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第七話 図書館でびっくり

「隆平、奴等ん所行くぞ」

教室に来るなり、昇一郎は僕にそう言った。

ちなみに、今は一時限目の真っ最中である。

つまりは遅刻してきた上で、昇一郎は僕に奴等(今の所誰の事かはわかってません)の所に案内しろ、と言っているのだ。

だから、

「はァ・・・?」

僕の口からこの言葉が漏れても仕方が無いと思う。

仕様が無いと思う。思います。

だって、ねぇ?そうでしょ?違う?僕違う?

言うでしょ?誰でも。

だから次の瞬間に昇一郎に


ガツンッ


と拳を頭に振り下ろされた事に、僕は納得がいっていなかった。


「痛ぁ〜・・・。まだ痛いよ、頭・・・」

「るせぇ。下僕が俺に向かって顔をしこたま顰めて『はァ・・・?』とかぬかした罰だ」

廊下を歩きながら、僕は小声で、昇一郎は普通の声で会話をする。

というか、昇一郎は地声が大きいから普通に喋ってても廊下に声が響く。

今は授業中だから、できれば目立ちたくないのだけど。

というか、先生、何で僕が昇一郎に引っ張り出されたときに止めてくれなかったのですか・・・?

ううう・・・、と軽く泣きそうになりながらも、ちゃんと僕は昇一郎の言う“奴等”の所に案内をした。

奴等、とは、勿論我有先輩達の事である。

ああ・・・、やだな・・・。僕も共犯と思われるんだろうか・・・。

ていうか、もう完全に周りが僕の事を“昇一郎の相方”と認知している気がする・・・。

それに伴って、僕への周りの認識も変わっているのかも知れない。

そんな事を考えて、

「ふぅ〜・・・」

僕は大きくため息をついた。

更に、

「隆平、授業中は静かにしろよ。非常識な奴だな」

こんな事を昇一郎に言われたからには、

「ふはぁ〜・・・」

もっと大きなため息だってつきたくなるさ。

なるだろ?


なんて、そんな現実逃避を繰り返しているうちに、僕等は目的の場所についた。

「・・・ここか?」

昇一郎は教室の扉の上に掛けてある部屋のプレートを見上げて言った。

プレートにはこう記されている。

『図書室』

「・・・今って授業中、じゃなかったか?」

昇一郎がそんな事を言う。

君がそれを言うか、とツッコミを入れたくなったが、堪えて僕は「そう」と頷いた。

「昨日も言ったように、生徒会の生徒には先生達もそうそう文句が言えないんだ。特に我有先輩はこの学校に出資してる会社の社長の息子だからね。しかも我有先輩は成績優秀だから、授業に出て無くても、文句のつけようがないんだ」

説明しながら、自分で改めて我有先輩の凄さを確認する。

凄さを確認しながら、それでも、何故だろう、


僕は少しワクワクしていたのかも知れない。


扉に伸ばした手が、意気揚々としている気がした。

ガラガラガラ・・・

無機質な音を立てて、扉が開いた。

そして、開けた視界の先。


居た。


部屋の奥。大きな長机に一人座って本を読んでいる我有先輩の姿が見えた。

本に目を落としたまま、扉を開いた事にも気付かぬかのように、こちらには見向きもしない。

そして何より、僕は感じていた。

この威圧感。

部屋の奥から、部屋の入り口まで届く、この威圧感に。

「昇一郎、どうす―――」

どうするの?という言葉は、完成する前に消えた。

昇一郎が居なかった。

視線をやった先に、居なかった。さっきまで隣にいたのに。

あれ?と室内に目をやると、いつの間にか昇一郎は我有先輩に向かって歩を進めていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

仕方なく、僕も後を追う形になった。

が、近づくにつれてより濃くなる威圧に、僕の心臓は鼓動が早くなる。

しかし当の我有先輩は、距離を詰めていく昇一郎に一瞥もくれることなく、本の文章を目で追っている。

そんな間に、昇一郎は我有先輩の隣に立った。

立って、言う。

「昨日はドウモ」

全然「どうも」って感じがしない声で言った。

が、先輩は気にしません、という感じで目線は本に。

「シカトですか、先輩?」

表情こそ笑っているが、全く笑えてない声だった。

と、これをどう思ったかは解らないが、我有先輩は本を閉じた。

そして、「・・・チッ」


チッ・・・


チッ・・・?


