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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep2 皇帝からの依頼(改稿版)



 大通りと直結する路地に入り、露店通りとなっている道をまっすぐ進む。その先にひっそりと、幾分か豪奢な造りの建物があった。


 騎士団一行はその中へと入り、今は一階の会議室に集合している。ゼノスとしてはそのままベッドにダイブしたい気分だが……。


 大きな欠伸をしながら、ふと団長の隣を見やる。


 ――そこには一人の少女騎士が佇んでいた。


 第一印象は……とても堅苦しいイメージだ。もちろんシルヴェリア騎士団の人間ではないが、一体何者なんだろうか。


 ニルヴァーナは全員を確認し終えると、よく通る声で宣言した。



「よし、皆そろったな。ではこれより、このランドリオでの依頼内容を確認する」



 皆は真剣な表情でニルヴァーナを見つめるが、ゼノスに関してはただ茫然としているだけ。いつもの事なので、誰もゼノスを咎める者はいない。……一名、ギロリと睨みつけるサナギだけは除いてだが。


 ニルヴァーナは一拍置き、続ける。



「我らはランドリオでの依頼は初めてだが、生半可な依頼ではないぞ。何せ依頼主は……代理皇帝、直々のものだからな」



 かすかな歓声が響き渡る。だがゼノスだけは違った。


 緩んだ表情から一転、苦虫を噛んだ様な表情を作る。


 ――代理皇帝(あいつ)か。もう嫌な予感しかしないな。


 今、このランドリオには正式な皇帝がいない。……理由は知っているが、考えたくもない。そんなゼノスの心境を知る由もなく、会議は淡々と続く。



「依頼内容についてだが、それに関しては彼女から話した方が早いだろう。よろしく頼む」


「はい」



 隣で静かにしていた少女が凛とした表情で返事する。ニルヴァーナの隣にいる少女だ。


 見た目は凄く綺麗で、通りですれ違えば振り返るほどの美しさかもしれない。長い藍色の髪は後ろで一括りにされ、穏やかな翡翠の瞳はどこまでも透き通っている。鍛え抜かれた騎士とはとても思えない柔肌は、年頃の少女であることを物語っている。


 恰好は重厚な甲冑――ではなく、あくまで急所部分にのみ装着した軽鎧を着込んでいる。後は短いスカートに黒のストッキングを履いていて、所々女の子らしい服装が目立つ。……一介の騎士だと共通の鎧なんだろうが、彼女はそれに該当しないのだろう。事実、六代将軍や配下の隊長クラスは各々自由な恰好だったはずだ。


 年齢の方はおそらく、ゼノスより四、五歳年下といった感じだろう。


 彼女はこほんと咳き込み、居住まいを正す。



「――皆さん初めまして。私はランドリオ帝国、皇女直属部隊所属のゲルマニアと申します。……ああ皆さんの紹介は結構ですよ、事前に調べさせて頂きました。今回の依頼の件でしばらく関わることになりますが、どうぞ宜しくお願い致します」



 少女、ゲルマニアは深くお辞儀し、礼を尽くす。騎士道精神は素晴らしいが、堅苦しい雰囲気が露骨に出ている。


 今のゼノスにとっては苦手な部類だ。



「――今回、シルヴェリア騎士団を雇ったのは他でもありません。強力な敵からある存在を守って頂きたいのです」


「ある存在?」



 それに答えたのは、腕を組み怪訝な表情を浮かべるサナギだった。


 どことなく威圧するような態度だが、ゲルマニアは特に気にした様子もない。淡々と答える。



「はい、あなた方も十分に知っていると思います。ランドリオ帝国主城、ハルディロイ城の地下に封印されたーー()()()()()()()()()を」



 その時、全員の表情が一変した。ランドリオに封印された存在と聞いて、『あれ』以外を想像する者はいないだろう。



『……代理皇帝(あいつ)、正気か?』



 ゼノスは心の中で悪態をつく。


 実際、それを一番よく知っているのはゼノスだ。


 あれは二年前の戦争――『死守戦争』で姿を現した災厄。奴のせいで、世界中に()()()()()()という災厄の種が蒔かれた。


 シールカード――その存在は多くの謎を秘めており、現在明かされている事実はとても少ない。


 分かっていることはまず、それは人間や不思議な力が封印されたカードだということだ。世界には数えきれないほどのカードが存在し、カードに封印された人間は多数いる。


 名のある戦士や魔術師、他にも特殊な能力を持つ人間が封印されているが、中には普通の生活を送っていた、戦う事を知らない人間もいる。


 カードの数はおよそ数百枚にも上ると言われているが、その噂さえ眉唾物だ。


 では、何故そのカードが災厄と呼ばれているのか?理由は簡単だ。


 カードに封印された人間や能力は、『ギャンブラー』と呼ばれる存在によってその力を開花させる。何らかの方法で主従関係を結び、ギャンブラーはカードを兵器として扱うことが出来る。実際問題、カードを駆使した戦争や戦いは各地で繰り広げられている。


