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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
四章 オアシスの踊り姫
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ep1 奴隷の主



 イルディエの人生は、ある時を以て崩壊した。




 アステナ民族の長・ガルハンドの娘として生誕した彼女は、部族内では『踊り姫』として非常に慕われていた。幼少期から踊りに興味を持ち、毎年開かれる不死鳥生誕祭には必ずイルディエも舞を披露していた程だ。


 

 幸せだった。あの頃は、全てが眩しかった。




 ――しかし、アステナ民族は尋常ならざる迫害に会う事となった。




 肌が違うという理由だけで忌み嫌われ、イルディエが8歳の時に大規模なアステナ狩りが行われた。



 複数の国が共同し、古代民族アステナを『悪の一族』と名付けた。……肌が違うというだけで、彼等アステナ民族は人として扱われなかった。



 村の若い男は労働力として他国に連れて行かれ、年老いた者達はその場で斬首されるか……アステナ活火山に放り込まれるかのどちらかだった。更に年若い娘に関しては、どこぞの商人に奴隷として買われる始末。



 ――イルディエもその一人だ。



 目の前で父ガルハンドを殺され、母を凌辱した兵士達に攫われ、僅か九歳という若さで奴隷市場へと売りに出された。



 ……市場での生活は、今でも思い出したくない。



 奴隷と言われる者達の大半は、イルディエと同じく攫われた者達。商人に対して牙を向き、大規模なデモを起こす可能性がある。




 それを防ぐ為に市場で毎日行われたのが……調教だ。




 実際商人に刃向った人がいれば、その者は皆が見ている前で水責めを受け、意識を失う寸前に助け出される。……そして、商人を前にして土下座をしなければならない。



 無害な奴隷もまた調教の対象だ。商人に逆らわなければ仕置きをされないと約束され、客に気に入られる行動を取れば優遇される。些細な事で失態を犯せば、問答無用に鞭打ちをくらう。



 そのような生活を続けて、ようやく売りに出される事となる。



 ――自分の意思を捨て、まるで人形の様な態度で主に尽くす。奴隷精神というものを叩き込まれ、何も考えずに奴隷として在る。



 今のイルディエはその状態である。華麗に舞う彼女の瞳はどこか薄暗く、光が宿っていない。無情のまま……日々を生きている。




 十四歳を迎えた今日、イルディエはいつもの仕事を終えた。













 踊りを披露し終えたイルディエは、無機質な表情のままある場所へと向かう。



 酒場を出て、眠らぬトル―ナの大通りの先にある屋敷――自分を奴隷として買った主の屋敷へと帰る。




 屋敷内に入れば、そこには自分と同じ奴隷の少女達が沢山いる。




 皆もまた生気を感じられない。ある銀髪の少女は無言のまま屋敷の清掃をし、ある黒髪の少女は、腕を骨折した状態でふらふらと自室へと戻って行く。……恐らく、主の『ストレス解消』に付き合わされたのだろう。



 しかし気にも咎めず、イルディエは仕事の報告をしに主のいる部屋へと入る。




 ――途端、強い香水の匂いが鼻をつんざく。




 それは純金製の装飾家具に包まれ、赤いカーペットの上に座り込む太った男――自分の主から放たれる匂いだ。……いやこれは、傍に侍る裸同然の恰好をした少女のも含まれている。



 主は傍に居る少女の全身を撫で回しながら、にちゃりと笑みを浮かべる。



「おお……ようやく帰って来たかイルディエ。待ちかねたぞ……へへ」



「……今日も言いつけを守って、踊りを披露しました」



「そうかそうか。……ほれ何をしている、ワシの膝元に来なさい」



「はい、分かりました」



 言われるがまま、イルディエは主へと近寄る。



 自分の横に座ったのを確認して、主である男は下卑た笑いを零しながらイルディエの頭を撫でる。



「ああ、可愛いイルディエや。お前はワシのコレクションの中では、特に気に入っているのだぞ?アステナ民族の肌といい、成長したお前の身体は……客に金を出させる良い商売道具だ」



