表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
1/162

ep0 聖騎士の再来(改稿版)



 ――白銀の聖騎士。



 顔を覆い隠す白き兜を被り、重厚なる白銀の甲冑を身に着けた最強の騎士。


 彼の英雄譚は、このランドリオ帝国だけでは収まらない。


 竜の巣食う宮殿へと単独で突入し、千年以上畏怖されていたという竜帝を滅ぼした。そしてその末に、彼の地から異世界へ渡ったという伝説。


 始祖竜シルヴェリアを討伐し、世界に広まりかけた混沌を払ったという伝説。


 それらはとても有名な話であって、彼の偉業はそれだけでは済まない。幾百もの死闘を繰り広げ、その度に多くの人間が聖騎士を語り、注目と尊敬を集めた。


 主に絶対の忠誠を尽くし、このランドリオ帝国の一将軍として、恥じぬ正義と強さを示してきた。


 ……出身不明、本名不明、人種不明の彼であるが、その英雄譚は行方不明から二年の今でも語り継がれている。


 ――あの忌まわしき『シールカード』を滅ぼすべく、我らを救うために帰って来て欲しい。……この記事を書く私は少なくとも、そう思っている。


 あの悲劇があっても、聖騎士は我等の英雄である。私だけでなく、多くの民がそう思っているだろう。



           歴史研究家 ジェラルド・モーキンス





















 その記事を読み終えると、ゼノスは新聞を破りたい衝動に駆られた。


 ランドリオ港の桟橋に座り込む彼は異質な服を纏い、目元にまで伸びるストレートの茶髪を掻き毟る。


 桟橋に視界が入った通行人は、誰もがその不可思議な姿に奇異の視線を送っていた。


 『珍獣を見るような目を止めろよ!』と言いたい所だが、周りの人間が態度を変化させる事はまず有り得ないだろう。


 傍から見れば、その姿は確かに異様なのだから。世界中のどこを探しても、こんな格好をした人間は見当たらないだろう。


 ……といっても、この服は赤のジャケットに黒のカラージーンズというのだが、これが異世界の服だと訴えた所で、納得する事はないと見ていいだろう。あえて視線を気にしないことにしよう。


 とにかく、今の問題はこの胸クソ悪い記事である。


 いや、記事自体に問題はないのだが、正確に言えばこのような記事が出回っている事実に呆れていた。


 ――だから戻りたくなかったんだ。


 こんな記事を見てしまうから、人々の記憶にまだ聖騎士を頼る気持ちを垣間見てしまうから、ゼノスはこのランドリオ帝国に戻りたくなかった。


 第一、この記事に書かれている事は間違えている。異世界には行ったが、竜帝を滅ぼしてなどいない。奴とは死闘の末に引き分けで終わったのだ。


 それだけじゃない、確かにプロフィールなんて語っていないが、まるで人間じゃないかのような言い回しには、いささか憤りを覚える。


「……ちゃんと、ゼノスっていう名前があるのにな」


 ゼノスは一人でそう訴えていた。外見からしてみれば、眉が少々動いたという変化しかわからないと思うが。


 そんな記事への不満にふけていた頃、後方から自分を呼びかける声に気付いた。


 それが自分の仲間のものだというのは、少し経ってから把握した。



「おーい、ゼノス!そろそろ宿舎に行くって、早く行くよ!」



 聞き慣れた男の声。


 ゼノスはもう時間かと思いつつ、広大な海を背に立ち上がった。新聞はその場で破り捨て、前方の巨大な城下町、そしてさらに後方にそびえ立つ壮麗な城を見上げる。


 二年前と同じ光景、兜を通して見たあの懐かしい町が視界に映る。


 それを見て、ただ一言だけ呟く。



「……あーあ、面倒になりそうだなこりゃ」



 彼はダルそうにあくびをしつつ、眠気眼のまま呟く。


 聖騎士を知る者が見たら、とても同一人物とは思えない言葉を言い放つ始末であった。















 ゼノス・ディルガーナは、今年で二十三歳となる。


 放浪騎士団シルヴェリアの騎士見習い。


 元ランドリオ帝国六大将軍であり、『白銀の聖騎士』の名を冠する帝国屈指の最強。


 だが現在の日課は、掃除に洗濯、そして主に居眠り。


 あえて何かを付け足すならば――


 ここ最近、武器を握った覚えがないボンクラ騎士である。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