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第六話 美冬先輩

「よし、よく解った!」

椅子に偉そうに座りながら、昇一郎はそう言った。というかむしろ言い放った。

「解った、じゃないよ!」

ゼェ、ハァ・・・。

荒れた息を肩で整えながら、僕は昇一郎を睨みつけた。

あれから凡そ二十分間に渡り学校内を鬼ごっこの要領で追い掛け回し、結果錘を付けたままの昇一郎が逃げ切れるはずもなく、僕は再び教室に昇一郎を連れ戻してもう一回最初から説明をしていた。

「本当に解った!?今度は寝言じゃないよね!?」

「大丈夫だ。覚えた。あいつ等は生徒会。で、生徒会の下が予備軍。だろう?」

「だろう?じゃないよ・・・」

僕は深くため息をついて、ふと、壁に掛けられている時計を確認した。

「あ〜・・・、ホラ、無駄に話に時間使っちゃったから・・・。見てよ時計。もう七時だよ・・・」

時計の針は短針が七を少し過ぎた辺り。

外は既に空を茜色に染めていて、更に言えば僅かながら茜の中に暗さが見え隠れしている。

「ふぅ・・・、もういいや。帰ろう?昇一郎は帰りは自転車?電車?」

「あ?俺は歩きだ。近いところに越してきたからな」

「そうなんだ?」

なんて、そんな会話をしながら教室を出る。

最後に教室を出る人は鍵を閉めていかなければいけないから、ちゃんとその通りに鍵を閉める。

「なんだ?お前そんな事する係なのか?」

僕が鍵を掛けているのを見て昇一郎が言った。

扉が閉まったか確認しつつ、

「違うけど」

ガチャガチャ。どうやら閉まったらしい。

「最後の人は閉めとかなきゃいけない決まりだから」

「ふぅん」

「ふぅん、って、君の所為なんだよ?解ってる?」

「あーあー、はいはい」

言いながらメンドくさそうな顔をした。

絶対に解っていない。100%。

ああ、もういいや・・・。

さて、

と、僕は一階まで降りると職員室に向かった。

「ん?どこ行くんだ?」

「あ、職員室に鍵を置きにね」

鍵を持ち上げて、僕は言った。

「そうか」

言いながら、何故だろう。昇一郎もついて来た。

「何?昇一郎も職員室に用?」

「あ?別に」

もしかしたら、一応悪い、とは思っているのだろうか。

案外解ってないことも無いか、とか考えながら、僕達は職員室へ向かった。


「失礼しました」

鍵を返して職員室を出る。

昇一郎は職員室の外で僕が出てくるのをちゃんと待っていた。

「よし、帰るぞ」

昇一郎が踵を返して言った。

僕は昇一郎の横に並んで、今度は自転車置き場に歩を進めて――――


「隆平じゃないか」


後ろから声がした。

「え?」

「ん?」

僕と一緒に昇一郎も振り返る。

振り返った先。そこには弓道着に身を包んだ、“大和撫子”的な女性が立っていた。

「誰だ、隆平?」

小さな声で昇一郎が聞いてきた。

「え?ああ、僕の先輩だよ。美冬先輩」

軽い紹介をしながら、美冬先輩をみる。

美冬先輩は額の汗を手で拭いながら、こっちに歩いてきた。

ちょうど逆光で先輩が光ってるように見える。

いや、実際どこに居ても先輩は光って見えるが。・・・なんちゃって。

「ん?この大きな子は誰だ?見た事のない顔だが・・・」

美冬先輩は昇一郎の前まで気、見上げて言った。

いや、僕からすれば美冬先輩も大きい。僕の身長が168だから、多分175位だと思う。

「あ、えーっと・・・、この人は、今日転校してきた神ノ山 昇一郎君です。昇一郎。この人は美冬先輩、っていって、僕の道場の門下生の一人なんだ」

「どうも」と昇一郎。

「はじめまして」と美冬先輩。

「そうか、君だね?今日島津を伸したっていう転校生は」

先輩は表情を明るくして言った。

「え?もう噂になってるんですか?」

まだ一日経ってないのに!?と、僕はちょっと不安になった。が、

「ああ」

美冬先輩は頷いて、

顔を上げたとき、先輩の顔は冷たい笑顔のそれに変わっていた。

「“たかが島津”を倒した位で偉そうにしてる転校生がいる、ってね」

言って、先輩は更に楽しそうに笑った。

冷たい笑顔で、楽しそうに。

「ああ?」

昇一郎の声が途端に鋭利なものになるのが、隣から直ぐに解った。

「し、昇一郎?せ、先輩何言ってんですか?別に昇一郎は偉そうになんか・・・」

必死にフォローに入る。昇一郎と先輩の間にすべるように体を入れて、「ははは」、と決して笑えてない声を出した。

「ふふ、冗談だよ」

先輩はそう言って右手をパタパタした。

悪い悪い。

「冗談冗談」

言って、美冬先輩は何も無かったかのように僕と正一郎の横を素通りしていこうとする。

「え、あ、先輩!?」

僕は振り返る。

「隆平、明日は道場を休むから、と、師匠に伝えておいてくれ」

こっちを振り向くことなく、先輩はそう言って歩いていく。

が、ふと、止まって、

「ああ、それと」と言った。

首だけをこっちに向けて、ここからでも解る笑みで言った。

「我有には気をつけなよ」と。

再び歩き出した先輩は、もう振り返ることは無かった。

やっとこさ女キャラ登場です。

ここからちょっとずつキャラが増えていく予定なので今後ともよろしくお願いします。


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