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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
六章 帝国の眠り
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(第一週)ep9 仲直り




「うぅ……足が痛い」




 ゲルマニアは疲弊し切っているのか、半ば足を引き摺るように歩きながら、ハルディロイ城へと帰って来た。



 夜の帳は下り、城下町にも明かりが灯り始める。住宅街には微かな光が、そして商業区は眩い程の光で包み込まれている。



 『帝国の眠り』の期間中、城下町では様々な催しが開かれていると聞く。それは朝昼だけでなく、夜も例外ではない。今も商業区内で何かが行われているのか、昼間以上の活気に満ちている。



 ――だが、ゲルマニアは浮かれる余裕もなかった。



 先程、ゼノスを探して貧困街へと足を運んだが、ゼノスの姿は見えず、結局闇雲に城下町中を歩き続ける羽目になったのだ。幾ら体力に自信があるとはいえ、流石にあの街中を歩くのは骨が折れる。



 今はとにかく休みたい。



 それが彼女の本音であり、その意思に従うかのように、足は庭園の休憩場へと歩を進める。



 庭園は静けさを放っており、人影すら見受けられない。しかし今のゲルマニアにとっては好都合である。



 薔薇に彩られた石畳の道を闊歩し、ゲルマニアは庭園の端へと辿り着く。そこは昼間でも人気が少ない場所であり、城下町が一望できる見晴の良い休息場でもある。



 故にここは風通しも良く、少し強めの風がゲルマニアの身体を通り過ぎる。風は轟々と吹き、最下の城下町へと流れ行く。



 ……ゲルマニアは溜息をつき、近くに備えられたベンチへと腰掛ける。



 そして手に持っていた茶色の紙袋から、何個かのパンを取り出す。



 これが、今日の夕食である。



「はあ……また謝れなかったなあ」



 ゲルマニアは誰に言うでもなく、独りでに呟く。



 これ以上こんな関係を続けたくない。元はと言えば些細なことから始まったわけであり、正直、馬鹿馬鹿しく思う。



 しかし不安はより一層増すばかりで、パンを手に取ったまま、ゲルマニアは虚空を眺め始めた。



 ―――――――――――コツン。



「いたッ」



 ふいに、誰かがゲルマニアの後頭部を小突く。



 そんなに痛くはなかったが、その衝撃に彼女は焦って後ろを振り向く。



 ――そこには、夢にまで見た人物がいた。




「何だ、ここにいたのか。探したよ」




 彼――ゼノスは飄々とした態度でそう言い、怠そうな仕草のままゲルマニアの隣へと座る。



 ……心臓が高鳴る。



 あまりにも突然な出来事に、ゲルマニアは返す言葉さえ見つからなかった。外は冷え冷えとしているにも関わらず、顔面が次第に熱くなっていく。



 どうしよう、何て答えよう。



 もう覚悟は出来ていたのに、一歩踏み出せないでいる。こんな調子では駄目だと分かっているのに……。



「あー……その、何だ。今更ではあるんだが、ちょっと言いたい事がある」



「……はい」



 二人は歯切れの悪い口調のまま、一生懸命言葉を紡ぐ。



「パステノンにいた時の件だけど…………すまなかった。ゲルマニアは心配して言ってくれてたのに……どうかしていた」



「いえ、私も短絡的でした。ゼノスは必死に戦っているのに、その気持ちを汲むことさえ出来ませんでしたし……。ごめんなさい」



 二人は向き合い、そして同時に深く頭を下げた。



 そう、同時にだ。



 あまりにも息がぴったりだったので、互いに見つめ合い――くすりと笑う。



「ふふ、ゼノスも同じ気持ちだったんですね」



「そりゃまあ、俺も人間だし。あんなことになったら、どれだけ英雄と称えられた奴でも気落ちするさ」



 結局、二人の複雑な想像は杞憂に過ぎなかった。



 例えどんないざこざがあっても、彼等の関係が根本から崩れる事は有り得ない。それほど強固な信頼関係を築いており、それを改めて自覚した。



 深い安堵に包まれる中、ゲルマニアは持っていたパンを袋の中に戻し、爛々と輝く城下町を見下ろす。



「……ねえゼノス。もうこれ以上の我儘を言うつもりはないけど、絶対に無茶だけはしないで下さいね。貴方が死んだら、それこそ多くの人間が悲しむ。特に身近にいる人達は……余計に悲しむ」



「分かっている。今は一人で戦っているわけじゃないし、大変な時は仲間を頼る」



「それを聞いて安心しました」



 ゲルマニアは静かに微笑む。




 ――しかし、それは現実的とは言えない。




 仲間を頼るとは言ったが、ゼノスにとって戦場で頼れる者は六大将軍とゲルマニアだけだ。これから来る敵を考えると、どうしても孤独に戦う場面は出てくるに違いない。



 このランドリオ帝国の騎士である以上、それは避けられない運命である。



 ゼノスは分かっている上で、そう約束を交わした。不安で押し潰されそうなゲルマニアを守る為に、彼女を安心させる為に。



 ――何故そう思うのかは、定かではない。



「……あれ、そういえばゼノス。さっきから顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」



「顔?……あ、本当だ」



 ゲルマニアに指摘され、ゼノスは初めて自分の顔が熱くなっている事に気付く。



「もしかして……風邪でしょうか」



「風邪?まさかそれは有り得ないだろう」



 先程の重苦しい雰囲気とは打って代わり、二人は何気ない会話を始める。



 関係は元に戻った――と言っていいのだろうか?







 二人はしばらく、その場で談笑をしていた。








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