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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep1 堕落症の最強騎士(改稿版)

 


 ――ここはランドリオ帝国。皇帝を主権者とする一方、騎士団を中心に軍事的、政治面も含めて方針を決定付けている――言わば騎士国家である。



 ランドリオ帝国の歴史はどの国家よりも古く存在し、建国期の歴史は紙や石碑といった情報媒体で後世に残されていない。


 古の歴史は口伝という形で残され、その結果から歴史研究家は、一万年前の人類創世記の時代に建国されたのではないか、という説を有力視している。


 ……この国の歴史は、正に波乱万丈。


 人類創世記には様々な災厄が巻き起こり、ガイアの大洪水、魔王神による人類侵略、そして創世の神による天罰によって人類の九割が死滅したと言われているが、その中でランドリオが生き残れたのは何故か?


 それは言うまでも無く、『彼等の力』があったからだろう。


 彼等――六大将軍と呼ばれる、皇帝に仕えし騎士団の最高峰達。


 一万年後の現在でも、その地位は健在し、そこに座す者達は多くの伝説を残し続ける。


 古の時代、大洪水から国を守り、魔王神を地獄の底へと封印し、創世の神をも打ち倒したあの時代から……彼等は人々の希望となり、英雄となっていた。


 その力は絶大であり、一人一人の存在は全世界に知れ渡っており、恐怖と尊敬を集めている。


 こうして、ランドリオ帝国は六人の英雄によって安寧を得てきた。


 しかし、現在この国に新たな災厄が舞い起ころうとしている。


 ……因果なものか。その時期に彼、ゼノス・ディルガーナは戻り――あの少女騎士と出会ったのだ。



 
















 ゼノスは重たい瞼と足を何とか動かし、城下町の大通りを歩いていた。


 活気に溢れる大通り。その光景は貿易、娯楽の分野で近年名を馳せた、まさに国の首都に相応わしい賑わいだ。視線を彷徨わせると、他大陸の服装やら人種やらがちらほらと目につく。



「いやあ、久しぶりだねえゼノス。ランドリオに帰ってくるのも二年ぶりだよね?」



 ふと、ゼノスの右隣を歩く一人の青年がほのぼのと呟く。


 黒縁の眼鏡に整えられた黒髪、そして全身黒タイツに赤のバンダナを首にかける、まさにゼノス以上に異質な姿だった。名はライン・アラモード、ゼノスをさっき呼んだ同じ騎士団の仲間である。



「……二人は、ランドリオ出身だったものね」



 今度は左隣からの女性の声。


 普通の女性よりも比較的低めの声色で、平たく言えばダルそうな声、その隠微な声と表情に似合う黒の動きやすいドレスを着飾っている。しかし髪は肩にまで行き届いた金髪であり、異様なコントラストを放っている。


 瞳も澄んだ翡翠色に彩られ、見る者全てを魅了する美しさを放っている。とても放浪騎士団の騎士とは思えない高貴さも醸し出しているが……まあそこは置いておこう。


 微笑んでいればかなりの美少女なのに、これじゃ半減だと思う風貌の少女がそこにいた。


 名前はロザリー・カラミティ、同じく騎士団所属の団員である。


 別に一緒に行動しようなどと言ってはいないが、同い年所以か、はたまた気が合ったのか、寝るとき風呂以外はいつもこの三人で行動している。


 ゼノスは二人の質問に答えるのも面倒だったが、答えなければさらに面倒なので素直に返答した。



「二度と来ないと思ってたんだけどな。あと二年も経ってたか?」



 それに答えたのはラインだった。



「僕も数えてないから大体だけどさ。でも、それぐらいじゃない?」


「まあそうなる……か?」



 ロザリーは呆れたように嘆息する。



「……自分の元いた場所なのに」


「まあ、あまりいい思い出はなかったからなあ。たとえば…………うーん、思い出すのも面倒になってきたなあ」


「……本当、ゼノスは面倒くさがり屋。だから他の団員に馬鹿にされる」



 ロザリーは淡々とした口調で案外失礼なことを言う。これが真実であり、彼女なりの忠告なのだから批判はしないゼノスであった。



「否定はしないけど、俺は汗水流して掃除洗濯をやってるんだけどなあ。それじゃ駄目かねえ」



 ゼノスが不満げに語ると、なぜか二人は静まり返った。


 ――何だ?何か俺おかしいこと言ったかな?


