表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
四章 オアシスの踊り姫
119/162

ep18 初代聖騎士の正体




 夢か幻か……いや、この際どうでも良い疑問だろう。




 現にゼノスは、この世界を肌で感じている。全てが色鮮やかに体現され、吹き抜ける風も頬を撫でる。全てが忠実に再現される等、幻想世界では有り得ない事だ。




 ――そして勿論、押し寄せる聖騎士達の波動も。




 かつてないほど、ゼノスはその身を震わせる。特に、カスタリエと名乗る二代目聖騎士に関しては、その姿を見ただけで軽い眩暈が生じてしまう。



 これが魔王神を封じた聖騎士。可憐な見た目とは裏腹に、底知れない力を秘めている。



 恐ろしくて……とても怖い。



『もう、そんなに怯える事はないのに。血族ではないけれど、私と貴方は家族も同然、同じ宿命に生きる仲間です。命を取るような愚行には走りませんよ』



「そ、そんな事は分かってる。俺が感じているのは、カスタリエ自身の純粋な覇気。これが殺気じゃないのは百も承知だ」



『ふふ、なるほど。ならもう平気ですよね?』



 ゼノスは、「ああ」と短く答え、心を落ち着かせる。



 恐れもそうだが、彼女は創世記に生きた伝説の英雄だ。何度もガイアから御伽話として英雄譚を聞かされ、何度もその活躍に酔いしれた。言わば憧れの対象であり、自然と緊張してしまうのだ。



 ようやく平静を取り戻したゼノスは、正面からカスタリエと見つめ合う。



「……まずは説明してほしい。俺がこの場に来れた所以を。言っとくが、俺はわけも分からないままここに飛ばされて来たからな」



 自分はマグマに落ちるイルディエを救う為、自らの命を張ってマグマへと落ちた。それから意識を失う直前、不死鳥と名乗る者の囁きが聞こえ、気が付けばこのような場所にいたのだ。



