相沢さんの場合 その2
本日中に魔王城に乗り込もうという私と高橋様でしたが近藤さんが拒否を示しました。どうもパーティーメンバーが彼を除く5人もいて説得できる気がしないとのこと。業務報告として魔王討伐後彼らからサインをもらわないと討伐完了にならないことと、5人が5人全員が早くに討伐することを望んでいないという理由らしく近藤さんは高橋様に文字通り泣きつきました。高橋様の純白の白衣が近藤さんの涙と鼻水でぐしょぐしょになり、高橋様の眉間には眼鏡の影で皺が増えていくのを感じます。高橋様は「相沢さん、せっかくだから挨拶回りでその5人の視察して俺に報告上げてくれる?」ととても素敵な笑みを浮かべ近藤さんを殴り倒しました。高橋様とはしばしのお別れですが魔王城は一緒に転移してくれるとのことで俄然やる気が湧きました。私はこのとき高橋様があまりにも理想の男性であることを自覚しました。高鳴る胸の鼓動を抑え、床に転がり亀の甲羅の様に縛られる近藤さんを羨ましく思いながら了解したのです。こんなどうしようもない異世界に飛ばされているときこそ恋愛だとか食欲だとか普段からある感情を捨てずにいることはとても大事であると未だに思っております。
近藤さんのパーティーメンバーですが、全員マッチョでした。そして全員が全員マッチョはモテるとお思いで全員が私を歓迎し肩に手を回そうとしてきました。不潔です。3日もお風呂に入らず乙女に触れる筋肉だなんて世界への冒涜です。この不届き者達の所属は4人が神殿、1人が帝国側でした。お仕置きと説得は一晩かかりましたが高橋様にいい報告がしたいという気合で乗り切りました。近藤さんがいうには「俺、相沢さんと高橋さんがうまくいくこと祈ってる。いや全力で応援する。俺は味方だ。絶対に味方だ。だから背中を守らせてくれ。」と、常に私の後ろに回り、私の魔法射線には邪魔にならない位置にいてくれるというとても協力的な味方になりました。根性ないとか思っていて申し訳なかったです。彼は一番の私たちのサポーターになってくれる情に厚い良い人でした。そして改心した筋肉5人も高橋様を崇める新派を教団内に作るとか改宗するという私の熱意が伝わる素直な人たちでした。
深夜に連絡するなんて不躾かなと思いつつ、明日行くなら出発の準備や時間がいるだろうしと高橋様にご連絡したところ予想以上に素晴らしいと大変お褒めいただきました。私はあまり知らなかったのですが、勇者を連れた旅を利用して各地に信徒を増やすという目的があったそうで説得は絶望的だと思われていたようです。そんなのこの愛に比べれば大したことありません。何か問題があれば愛の道を貫けば道は開けてくるのだということを皆様にお伝えしたい。
高橋様とはじめての待ち合わせをして翌日の午前10時くらいでしょうか、滞在地の西門前で合流した私は白いワンピースを着ていきました。ピンクの方が可愛いかなと思ったのですが8代目の奥宮さんが戦場で美しいのは白いワンピースに微笑だろと強く勧めてくれたので男性意見を取り入れこの装いにしました。この後魔物との戦闘で真っ赤に染まってしまうのですがアドバイスどおりやわらかく微笑むことを心がけていると高橋様は「痛くない?」とか「相沢さん大丈夫?」だとか優しく声をかけてくれました。「こんなに汚してしまってごめんね」とその日着ていた黒のジャケットを被せてくれたときには私は死んでもいいと思いました。不死身ですけど。恐らく汚さず白いままでいればもっと高橋様の関心を惹けるのではないかと思います。精進するためこれ以降何かあるごとに私の衣装は白だと決まりました。
私と高橋様と近藤さんと筋肉5人は高橋さんの魔法で魔王城の城門前に一気に飛びました。見たことないから中には飛べないんだごめんねという高橋様でしたが、ここまで一気にこれるだけでも素晴らしいことです。高橋様にいいところを見せたいのとテンションが無駄にあがってしまったため目指せ殲滅と魔法を放ちながら城をかけあがりました。途中で私の手作りのお弁当を高橋様に食べていただいたこと以外はあまり記憶にございません。気づけば日が落ちないうちに私たちは魔王と対面することが出来ました。魔王は顔色悪く青黒い肌をし、「戦わねばならんのか?どうして戦いしか選択肢がないのだ?」と言いました。私としてはボスであろうと攻略準備時間なのであまり聞く気はなかったのですが高橋様がすばらしいお考えをおっしゃいました。
「あなたは戦いを求めていないと?もしも対話が希望なのであれば我々は剣を治める意思はある。アデン帝国との対話も間に入ることも出来る。我々が望むのは戦いではない。心の平穏のみだ。」
その後魔王と高橋様は話し合いをなされ、私たちは一度王宮に転送していただきました。王宮にいる間、高橋様は魔王城とアデン城を行ったり来たりなさり、その分私たちは距離をつめていくことができました。高橋様は魔王に戦いの意思はなく、平和に国と魔族を認知し共存していくことを望み、高橋様はその不老不死を用いて永遠の中立緩衝材として生きていくとおっしゃりました。終わることのないその生をずっと人に与え続けるなんてなんと高潔なことなのか。高橋様を一人にしない。一緒に両国の平和のために私もついていくと誓いました。高橋様はそんな私についてきてはだめだよと困ったように微笑まれるのですが、そんな寂しいこと私は許せるはずもありませんでした。
私がとった方法は過労でよぼよぼになっている魔王との交渉でした。魔王は最初は不審がっていましたが私の高橋様への熱い想いを語ることにより、「高橋を信ずる。同様にお前も魔物を悪くはせぬだろう」と認めてくださり、魔王の養子となり3年勉強の後に不死身の魔王として「ユウシャホイホイ国」を立ち上げることになりました。近藤さん曰く「国境中立地帯のロウジンホーム村からたくさん高橋さんが来てくれるように」ともらった候補名の中から一番現地の人たちが発音しやすいものを選びました。「イツカミテイロ国」は国交正常化を記念して両国が生まれ変わるようにと近藤さんが名づけました。中立地帯の「ロウジンホーム村」は高橋様が不死身勇者が定住できる場所としてご自分の130歳を揶揄しておつけになられました。私たちは不老不死なのですから、111歳の年の差なんて気になりません。勿論私たちが親密になるまでに100年かかろうが200年かかろうが永遠の愛には問題のないことです。私が今生きていけているのは全て先人高橋様のおかげですから。
第18代勇者 相沢優子(短大英文学科学生)
加護 剣技 探索 探知 多言語 愛の力 不老不死
高橋→白衣眼鏡
近藤→気弱な普通の日本人
相沢→恋にフライングボディプレスな乙女