 そんな悲劇を生んだのは……紛れもない『あれ』だ。


 皆はそれを理解しているからこそ、緊張を隠せない。



「……ゲルマニアさん、まさかとは思うけど」



 ラインが皆の意見を代弁すると、ゲルマニアは重々しく頷いた。



「ご察しの通りだと思います、ライン殿。この世の中にシールカードという存在を産んだ元凶、災厄をもたらした悪の権化――ランドリオ騎士団はあれを『始祖』と呼んでいます。実は最近、始祖を拉致しようと企むギャンブラーがいるようなのです」


「……そこまで把握しているのか」


「はい、ニルヴァーナ殿。そう断定出来る証拠も持っています」



 ゲルマニアは平静を保ちながら、一週間前に起きた惨劇を語り始めた。


 盗賊のシールカードを所持する者が現れたと知ったのは、今から一週間ほど前。ランドリオ帝国の名門貴族、ガウゼン家の当主が暗殺された事から始まったらしい。


 ガウゼン家は伯爵位の貴族であり、ランドリオ皇家とも密接的な関わりがある家系だ。


 そんなガウゼン家当主は、一週間前の朝方、自室で腹をナイフで突き刺され、絶命した状態で発見されたらしい。それだけでない。当主が突っ伏していた机の上に、一枚の書き置きを見つけたという。内容はこうだ。



『皇族も、奴等を慕う貴族共も、決して許しはしない。必ずや帝国に災厄の花を咲かせ、母とその因子による破滅を呼び起こす。必ずだ。――我は盗賊のシールカードを所持するギャンブラー、帝国を憎む復讐者』



 と、そう書かれていたらしい。


 盗賊のギャンブラーの目的は復讐、そのために母ーーつまり始祖を奪おうとしている。


 わざわざこんな予告状を寄越すとは……よほど腕に自信があるのか、それとも力を過信した馬鹿なのか。どちらにせよ、厄介な事には変わりない。


 相手がギャンブラーである以上、ランドリオ騎士団も全力を尽くすしかない。



「……本当は、我々ランドリオ騎士団だけで解決したいところ。ですが各地のシールカードに関する事件のせいで、主力となる騎士達がいない。……当然、六大将軍もです。なので今回は、彼の有名なシルヴェリアの皆さんにもご協力頂きたいのです。――その名声に見合う結果を期待します」



 そう言ってくるゲルマニアに対し、ニルヴァーナは自信満々に応える。



「勿論だ。かなりリスクの高い依頼だが、これは帝国直々の頼み……武勲を上げるに相応しい機会でもある。さっそくで悪いが、詳細を聞かせてくれないか?」



 その答えを聞いて、ゲルマニアは年頃の少女らしい、柔らかな笑みを見せる。



「はい。早急な対応、感謝致します。詳細についてですが、こちらは代理……いえ、陛下御自身が話すと仰られていました」


「承知した、では早速陛下に謁見しよう。問題はないか、ゲルマニア殿?」


「陛下もすぐに対応すると話されていたので、問題はないかと。玉座までご案内しますね」



 落ち着いた物腰で答えるゲルマニア。まだ年端もいかない少女のはずだが、この対応力は老練な騎士とほぼ同じだ。一体その短い人生の中で、どれほど苦労し、どれほど研鑽して身に着けたものなのか。



『……まあ、俺にとってはどうでもいいことなんだけど』



 それよりも重要なのは――。



「……あーくそ、マジで眠い。会議も終わったしどこかで寝るか」



 ゼノスはさっきから眠気を感じていた。


 というわけで、団員の輪から外れ、二階にあるだろう自室へと行こうとする。


 ……当然、始祖の護衛なんてやるものか。


 やるとすれば、汗水たらして帰ってくるお仲間のために、気の利いた一声をかけてやるくらいか。おかえりなさいとか、今日も頑張ってんじゃん、とか。……まあそんなことを言ったら最後、間違いなくサナギによる半殺しが確定する。いや、冗談抜きで。


 怖い怖い、と背中に寒気を覚えつつ、そそくさと階段を上る。



「おっとそうだ。今回同行する護衛についてだが」



 ニルヴァーナが団員全員を見て、品定めをする。他団員たちは自分が選ばれようと、静かなアピールをしていた。わざと剣の柄頭に手を置いたり、髪を整え始めたり、またある団員は無駄に筋肉を誇張し始めたり。


 ゼノスはふと足を止め、それを階段の途中からふと見やる。


 ……あれ。何故かニルヴァーナと目が合った。


 瞬間、皆もゼノスを見てくる。


 ……待て待て。え?


