第五話 説明
「隆平・・・」
呼ばれて振り返ると、昇一郎が腕を組んで立っていた。
「あ、戻ってきたの?」
「・・・・・」
「もう、僕の財布返してよ!」
「アイツ等、何モンだ?」
「へ?いやそんなシリアスな顔して誤魔化そうたってそんな手には――――」
「あの三人組は何モンだ?」
「―――乗らないよ・・・、って、三人組・・・?」
「ああ、さっき見たんだ。階段の所でな。三人共かなりの“異形”だった。あんな奴等だ。大層有名だろう?」
昇一郎は言って、ニヤリ、と笑った。
笑っている、というより、楽しんでいる、もしくは楽しもうとしている、そんな感じを受ける。
まるでこれから新発売のゲームを買いに行く子供のような、これから起こる“何か”に胸を躍らせているようだった。
“あの人達”を見ても、笑ってられるのか・・・。
僕も半ば呆れたように笑って、
「教えるよ」
と言った。
ただ、長い話になるよ。と、付け加えて。
「上等だ」
昇一郎は更に強くニヤリと笑った。
ただ時間が時間だけに、説明は五、六時限目が終わった後。
放課後に話すことにした。
「で?」
日が傾き、人が少なくなってきた教室で、昇一郎は僕の隣で言った。
「長い話ってのは?」と。
僕は頷いて、頭の中で整理しておいた説明を始めた。
あの三人組は、この学校でも有名な三人だった。
顔の上部、下部を隠していた二人は実は双子で、一つ上の学年の二年生。
名前は漸樹と鋼器。俗に前鬼と後鬼として知られる鬼と同じ名前だ。
そして昇一郎が一番威圧を感じたと言う男は三人のリーダー格の男で、我有朝彦という、漸樹と鋼器とは全くの他人の男。
朝彦の父は某有名大企業の社長をしていたが、小さな頃から息子の朝彦をスパルタで鍛え続けていた。
よくイメージされる“お坊ちゃま”とは正反対に育てられた朝彦は、今ではこの学園でも屈指の実力者に成長した。
漸樹と鋼器には両親が居らず、小さい頃に朝彦の父に朝彦の側近として引き取られた。
今でもその関係は変わらず、未だに漸樹と鋼器は朝彦に忠誠を誓い、朝彦の命令で何でもする。が、朝彦自身二人を部下とは思っておらず、友達と見ている。
朝彦は基本人との付き合いを拒み、漸樹、鋼器兄弟以外とは会話もしない。
あの三人組は周りからは“三連”と呼ばれて居る。
そこまで説明して、
「それからね」
と、僕は続ける。
授業中鼾をかいて眠っていた人物とは思えないほど、昇一郎は真剣な眼差しで僕の話を聞いていた。
「あの人達は、“生徒会員”なんだ」
と、僕は言った。
昇一郎の眉がピクリ、と動き、
「生徒会員?」
と僕が言った言葉を繰り返した。
だからなんだ?と言いたげな視線が、昇一郎から投げかけられる。
ここで僕は“三連”の説明から、“生徒会”についての説明に趣旨を変えることにした。
この学園の“生徒会”はそこら辺の学校とは全く異なるもの。
この学園での“生徒会”は実質的に教師並の権力を持ち、生徒会の言う事は殆ど絶対。
生徒会員には年に二回交代時期があり、その度に恒例の行事が行われる。
「行事?」
腕組をしていた腕を解いて、昇一郎は椅子にもたれかかった。
「そう、行事さ」
僕も言いながら、椅子に深く座りなおした。
そして、続ける。
行事とは、それまでの“生徒会員”と新たに会員になりたい生徒との抗争。
その抗争の中で択ばれた10人だけが、生徒会員の一員として認知される。
“三連”の朝彦はその生徒会の会員で、漸樹、鋼器兄弟はそれの“予備軍”の一員。
“予備軍”と言うのは本来無いものだが、学園の中の生徒会に含まれていない実力者がそう呼ばれている。
予備軍は生徒会の次に力を持つ。
予備軍の中には生徒会以上の力をもつ人もいるが、様々な理由で生徒会に入らない事もある。
「って感じなんだけど、どう?解った?」
「・・・・・」
「?」
昇一郎は一点を見つめたまま黙っていた。
何だろう・・・?何か思うところがあったのだろうか?
「昇一郎・・・?」
「・・・・・」
「どうした・・・?」
「・・・ンゴ・・・」
「は?」
「・・・グゴ・・・」
「グゴ?」
何だろう、この鼾みたいな声は?
「まさか・・・」
嫌な予感。それを確かめるため、僕は思いっきり息を吸い込んだ。
そして、
「昇一郎ぉぉおおおッ!!!」
叫んでやった。
「ッハ!?何だ!?あ!?あ、うん!そうか!OK!そういうことか!よく解った!」
「嘘だ!今寝てたよね!?目開けながら!何その妙技!?どこから寝てたの!?はっ!?最初!?最初ッ!?会話してたジャン!ちゃんと!何!?寝言!?寝言ッ!?何その神業!?何!?何その「逆切れするぜ?」みたいな険しい目!?僕!?悪いの僕!?違うよね!?ちょっ・・・!昇一郎どこに行く?!走るな!廊下を!くそっ!早い!何だこの速度!?追いつけない!ちょっ!おい!昇一郎ぉぉぉおおおお!」
むなしく廊下に僕の叫び声がこだましました。
無理やり最後をギャグにしました。
よくよく考えると有り得ない学校だと思います。
今回も楽しんで頂ければ幸いです。