舌打?


した。絶対。確実に。

だって顔が「何だコイツ、うぜぇ」って顔してる。

そしてふぅ、と息を吐き、

「あのな」と口を開いた。

「あのな、俺は本読んでんだよ。見て解んねぇか?今話し掛けるのはおかしくねぇか?なぁ?」

正論。正しい。間違いない。だから出よう。とっととこの部屋出ようよ昇一郎クン。

なんて僕の心の声なんて聞いてない昇一郎は、次の瞬間、


ドバァンッ


机をぶッ叩いた。

瞬間、叩いた部分が盛大にひしゃげて、細かい屑が四散する。

「今日の放課後、体育館の裏に来てもらえんですかね、先輩?用はそれだけです」

血管の浮かんだ顔で、笑みを浮かべて昇一郎は言った。

僕は口から飛び出しかけたタマシイを必死で止めて、口の中に押し戻す。

我有先輩は何も言わずに、昇一郎を睨みつけていた。

しばらく二人は睨みあう形になっていたが、昇一郎が不意に踵を返し、

「行くぞ、隆平」

そう言って出口に歩いていってしまった。

「え、あ・・・・」

もう昇一郎についていくしかなく、僕は小走りで後に付いた。

我有先輩に何かされるんじゃないか、と思っていたが、そんなことは無かった。

終始、我有先輩の威圧を背に受けていたが。




「何やってんのさ!?」

僕は叫んだ。授業中だが、もうそんな事は関係ない。

「びっくりだよ!ねぇ!びっくりだよ!びっくり!解る!?びっくり!もう一回言うよ!?びっくりだよッ!」

「何回言うんだよ」

「五回だよ!何してんの!!いきなり喧嘩売るなんて聞いて無いよ!?」

「言ってねぇからな」

何度か叫んでみたが、その都度昇一郎からは「どうでもいいじゃん」みたいな言葉しか帰ってこなかった。

これ以上何を言っても無駄だな、と、僕は「ふぅ・・・」と息を吐いた。

「ただ・・・」と、一つだけ疑問に思った事を最後に一個。

「さっき、先輩に掴みかかるかと思ったけど、よく放課後まで待とうと思ったね?」と。

さっき、昇一郎が机を叩いたとき、我有先輩に飛び掛るんじゃないかと思ってた。だから下手したら、僕が間に入ることになる事になるかも・・・。と。

が、そんな事なかった。

だから、よく踏みとどまったなぁ、と思っていた。

が、

「いや」

と、正一郎は首を横に振った。

「本当はそのつもりだったんだ」と。

「あそこでぶッ叩いておこうと思ってた」

「・・・?じゃあ・・・」

「出来なかったんだ。机をぶッ叩いた瞬間、途端に殺気が強くなった。アイツだけのじゃねぇ。多分あの双子の殺気だ」

「でも、あの部屋に漸樹先輩と鋼器先輩はいなかったよ?」

「ああ。でも、どっかにはいたんだろうぜ。そして、俺が何かするようならスグに出て来れたんだろう。あの殺気を感じた瞬間、放課後、三人まとめての方が良いと判断したんだ」

廊下を歩きながら、昇一郎は言った。

笑いながら、本当に楽しそうな顔をして。

「楽しみだ・・・」

呟くようなその声が、さっき僕が叫んだ、どの「びっくりだ!」よりも、冷たく廊下に響いていた。

ギャグ要素が極端に少ないです。というか皆無です。しかも暫くまた女性キャラが出ない雰囲気です。

でも頑張って進めますので、楽しんで頂ければ幸いです。

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