 ――おい、まさかとは思うが。



「……ゼノス、悪いが強制だ。謁見までは必要ないが、城までの供を頼む」


「えっ、俺ですか?……初めてですね、団長が俺に命令なんて」


 

 その返しに、ニルヴァーナは苦笑しながら答える。



「まあ、な。本音は黙っておくが、建前上の理由は――」


「ゼノス!有難く思うんだな!本来なら今日、お前はここで解雇する予定だったんだ!それを団長とリリスが庇い、今回こそは強制で働かせると約束してきたんだからな!」



 ニルヴァーナの言葉を遮り、金切り声を上げながら言い放ってくるのは――ゼノスのことが大大大嫌いなサナギである。



「けど団長!やっぱり納得いかない!なぜこんな奴に、そのような大任を任せるのですか!責任問題もあるし、あたしかリリスの方がッ!」


「いや、お前達には別件を頼みたい。……いいな、ゼノス。十分後には剣を持って、この宿舎の玄関前に集合だぞ」


「……ぐっ。団長は……お人良しにもほどが」


 

 まだサナギは納得いかないようだが、有無を言わせない雰囲気を感じ取ったのか。これ以上追及しようとはしなかった。


 正直気乗りはしないが、こう皆の前で命令されては流石に逆らえない。そこまで不良騎士を演じるつもりはないし、ここを解雇されたらいよいよ行き場がなくなる。


 深く、ふかーく溜息をつき……昼寝は諦めることにした。


 階段からロザリーを見下ろし、手すりからダルそうに手を伸ばす。



「ロザリ~、悪いが剣を貸してくれ~」


「……うん。というかこれ、元々はゼノスのもの」



 そういってロザリーは腰に掛けていたロングソードを外し、ゼノスに向かって放り投げる。ゼノスは軽々とキャッチし、剣の重みを確かめる。



『――剣とか久しぶり過ぎるな』



 剣を抜き、手入れ具合を確認する。‥‥‥よし、全く問題ない。


 ゼノスは慣れた手つきで腰に帯剣する。「あれ、こいつ意外と剣に慣れている?」みたいな視線を団員達から感じるが、気にしない気にしない。


 簡単な準備を終え、ゼノスは階段を下り始める。



「団長、俺なら今すぐにでも行けますよ。そこのゲルマニアさんを待たせても悪いでしょう」


「……ふっ、上々だ。では行くぞ。他の団員は宿舎で生活する準備を、サナギはリリスから別件を聞き、すぐに行動してくれ」


「……あいよ」



 サナギは睨むようにこちらを見てから、渋々と頷く。一方のリリスは、意味深な表情でこちらの顔を伺うが、すぐにサナギへと向き直る。……とりあえず、これ以上サナギの小言を聞く心配はなさそうか。


 ゼノスはドアの前に佇むゲルマニアに近寄り、さりげなく握手を求める。


 騎士として働く以上、最低限の礼儀は弁える。ゼノスは眠そうな顔をしながら、改めて自己紹介をする。



「シルヴェリア騎士団見習い、ゼノス・ディルガーナです。僅かな時間ですが、宜しくお願いします」


「あ、はい。宜しくお願いしま……。……ッ!?」



 握手をした途端、ゲルマニアは表情を一変させた。これまでの凛とした顔つきを崩し、まじまじとゼノスの手を見てくる。


 そして確かめるように、ゼノスの顔を見やる。



『――何かを感じ取ったか』



 剣を握る者は大抵がごつごつとしている。皮は分厚くなり、強固な手となってくる。洗練されればされるほど、その手はその人物の歴史を語り、培ってきた経験を示してくれる。


 ゼノスの手は……筆舌に尽くしがたい。


 これは真実か、それとも気のせいか。


 多くの戦績を残し、多くの英雄譚を創り上げたような……。ゲルマニアはそんな気がしてならず、余計に混乱を覚えた。


 幻想のように感じながら、ゲルマニアは真剣な瞳を向けてくる。



「……本当に、見習いなのですか?」


「そうですが。――()()()()()()?」


「!いえ、大したことではないのですが。ゼノス殿の手が、その……いえ、やっぱり何でもないです!」



 ゲルマニアは自分がおかしいと思ったのか、早々に宿舎から出ていく。


 他の団員達も首を傾げていたが、すぐに興味は失せた。それぞれが散会し、各々生活準備を進めていく。



「……流石はランドリオ騎士団。いつでも逸材が出てくるな」



 まさかゼノスが聖騎士だとは思っていないだろうけど、彼女は中々の慧眼だ。下手な行動を取ってしまうと……更に怪しまれるかもしれない。


 面倒だけど、出来るだけ下手な行動は慎もう。この因縁の地から早く離れるためにも。



 ――そう思うゼノスであった。



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