ep0 砂漠の町トル―ナ
ランドリオ大陸から遥か南の大陸。
そこでは砂漠地帯が大陸の大半を占めている。灼熱の大地が旅人を苦しめ、広大な砂漠で遭難する者は数知れない。
しかし、この大陸を横断する者は非常に多いのも事実。何故かと言うと、大陸よりも南に位置する諸島であらゆる原料が栽培されているからだ。勿論、他大陸には存在しない貴重な資源も存在する。
その為、貿易商達は大陸を抜けて原料を確保しに来る。船で迂回という手もあるが、時間も掛かれば頻繁に嵐が発生する海域を渡らなければならない。明らかに砂漠を渡る方が利口と言える。
だから彼等は砂漠を横断しなければならない。
汗水垂らし、ラクダに乗って数日間も歩き続けなければならない。苛酷で命を懸けた横断だ。
……だから彼等は、必ずある場所に滞留する事になる。
砂漠の中心に位置し、唯一オアシスが存在する街――『トル―ナ』。
トル―ナはこの砂漠大陸を統治する『マハディーン王国』の統制下にある。街の建造物の至る所に幾何学的模様が刻まれたマハディーン様式が、それを如実に表現している。
昼は様々な貿易商達で賑わい、中途貿易の街として栄える。南の諸島で取れた資源や作物を露店で販売し、それを用いて製造された絨毯や絹織物、手工芸品はこの街唯一の伝統品だ。その為、トル―ナを目的地として旅する商人も少なくは無い。
更に夜は、旅人達を癒す歓楽街と化す。
トル―ナは物だけで無く、人身売買が盛んな裏市場も存在する。奴隷として買われた者の一部は、ここで客をもてなし、心身共に安らぎを与える職業に就いている。……その身を犠牲にしても、だ。
正にそこは旅人達のオアシス。
……そして、奴隷にとっては地獄よりも恐ろしい街だ。
――今から約五年前。とある月明かりの夜の出来事。
旅の疲れを癒す酒場にて、一人の少女がそこで舞い踊っていた。
酒と煙草の匂いで溢れ返り、情熱のこもった拍手喝采に応え、彼女は情熱と大胆溢れるダンスで全てを魅了する。
彼女の全てが可憐で、とても奇妙であった。
何故なら――彼女は古代民族アステナの末裔であり、今はもう珍しい人種となっている存在。
奇異の視線を浴びながら。あらゆる差別を受けながら。
アステナの少女――イルディエは、奴隷としてその町で生き続けていた。