 主は唾液を垂らしながら、舐め回す様にイルディエの身体を見る。



 このように嫌らしい目を向ける様になったのは、丁度半年ぐらい前からだ。身体の成長は、どうやら彼にとって至高の喜びらしい。



 ……イルディエはふと思う。




 いつの日か、自分はこの男に弄ばれてしまのかと。




 自分よりも年上の奴隷少女は、既に主によって犯され、鬱憤晴らしの道具として扱われている。自分はこの目で、何度もそれを見てきた。



「――あッ」



 突如、短い悲鳴が聞こえる。



 その声を発したのは、反対にいる少女のものだった。



 彼女はワインをグラスに注ぎ、それを主に飲ませようとしていたらしい。



 しかし手が滑り、グラスは主の膝へと落ちる。



 ――主のズボンが、ワイン色に滲んでいく。



「あ、あの。これは……ッ。うぐっ!」



 少女は顔面を思いっきり殴られ、鈍い音と共に鼻血を吹き零す。



 殴ったのは勿論、主だ。脂肪だらけの顔に皺を更に作り、激昂の余り目を充血させていた。



「き、さま……。覚悟は出来ているんだろうなあっ!?」



「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!もうこのような事は致しません!ですからお情けを――ッ」



 しかし、その訴えは無駄だった。



 間髪入れず、主は少女を殴り続ける。



 遂には立ち上がり、地面へと叩きつけ――その腹を何度も、何度も何度も蹴り続ける。



 ……主は笑っていた。



「へへ、へはは……悪い子にはお仕置きだ。今はこれで勘弁してやるがなあ。今日の夜伽はお前だあ。お前を散々犯し続けた上で、その細い手足を全部折ってやるよお…………ッ!」




 ――もはや人間の所業とは思えない。




 主の行動は常軌を逸している。奴隷を性的道具として扱い、痛め付けるという性癖を露わにするその姿は……何とも哀れなものか。



 しかし、これもまた日常。



 イルディエはその様子を、ただ無表情のまま眺めているだけ。



 変わらぬ日々。見慣れてしまった狂気。



 毎日毎日、昨日もそうだったし、今日もそれは変わらない。



「――ッ。――ッ。たす――けて――ッ」



「……」



 例え手を差し伸べて来ても、イルディエは掴もうともしない。



 そうして仲間を助け、一体何人もの子達が犠牲になったのだろうか。幾ら数えても、数え切れない。



 罪悪感を残したまま、イルディエは下を向く。



 次は自分の番かもしれない。



 恐怖が沸々と湧いてきて、イルディエの全身は震える。



「へひゃはっ!お仕置きだッ、お仕置きだッ!」



「ごめ――んなさいッ!――ごめんな――さいッ」



 殴られる音が反芻し、イルディエの恐怖は更に膨れ上がる。



 少女を殴る音が怖い。少女の悲鳴が怖い。下卑た笑い声が恐怖を増長させていき、正視する事が出来ない。



 何も出来ない、何もする事が出来ない。



 一体自分達が何をしたの?何故こうも苦しめられなければならないの?



 ただずっとその音を聞き続けるだけ。ずっと、ずっと――――





 ――しかし、恐怖を掻き立てるその音が止んだ。





「…………え」



 音は血肉を抉るかの様な不快音と共に消え去った。




 大量の血飛沫がイルディエにも降りかかる。





 その血は――主のものだった。







※1.全体図・アルバートとホフマンを投稿しました。→http://6886.mitemin.net/    ※2.7月12日午後5時26分追記=ジスカの画像を投稿しました。→http://6886.mitemin.net/i79623/ ※3, 7月15日午後8時5分追記=アグリムの奴隷少女の画像を投稿しました→http://6886.mitemin.net/i80004/

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