表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
六章 帝国の眠り
156/162

(第一週)ep4 華麗なる余興




 ひとまずゼノス達は席へと案内され、飲み物を頼む事にした。




 ゼノスは渋い苦みの効いたサバ茶を、そしてラヤは砂糖入りのミルクを頼む。どちらも冷たいため、乾いた喉に確かな清涼感をもたらしてくれた。



「ぷっはーッ!今日は暑いから美味く感じるよ~!」



「そりゃ確かに。まだ冬の終わり頃なんだが、今日は夏並みだな……」



 この世界には『百葉箱』なんていう代物がないので気温は計れないが、体感温度から察するに……二十八から三十度あたりか。



 公園は木々に覆われているため暑さが幾分か和らいでいるが、町の方は強い日差しに照らされ、南国にも似た空気を漂わせている。



 道行く人々も上着を脱いでいたし、かくいうゼノスもジャケットの裾を巻いている状態だ。ラヤは……まあいつも通り、大きく胸の空いた上着を羽織り(デニム製に似ている)、下は淑女とは程遠いハイレグ式のパンツであるが。



 そんなわけで、今日は特段に暑い。



 二人は額に汗を浮かべながら、コンテストまで静かに待とうとしたが――



「……そういえば」



「ん?」



 図らずも、ラヤが話しかけてくる。



 特に重要そうな話ではないのか、軽い調子で続けてくる。



「何で六大将軍たちはゼノス将軍を起こそうとしたんだろ?それも全員で」



「あ~……そういえばそうだったな」



 別に何も考えていたわけではなかったが、ラヤにそう言われると気になるところだ。



 何か危険な事態が起きたのか?――いや、それはないだろう。



 アルバートやイルディエの態度から察するに、まずランドリオの危機に関することではない。



 もっと他のことに違いないが……何だろうか?



「お!分かった!」



 飲み干したミルクの瓶を置きながら、ラヤが叫ぶ。



「きっと皆で遊ぼうと思ったんだよ!」



「はい?」



 遊ぶって、仮にもランドリオ帝国の準トップたちなんだが。



 それに分かっていると思うが、一人一人の年齢がバラバラだ。ゼノスとイルディエは一個違いであるが、ユスティアラは23歳、ホフマンは27歳、アルバートなんて60歳以上の爺さんだ。



 ジハードに至っては軽く千歳以上を超えているが……まあそこは深く追求しないでおこう。



 とにもかくにも、それぞれ遊びの趣向というものが違うはずだ。



「……それはまずないな」



「えーどうしてだよ?だって将軍たち、いつも一緒にいるじゃん?普通の将軍同士は地位争いとか結構いがみ合いが多いはずだし。でも将軍たちにはそういうのないわけだし?」



「それで遊ぶ仲というわけか?ないない。それに遊んでばっかいたら、誰が神獣や敵対勢力からランドリオを守ってるんだ?」



「あ、そっか……って、敵対勢力に対してはあたし達も頑張ってるんだけど」



 結構いい線いってたと思うんだけどなあ、とぼやきつつ、まだ納得がいっていないように思案し始める。



 悩んでも仕方ないように思うが、これで静かになるのは幸いだ。



 ゼノスは椅子の背もたれに身を預け、軽く仮眠を取ろうとするが――またまたそうもいかなかった。




「――あ!本当だ、本当に来てる!ゼノス様~!」




 のんびりと寛ごうとしたその時、後ろから声を掛けられる。



 声に聞き覚えがあったので、大体誰かは分かっていた。



 その少女――カルナはゼノス達の席に到着すると、可愛らしいウェイトレス用のドレスをなびかせ、頭を下げてくる。



「その、先日はお世話になりました!ジョナとルルリエを助けただけでなく、私の故郷を救ってくれて……ッ!」



「あ~後者に関してはアルバートに言ってくれ。俺は今回ほとんど何もしてないしな。……にしてもカルナ、もうランドリオに戻って大丈夫なのか?」



 聞く所によると、ジーハイルは国王代理として政務に尽力を注いでいる最中だ。サザリアは流石に孤児院の子供達が心配らしく、ジーハイルが落ち着くまでパステノンに滞在しているらしいが……カルナもいた方がいいのではないのだろうか?



