覚悟を決めろ
勇者待機室こと、王宮に割り当てられた仮部屋に戻りマニュアルを開く。どうも勇者の取り纏めというかリーダーと言うかいつも頼られる人らしい「高橋」さん。彼の名前がいたるところから出てくるに誰に頼っても彼に繋がりそうな気がしたので直接高橋さんに連絡してみよう。
ウィンドウを出してスカイプを起動する。検索名「高橋」。3名もいる。「高橋洋輔」。お、イメージが眼鏡です。多分この人だ。直ぐに出てくれない可能性を考慮し粘り強くかけよう。
「はい、高橋です。新人さんかな?」
直ぐに出てくれた高橋さん。
「はい、昨日召還されました飯島と申します。すみませんが助けてください。」
いきなりでわるいが泣き付く事にした。
「あー…説明もう聞いた?君の場合オリンピック勇者って奴で拒否権があってないようなもので。申し訳ないんだけど参加の方向性でしか助けられないんだよね」
「そのオリンピック勇者ってなんなんですか?いきなり呼ばれて4年に一度の戦争だから参加してねって知らない人にいわれて、戦争のない時代生まれなんですけどどうしたらいいんだか」
本気で泣きたい。
「オリンピック勇者っていうのは名前はふざけているけど結構深刻な話でさ。戦争がない時代ってのもよくわかるよ。僕ら全員2011年12月から飛ばされてきたんだから。着地時間が違うだけで同じ時から呼び出されてる。似たような並行世界って可能性もあるんだけども、まぁみんな年齢はばらばらだけど同じ時代の同じ国の人間だから価値観は同じだと思って聞いてよ。
そもそも僕らが呼ばれる原因を作ったのもそれを止めることが出来ないのも全部ここの宗教のせいなんだよ。植民地が多かった時代って歴史で習ったでしょ?あれ私たちの世界は国主導、宗教の援助ありって形だったんだけど、これは大雑把な意見ね。こっちの世界は宗教主導で人種なんかより魔族と人間ってより大きい分類で戦ってたのさ。おかげで国というのは全部教会が任命した人間の領地みたいな感じになっててね。気づけば世界統一一神教徒なわけ。この国はたまたま地球の日本諸島の位置にあったせいで日本から勇者が呼ばれちゃって、無宗教八百万信徒みたいなこの世界で発生する余地のない思想が入り込んじゃって、ついでに魔族国歌と友好条約とってきちゃったもんだから、異質も異質でさ。
正直なところ帰る算段はある程度ついてるんだ。けど帰ったところでまた召還されたらいたちごっこだろ?だからこの国主体で勇者なくとも保てる世界っていうのを作っていこうとしているんだ。と、いうわけで勇者は戦争用の家畜って思考の教会側と全面戦争になっているんだけど、ここまでわかる?」
「宗教対勇者の図はわかりました…けどオリンピックって?」
「聖教会は毎年各国に勇者を召還させて、一般信徒の聖騎士大量生産させて4年に1度イツカミテイロ国に侵攻してくる。魔族の扱いと一緒。異教徒狩り名目で。彼らの言い分は『平和のために』。こっちも島国だから他国の勇者を取り込む意味で接触する機会はここしかないのである意味『平和の祭典』。現実は血で血を洗う戦争なんだけどね。
君が無理だという気持ちはわかるけど召還ゲート利用でわかりやすくスキルがついている。戦えないことはない。問題は気持ちの問題だけ。逃げても不老不死の中何も食べれず幽閉されて生きる屍になる。無理やり地球に帰っても適正度の高い順に呼ばれるから次の召還でまた逆戻り。だからOB会もオリンピック勇者は無理やり戦場に連れて行く。幽閉されて壊れた精神は戻せない。記憶を操作しても色々壊れているからね。戦場で傷ついた精神はやたらグロがだめっていうくらいまでなら修復可能。ほぼ記憶に染み付いているだけで身体には染み付いているものが少ないからね。そういうわけで君にはいやでも行ってもらう。助けを求めるなら戦わないという選択肢以外のことでのサポートのみだね。」
「人としてどうなんですか?直るなら傷つけてもいいと?人権っていうものは?」
「ここは日本じゃない。国際法も存在しない。よって基本的人権など存在しない。その他のサポートについても先人がただ偽善と同情で行うだけだ。」
「つまり何の権利もないと?じゃあ義務もないだろ!」
「生存権というものはある。義務を果たすのなら発生する。勇者という義務を果たさなければたとえ不老不死であろうともまともに生きていけない。覚悟を決めろ。空気を吸って飯を食って睡眠とって生きていたいだろ?そして狂わず日本に帰るんだ。」
「理不尽だ」
「覚悟を決めろ。」
その後どれだけくだを巻いても高橋さんは「覚悟を決めろ」としか言わなかった。