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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep21 抗えぬ波動(改稿版)




「何で……何で聖騎士様の剣が……」




 ニルヴァーナと別れ、聖堂二階の回廊でリリスは呟く。



 あれは間違いなく、かつて聖騎士が使っていた神剣リベルタスである。女神より授かり、聖なる力を大いに秘め、どんな邪悪な存在をも滅ぼすとされている。あのような剣は、世界に二本も存在しないだろう。



 ――何故、どうして今になってリベルタスが?



 しかも人間に似た姿を模し、主であるゼノスを探しているように見えた。……ゼノスがこの国に戻って来たから?それともこの国の危機を感じて?リリスの悩みは尽きなかった。



 一人遅れたリリスは皆に合流すべく、玉座の間の扉から遠ざかり、やがて聖堂の二階部分に当たる場所へと戻る。



 ……そこで、リリスは驚愕の光景を目にした。



 何となく一階の聖堂の様子を見ようと、二階の手すりから顔を出して覗いてみたのだが……そこには既に到着していた騎士団一行と――――何十人ものシールカードの死体が転がっていた。聖堂には戦の痕が夥しく残っており、鮮血があちらこちらに飛び散っている。



 凄惨たる光景だ。リリスは急いで一階へと下り、茫然と佇むサナギたちへと近付く。



「――サナギ!これは一体なんですの!?」



 サナギは覇気なく「ああ……」と言った後、考え込むように答える。



「いや、あたしらがやったんじゃないよ。他の誰かがやったんだろうけど……」



「もしそうだとしたら、これは相当の手練れが処理したんだろうね。ほらサナギ副団長、こいつらの傷痕をご覧よ」



 横から割って入ってきたラインが、おもむろに死体達の死痕を指差す。



 よく括目すると、それは確かに手練れの仕業と言ってもいいぐらいであった。奴等は全員首元を掻っ切られており、それ以外の場所には傷一つ残っていない。無駄なく、しかも正確無比な一撃を叩き込まれたというのが分かる。



 しかもこれを見る限り、殺ったのは一人だ。傷の形、傷の深さはどれも一定しており、これを多くの人数がこなすのは有り得ない。



 となると、シルヴェリア騎士団とランドリオ騎士団が束になっても苦戦した相手を、その人間はこうも容易く処理してきたのだ。もはや人間業とは到底思えない。



 百戦錬磨を誇るシルヴェリア騎士団一行も、流石に戦慄を覚えたのだろうか。一同は黙ったまま、この荒れ果てた様子を見つめていた。



 しかし一方で、リリスとロザリー、ラインはある確信を見出していた。



 彼等はここまでの芸当をこなす者を、一人だけ知っている。



 もちろんアルバートとイルディエではない。彼等の獲物は戦斧と槍であり、こんな切傷を作ることは出来ない。剣の使い手で、尚且つ六大将軍と同等の力を有する存在というと――彼しかいないだろう。



 いつもだらけている、ゼノス・ディルガーナだ。




「……ゼノス、ようやくやる気になったんだね」




 ふと、リリスの近くにいたラインは笑みを深めながら呟く。



 その一言に、思わずリリスはハッとする。しばしその言葉を脳裏に反芻させ、彼の放った言葉の意味を理解していく内に……彼女もまた、高揚とした気持ちが込みあがってくる。



 ここ二年間、ずっと堕落していた英雄。かつてリリスが尊敬し、舞い戻って来て欲しいと乞い願った存在。



 ――白銀の聖騎士ゼノスが、再び立ち上がった。



 ……リリスは感激を抑えきれなかった。ふいに涙が零れ落ちてくる。



 人目も憚らず、彼女はゼノスの復活に歓喜した。



「お、おいリリス?おーい……」



 サナギがいくら話しかけても、リリスは振り向こうともしない。聞いていないのではなく、そもそも聞こえてさえいないのだろう。



 当のリリスは、やがて両頬を手で叩き、気合いを入れ直そうとする。ゼノスがこの場所で戦っている以上、当然リリスもそのお側にいなければならない。今は立場上、こちらの方が上だけれど……リリスは今でも、ゼノスの役に立ちたいと思っている。



 そうと決まれば、行動あるのみだ。



 リリスは同じ感情を抱くライン、ロザリーと頷き合い、彼の後を追うことにした。彼を追えば自分達の目的を果たせるかもしれないし、ゼノスという戦力が増えれば余裕を以てこなすことが出来る。そう説得すれば、サナギ達も納得はしてくれるだろう。



 ……と、意気込んでいたその時だった。



 突如聖堂の天井の一部が崩落し、そこから一人の人間が落ちてくる。




 漆黒のマントを全身に包んだ、禍々しい邪気を放つ男が。




「――ほお、彼等以外にここまで来ることが出来たとはな。驚きだよ」



 男は崩れ落ちた天井の瓦礫の上に降り立ち、緊張を走らせる騎士団へと言い放つ。



 間違いない、敵だ。シールカードよりも強大で、そして凶悪な敵だ。



 リリスは先制を図ろうと、腰に差す剣を引き抜こうとする。――が、




 何故か、身体全体が麻痺したように動かなかった。




 まるで全身が脱力したかのような感覚。手と足に全く力が入らず、リリスだけでなく、騎士団全員がその場へと座り込む。



「こ、これは……ッ!」



「ッ……ぐ……ぅ」



「はあ、まいったねえ」



 サナギ、ロザリー、ラインそれぞれもまた驚きを隠せない。サナギは悔しそうに床へと突っ伏し、ロザリーは息を荒げながら苦悶し、ラインは額に汗を垂らしながら呻く。



 一体全体、何が起きっているのか理解できない。



「後は彼と、あのニルヴァーナという男だけか……。ふふ、全く素晴らしい力だ。これさえあれば、始祖様を復活させることも難しいことではない」



 男は高笑いをしながら、リリス達から背を向けていく。



 もし今の言葉が本当ならば、無事なのはゼノスとニルヴァーナだけ?皇帝陛下や皇女殿下、そして六大将軍までもが……奴の手に落ちたというのだろうか?



 こうしてはいられない。すぐに立たないと――



「……くっ、やっぱり動けない」



 どんなに動けと命令しても、身体が言うことを聞いてくれない。



 彼等は指一本も動かせず、それどころか意識さえも曖昧になっていく。こうなった経緯は全然分からないが、一つだけ分かったことがある。



 自分達は敵に敗れ、そして敵に捕らえられたのだと。



 恐らく死ぬことはないだろう。どうしても殺さずに生かしておくかは分からないが、そこまで考える余裕はもはや存在しない。



「ゼ…………ノス……様」



 申し訳ございません。どうやらこのリリス、貴方の役には立てないようです。



 無念と同時に、どうかこの国を救ってくださいという希望を抱きながら――リリスは完全に意識を失った。彼女だけでなく、シルヴェリア騎士団全員もだ。



 ……こうして、今や残ったのはゼノスとニルヴァーナだけである。



 ニルヴァーナが聖騎士の剣と対峙する一方――




 





 ゼノス・ディルガーナは、ゲルマニアと共に円卓の間へと急いでいた。









  






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