 ゼノスは二人の思惑を理解出来ないといった表情を浮かべる。そんな様子に、ラインは呆れ口調で言う。



「駄目に決まってるでしょう……。騎士団の剣も持たず、挙句の果てに戦闘にも参加しない。掃除洗濯って言い訳で団長命令を無視するなんて、反感を持たれるのも頷けるよ」



 ラインは有りがたい事に、これまでのゼノスの怠惰っぷりを簡潔にまとめてくれた。



「このままじゃ解雇されちゃうよ……本当に。というか、むしろよくここまで解雇されずに済んだよね。団長も何を考えてるんだか」



 そう、ゼノスはここ二年間まともに剣を握った覚えがない。自身は現在騎士団というものに所属しながら、今も腰に剣などはたらしていない。


 確か入団当初に安っぽいロングソードが配給されたが、今はこのロザリーにタダであげた。変わった剣を持っているが、普通の剣も欲しいと言っていたし。


 あともちろん、騎士団にはゼノスの経歴を言っていない。だから元は始祖竜を単独で滅ぼしたとか、その他多くの化け物を倒したとか、そんな英雄譚を公に豪語していない。


 戦場にも赴いていないから、騎士団内でのゼノスの戦闘能力は一般人以下だと思われている。頻繁に弱者と馬鹿にされる毎日なわけだ。


 ゼノスとしてはこれ以上にいい生活はないと思っていた。金は入るし衣食住も困らない、何よりこのランドリオから離れた大陸で仕事が出来る!そう思っていたのだが。


 こうしてランドリオに来た今では、その幸せも台無しだけど。



「……今日はいい天気だし、3人で釣りでもするか」


「ちょっとゼノス、話を逸らさない。あと勝手に抜け出さない」



 わざと命令無視の件から離れようとしたのに、ラインはそれを許してはくれなかった。……相変わらず頭の固い奴だ。


 ゼノスは内心でそう愚痴を入れていると、ふと周りの視線が気になり始めた。


 さっきからジロジロと見る人間が多い。ゼノスに対して、ではなく、シルヴェリア騎士団全体を見ているのか。その中でも注目を浴びているのは……言うまでもない。



「きゃああああ!ニルヴァーナ様っ、こっち向いてえ!」


「す、すげえ。この目でリリスを見れるとは!」


「おい見ろよ、サナギもいるぞ!」



 やっぱり、とゼノスは納得した。


 このシルヴェリア騎士団は世界中を放浪し、多くの国々に雇われていた。個々の能力は突出し、多くの偉業をこなしている。


 だから必然的に、その噂はランドリオにも広まっているようだ。特にあの3人は。


 まずはシルヴェリア騎士団団長、ニルヴァーナ・エロルド。若干二十六歳で、しかもイケメン。総合的にカリスマ性を見せている彼は、今最も拍手喝采を浴びている男だ。


 次にニルヴァーナの後ろを歩く二人の女性。


 一人は肩までたらしたセミロングの金髪に、重厚な鎧にマントをつけている。彼女は副団長のリリスだ。


 そしてもう一人。紅の短髪に、身軽で露出の高い鎧を着ているのは騎士サナギという。性格はかなり横暴だが、その戦闘能力は団長ニルヴァーナを遥かに凌駕する。実際、これまでの難敵はほぼサナギが倒していたりする。


 どちらもその戦場での異常な活躍と、その美貌で有名となっている。



「あーあ、相変わらず三人の評判はすごいね。特に団長の女性ファンの多さと来たら。これは間違いなく後でリリスさんとサナギさんの三人による痴話喧嘩が始まるね」


「……団長、すごいモテモテ。ねえ、ゼノス?」



 ロザリーはまた抑揚のない声でゼノスに振り向く。



「まあ、いいんじゃないか?俺たちは物語でいう脇役、ギャルゲ―で言うのなら生徒その一、というところだから考えなくていいんだ」


「……ぎゃるげー……何それ?」



 ああしまった、とゼノスは少々後悔した。


 恋愛ゲームっていうのは聖騎士の頃に異世界へ行ったときにやった遊びである。これを知る奴はゼノスしかいない。知ってたら、間違いなくゼノスと同じくあの馬鹿でかい竜帝と戦ったということだ。


 竜帝本人曰く、人間と戦ったのはゼノスで初めてだと断言していたので、人間である誰かが奴と死闘を繰り広げたという可能性はゼロに等しいだろう。


 ゼノスはこほんと場を執り成し、続ける。



「まあとにかく、俺達が感化しなくともいいんだよ、それは。俺達見習いは、洗濯し、掃除し、昼寝し、飯食ってればいいの」


「……やっぱり、戦うことは考えてないんだね」



 珍しくロザリーは残念そうな表情で嘆息する。


 途方もない内容の会話をしながら、ゼノス達は歓声の中を闊歩するのであった。



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