 ゼノスの心配を察したのか、カルナは曖昧に笑みを浮かべる。



「まあ、私もサザリアの手伝いをすると言ったのですがね……。『こっちの心配をするぐらいなら、店の心配をしておくれ』って言われちゃったんです。だから不安ではありますが、こうして戻って来たというわけで」



「そうか……。何か心配事があったら言ってくれ。俺とイルディエだったら大抵のことなら手伝えると思うし」



 そう言うと、カルナは感極まった様子で頷く。



「は、はい!有難うございます!」



 ぺこぺこと何度も頭を下げた後、彼女は頬を赤らめながらカウンター裏へと立ち去っていく。



 それとカルナが去る前に言い残していたが、アリーチェは客に出す料理を作り終えてからこちらに来るらしい。……ウェイトレスだけではなく、料理人としても働いているのか。



  ――そして三分ぐらいが経った後。



 ラヤと適当に会話をしていると、情熱的なアコースティックギターの音色が響き渡る。



 そろそろ始まるのか、舞台となる切り株の上に一人の踊り手が参上する。




 ――イルディエだ。




 彼女は湖上を舞う妖精のように一回転し、一寸もずれることなく、完璧な姿勢でお辞儀をする。



 途端、観客席から爆発的に歓声が上がる。



 彼女――イルディエは六大将軍。それと同時に、世界的に有名なダンサーの一人でもある。踊りが好きな彼等にとって、イルディエのダンスは信仰の対象でもあるのだろう。



 激しい歓声は止む事を知らない。



 だが、イルディエはそれを簡単に止める。



 彼女が右手を上げ、左足を前に出す事によって――一斉に鳴り止む。



 そう、踊りが始まろうとしているのだ。



 彼女から沸き起こる情動が観客たちにも伝わってくる。今、彼女と彼等は一つになろうとしている。




 一瞬の静寂――――そして、始まり。




 コンガのような打楽器が軽快なリズムを作り、マラカスのようなものが一定の音を生み出す。そしてギターが主旋律を奏で、異世界でいう情熱的な『ラテン音楽』を演奏する。



 ――早い。しかしイルディエは、苦戦することなく華麗に舞う。



 心躍るリズム、それに乗って踊り狂う。



 時にはゆっくりと、そして時には激しく。



 アステナの民は踊るために生き、踊るために死んでいく。



 言わば踊りこそが生き甲斐であり、そこに理由など存在しない。



 だからこそ――彼女は活き活きとしている。



 アステナの民であった時も、奴隷だった時も、そして今も――それは変わらない。




「……素晴らしい踊りですね」




 と、ゼノスが踊りに見入っていた時。



 いつの間にか隣の席に座っていたアリーチェが、微かな微笑みを浮かべながら言ってきた。



「あ……申し訳ありません。ついイルディエのダンスに夢中になってて」



「いいのですよ、それは私も同じですから」



 そう言って、アリーチェは眩しそうにイルディエを見据える。



「――彼女の過去がそうさせているのでしょうか。まるで怒りも、悲しみも、喜びも、その全ての感情を込めて踊っているような……そんな気がします」



「……」



 まるで彼女の過去を知っているのか如く、アリーチェは達観とした言葉を言い放つ。



 ああ、そうだ。



 彼女はヴァルディカ離宮で、六大将軍全ての過去を垣間見てきた。



 知っているのは当然、だからこそアリーチェは、全てを悟っているかのように話す。



 やはりそこには、皇女だった頃の面影は存在しない。



 あらゆるものを慈しむ皇帝陛下が、ゼノスの隣に座っていた。



「……あの、アリーチェ様」



「ゼノス、話は後にしましょう。今はこの最高の一時を、私に味わせて下さいな」



「ッ!はッ……承知しました」



 そう言い返されては言葉もない。









 彼女の命に従い、この余興を最後まで堪能することにした。









 


※tuwitter始めました!→https://twitter.com/jougitte0491

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