉を皮切りに、ゼノスは控室から出て行った。







 途端に静まり返る控室で、ラインは軽く溜息をつく。


 ラインは未来を予測する占い師でも無ければ、人生観を神妙に語る哲学者でも無い。滅多に達観した言い方をしないが、自然と慣れない言葉を口にする。




「――はてさて、これからが試練だよゼノス」




 今はいない友に呟く独り言。


 言い知れない不安と期待が押し寄せてくる。


「……これから先は、今までと勝手が違うんだ。君は騎士としてだけでなく、一人の人間としてランドリオに戻る。そして、シールカードという存在が立ちはだかると思うと……なぜだか分からないけど、更なる悲劇を垣間見る気がしてならない」


 あくまで仮定の話だが、ラインの独白には現実味が備わっている。


 白銀の聖騎士に戻ったからと言って、彼の物語はまだ終わらない。


 むしろ、これからだ。



 聖騎士ゼノスの英雄譚は、まだ続くのである。












 

  


 数え切れないざわめきが聞こえてくる。


皆が待つ謁見の間の扉前にて、ゼノスはゲルマニアと共に佇んでいた。


これからゲルマニアは聖騎士の補佐官となり、彼女と二人で新たな騎士部隊を形成する事になる。今日はゼノスの叙任式でもあり、二人を中心とした騎士部隊が承認される日でもある。



新たな門出、そして――聖騎士の英雄譚に紡がれる続きの一ページでもある。



さあ……そろそろ扉が開門される。


この門をくぐれば、新たな出会いが、宿命が待っている。


「……ゼノス、準備は宜しいですか?」


「ああ、まあ……大丈夫、かな?」


 ゲルマニアは若干緊張した様子で尋ね、ゼノスはそれに対し、悠長に微笑み返す。


「全く……ゼノスはいつも呑気ですね。私なんて……し、しし、心臓がバクバクなのにですよ?」


「駄目だなあ、それじゃ。本当の騎士ってのはな、常に平然としてなきゃ駄目なんだよ。そう、この俺みたいな」


「……いえ、貴方は少々平然通り越してボンヤリとしている気がします」


 それじゃゼノスも駄目ですよ、とゲルマニアが軽口を言ってくる。それがどこまで微笑ましく、ホッと出来る会話であった。



「――では、行きましょう。皆が待っている場所へと」



「そうだな。――行こう、ゲルマニア」



 扉が徐々に開き、その先の眩しい光を頼りに歩みを始める。


 ゲルマニアの能力が解き放たれ、重厚な鎧を身に纏い、赤いマントをなびかせる。強度を皆無にさせる代わりに、ゲルマニア自身は鎧化はしなかった。


 ただ勇ましく歩き続ける聖騎士ゼノスの横に侍り、歓声が沸き上がる中、一緒に扉をくぐっていった。

 






 白銀の聖騎士とゲルマニア。




 二人の物語が、今始まる。

 

 


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