 カスタリエはしばし沈黙した後、天空を見仰ぐ。



『簡単な話です。貴方は運命に導かれ、不死鳥という仲介人の手により参った。この一連の出来事は、ここにいる聖騎士達も体験済みです』



「……そうか。なら俺は、今から聖騎士になれるのか?」



『……聖騎士たる加護を与える前に、もう一度聖騎士の責務について問いましょう。よろしいですね』



 カスタリエは有無を言わせぬまま、責務とやらを問い直す。それは歴代聖騎士達は愚か、ゼノスも何となく把握し、あの言葉を思い出す。



 遠い過去にて聞いた、ガイアの苦言を。




『――ゼノス・ディルガーナ。聖騎士はその時世にて活躍する正義の救済者。しかしそれは表向きの言われであり、実際は違う。それは――』




「それは初代聖騎士の過ちを清算する為に……だろ?」



 カスタリエは瞠目し、やがて唇を噛む。



『……ええ、恥ずかしい事に。来るべき初代の罪に対抗するべく、各時代の豪傑が聖騎士という初代と同じ力を得るのです』



 それもガイアから聞いた話だ。



 聖騎士は初代の罪を浄化するべく、強く在らねばならない。何年、何十年、何百年、何千年も、この場にいる聖騎士達はその意思を継いできた。




 ――しかし、ゼノスはどうにも納得出来ない。




 根本的な疑問が、脳裏にこびり付く。



「なあカスタリエ。あんたは何故、初代の罪を後世に伝えていないんだ?こんな叙任式を行い、聖騎士の宿命を担わせるならばそれくらい……」




『――彼女がこの場に来たのは、今日で初めてなのだよ。若き後継者』




「――――なッ」



 唐突に、聖騎士達の中からそのような声がした。



 それを皮切りに、聖騎士達が次々に言葉を紡ぎ出す。




『そう、だからあたし達は知らないのよ』



『初代の罪を、その真相を。……けど、ようやくこの時が来たぜ』



『罪の代償が、まもなく到来するから。カスタリエはそれを察知し、初めてここを訪れたの』



『――我々に、そして君に真実を伝える為に。彼女は初代から直接聖騎士の称号を賜った身……全ての事実を知っている』




 故に、聖騎士達は強い興味心を抱いている。



 好奇なる視線に晒されているカスタリエは、静かに息を吐く。



『……というわけです。三代目聖騎士が誕生したのは、私の死後半年が経過した辺り。彼もまた直接私と会っていないので、私以外は知らないのです』



「ちょ、ちょっと待て!そこは理解したけど、罪の代償がまもなく到来するって……どういう事だよ一体!?」



 ゼノスの問いに、カスタリエは整然とした面持ちで返す。



『そのままの意味です。…………それと申し訳ない事に、私は事実を全て語るつもりはありません』



 その言葉に、一同が驚愕する。




『な、何故です。罪を知らねば、我々は勿論、若き後継者も納得できない!』



『見果てぬ目的を頼りに生き、私達は息絶えた。……せめて、在るべき事実を』




 歴代聖騎士達が反論するが、それは一瞬だった。



 カスタリエが目を向けた途端、彼等は押し黙る。幾ら聖騎士とはいえ、二代目の覇気はそれ以上の凄みがあったのだろう。



 だが当の本人は、黙らせたという自覚がない。ふいに深く頭を下げてくる。



『ごめんなさい。この事に関しては、ゼノス自身が見るべきだからです。……ですが、少々の事実ならば打ち明けられますが』



「……ならそれだけでもいい。じゃないと、歴代の聖騎士達が不憫でならない」



 ゼノスは後に知る事となる。だが過去の聖騎士達は、一生知らぬまま過ごす事になるだろう。報われぬまま、自分が何の為に尽くして来たのかも分からぬまま。



 ……カスタリエは瞑目する。



 彼女の心中は、未だ整理がついていないのだろうか。僅かだが眉間に皺を寄せ、何から話せばいいのか戸惑っているようだ。



 時間は刻々と過ぎていく。



 聖騎士達は真実の一端を語られるまで、静かに待つ。



 ゼノスは逸る気持ちを抑え、成り行きを見守る。




 ――そして、ようやくカスタリエの口が開く。




『…………後世の人々が創世記と呼ぶ時代、まだ善と悪が区別されていなかった。世界は神々で満たされ、人間達はその奴隷……そこまでは分かりますか?』



「ああ、俺は先代の聖騎士に聞かされた」



『……そうですか。なら、無駄な前置きは必要ありませんね』



 ゼノスと聖騎士達は頷く。



 カスタリエが述べた話は、聖騎士となる者ならば誰もが知っている。語り継がれた物語の一部分であり、今更驚くべき事実ではない。





『ならこれはご存じですか。――何故この世に、善と悪という区別が出来てしまったのかを』




 

「………………それは」



 答えようとするが、ゼノスは二の句を告げられない。



 分からない。そう認識したカスタリエは、『なるほど』と呟く。



『今まで感じた事はありませんか?遥か古の創世記には区別されなかった善と悪。ではどうして、今の時代には悪が存在するのか。とても不思議で、何だか妙な現実ですよね』



「……悪の定義とは何だ。あんたの時代にも、悪意の思想を持つ者はいなかったのか?」



 ゼノスの問いに、カスタリエは首を横に振る。



『いいえ、悪意の持ち主は確かにいました。しかし私が言う悪とは、具現化された大いなるもの。心には思えど、私の時代にはそれを成し遂げる者は存在しませんでした。――ある人物を除いては』



「……ッ」



 創世記の人間は、神々に反抗するという行為を知らなかった。ただ平然と奴隷としての立場を全うし、苦しみや不条理も当然として受け入れた。



 ……だが、ガイアは言った。



 初代の聖騎士は、そんな不条理な世界に疑念を抱き、神々に初めて反抗した。その偉大なる力を用いて、たった一人で神々に戦争を挑んだ。




 ――心臓が跳ね上がる。




 ゼノスは俯き、想像したくもない真実に辿り着こうとしている。



 この世に悪という存在を作り、未来永劫まで続く悲劇を生んだ張本人とは…………初代聖騎士なのだろう。



 ――しかし、それだけではないはずだ。



 初代聖騎士が起こした反乱。そして口伝に伝えられて来た史実の一つを組み合わせると…………もっと恐ろしい真実が、待ち受けている。




 その史実とは、《魔王神》の出現だ。




「――俺はガイアから聞かされた。創世記の頃、魔王神と呼ばれる『始まりの闇』が現れたという事を」



『……なら、もうお気づきでしょう。それは私が言える範疇の事実であり、初代聖騎士の《罪の一つ》』



 ……刹那、空気の流れが変わる。



 吹き起こる風も止み、同時にカスタリエの表情が消える。無音の世界にてひしめくのは、壮絶なる緊張感。息つく間もなく、吐き気を催すような時間だけが過ぎていく。



 彼女は聖騎士達とゼノスに目も暮れず――告白する。








『――――初代聖騎士は、神々と戦う為に魔王神となったのです――――』










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