ep27 戦地を目指して
新たな決意と力を手に入れたゼノスは、さっそく行動に移る。
村長の家に戻ったゼノスとゲルマニアは屋根上での経緯を話した上で、今すぐハルディロイに向かうことを話した。
「……なるほど、ならば具体的な移動方法をお伝えしなければなりませんね」
「そうだな。……ギャンブラーになれば通れる道があるんだろ?」
「なればというよりも、本来の力を持った貴方様ならば……と言った方が良いでしょう。エトラス村は知っての通り、昔は鉱山の村として栄えておりました。村の外れには今も採掘所の跡があり、このエトラス山脈全体に張り巡らされております」
長老は事前に用意した地図を取り出し、それをテーブルの上に広げる。
インクの霞んだ地図には、採掘所全体の構造が描かれていた。村の入り口から幾重に枝分かれし、その複雑な道を事細かに記述されていた。
「こ、こんなのあったんだ」
ゲルマニアは初めて見たのか、驚いた様子で呟く。
「ふふ、これは先祖代々受け継がれてきた地図だよ。本当ならばゲルマニアに託す予定であったが……っと、今はどうでもいい話ですな。つまりこの採掘所は、色々な場所へと繋がっているのですよ」
「……ということは、ハルディロイの近くにも行けるのか?」
長老は頷く。
「先程確かめてみたのですが、首都ハルディロイの正門付近に抜けられる道があるそうです。恐らく発掘した鉄鉱石を首都に運べるよう、輸入ルートを確保したのでしょう。その道を辿っていけば、ぎりぎり公開処刑には間に合うと思います」
それを聞き、ゼノスはほっと息を吐く。
「――しかしゼノス殿、一つ問題があります」
「問題?」
「ええ、というのもこの道には沢山の魔獣が蔓延っているのです。長年使われていなかったせいか、暗くてジメジメとした空間を好む魔獣が居座ってしまったのでしょう」
長老の言葉に、そりゃそうだろうなとゼノスは思う。
ちなみに魔獣というのは、悪魔が精製した実験物だと言われている。詳しい起源は分からないが、神獣や悪魔よりは遥かに劣る敵だが、人々の生活を邪魔する存在――というのが世間一般の認識だ。
……とはいえ、これが問題か。
長老たちにとっては大問題だろうけど、ゼノスにとってはさしたる問題ではない。しかも今のゼノスにはゲルマニアも付いている。
その様子を見て、長老は一人納得する。
「……まあ、問題は解決済みですな。ならば今すぐご案内いたしましょう」
「それはいいけど、おじいちゃん無理しないでね?」
「おいおい。流石にこんな寒い中案内できるほど、私は若くないよ。――けど安心しなさい。もう案内をしてくれる人たちは呼んである」
村長は「きてくれ」とだけ言い放つ。
すると戸口から、若い青年が四人ほど入ってくる。
そして彼等は開口一番、ゼノスにこう言ってきた。
『お久しぶりです!聖騎士殿!!』
「お、おお……」
突然の出来事に、ゼノスは生返事をする。
見た所、彼等はこの村に住む者達のようだ。ゲルマニアの呆気にとられた表情を見る限り、間違いはないだろう。
しかし一体、何が久し振りなのだろうか。幾ら記憶を探っても、ゼノスはどうしても彼等のことを思い出せなかった。
するとその心情を悟ったのか、一人の青年が気恥ずかしい様子で答える。
「はは……その反応は無理もありません。自分達は昔、この村の付近で聖騎士様に救われた経験があるのですよ。魔獣に襲われていた自分達を、一瞬の間に助けてくれたのです」
「魔獣…………ああ!」
ゼノスはようやく思い出した。
確かに自分は、昔この村の近くで魔獣を討伐した覚えがある。あまりにも一瞬の出来事だった故、すっかり忘れていた。
しかもその時は休憩中で、偶然にもゼノスは兜を脱いでいたのだ。恐らくその時に、彼等はゼノスの素顔を見たのかもしれない。こうしてゼノスが聖騎士だと分かったのも、それが理由だろう。
……さて、それはともかくとして。
ゼノスは長老へと向き直り、再度確認する。
「長老、この四人が案内してくれるんだな?」
「ええ。もちろん採掘所の入り口まででなく、ハルディロイ城下町まで案内いたします」
「それは有り難いけど……危険を承知の上でやってくれるのか?」
青年たちに問うと、彼等は即座に頷く。
「はい!あの日救われた恩を今返したいのです!――聖騎士様とゲルマニアさんが偉業を成す為にも、我々も命を懸けてお助けしますから!」
「…………有難う」
ゼノスは感謝の念を込めて答える。
まだ自分を慕ってくれる者がいる。それだけで、ゼノスの心は満たされていた。一方のゲルマニアは微妙な空気を放っているが、ここで何かを言うつもりはないのだろう。若干目を反らしつつも、事の行方を見守っていた。
こうしてゼノス達は、必要最低限の準備を終えて村を後にした。
腰にロングソードを吊るし、片手にたいまつを持った状態のまま採掘所へと向かう。そう遠くない距離にあると聞いた通り、採掘所の入り口は村から約五分程度の場所にひっそりと佇んでいた。
両脇に豊かな針葉樹林が広がる中、不気味な様相を醸し出していた。
「――それではお二人共、ここから採掘所の中に入ります」
一人の青年の言葉に、ゼノスとゲルマニアは剣を抜く。
ここから先は魔獣の巣窟であり、この案内人たちを守りながら通る必要がある。自然と二人の緊張は高まり、重苦しい空気が辺りを漂う。
――さて、行こうか。
一刻も早く、公開処刑を止めなければならない。
国はもちろん、戦友と―――――我が主君であるアリーチェ様のために。




