第三話 本当の力
コメディーです。
誰が何と言おうとコメディーです。
島津が倒された。
この事実は本当に想定の範囲外で、僕は呆然と立ち尽くしたまま動けなかった。
「はッ!雑魚が!」
倒れている島津に、神ノ山君はそう吐き捨てた。その顔はどこか楽しそうに見える。
僕はしばらく呆然としていたが、ふと、
「み、宮野と岸本は・・・!?」
と思い出して、僕はそっちに視線をやった。
が、
「!?」
そこには、島津同様に倒れる二人の姿。
「ソイツ等、本当に格闘技やってんのか?」
倒れている二人を見やり、神ノ山君は言う。
「そんなに歯応えの無い奴等初めてだったぜ」と。
「・・・・」
僕は島津達と神ノ山君を交互に見た。
どう考えてもありえない。
僕に簡単に転がされる程度の人が、島津達に勝てるとは思えない。しかも、神ノ山君には怪我が無いように見える。
あの二人に無傷で勝てる程の実力者が、僕に簡単に手を取られるだろうか?いや、それは考えられない。
僕の怪訝そうな表情を読み取ったのだろうか、
「ああ、悪ぃな」と、神ノ山君は言った。
「さっき、ソレ付けてたんだわ」と。
ソレ、と、神ノ山君は宮野の倒れている横を指差した。
「ソレ?」
僕はそっちを見る。
そこには五つの何かが転がっていた。
何だろう?見たことが有る物だ・・・。
僕はソレを手にとって、
「!?」
驚愕した。
「神ノ山君、ずっとコレを付けてたの・・・?」
僕が手に取った物。
それは“パワーアンクル”だった。
腕や足につけて筋肉を鍛える、錘だ。が、持った瞬間すぐ解った。コレは普通じゃない。
「よくまぁ、こんな重いものを・・・」
「ああ、両腕あわせて30Kgだからな」
重かった。
通常パワーアンクルといえば5Kgで重い方だ。
その三倍の重さ。それを、。片腕につけていた、と言う。
「足は両方で40Kg。あと胴回りに10Kgだ。さすがに外したら軽いぜ!」
神ノ山君はそう言って腕をブンブン回した。揶揄ではなく、腕を振ると本当に空気が「ブン」と唸る。
「合計で、80Kgだよ・・・?」
下手したら神ノ山君と同じ位の重さになる。つまり、常時自分と同じ重さの人を体全体で負ぶっている感覚。
「よくその腕で、僕を持ち上げれたね」
「ハッ!テメェ、俺を誰だよ思ってる?」
言って、神ノ山君はニヤリと笑った。揶揄ではなく、頬を上げると「ニヤリ」と音が鳴るわけは勿論無かった。
島津なんかじゃ敵うわけ無い・・・。
廊下に無残に転がる島津を見て、僕はそう認識した。
桁が違う、では無く、単位が違う。たとえがおかしいが、mmがkmに歯向かうかのような。
仮に神ノ山君が逆立ちしたって、島津では勝てないのだ。
・・・・・・・・・。うん、間違ってない。
「それより、テメェ!」
「は、はいっ!?」
僕はビシッと腕をまっすぐに伸ばした。
神ノ山君の表情は怒っているように見える。
ああ・・・、さっき言った生意気な事の事だろうか・・・?
謝るべきだろうか・・・?やばい、近づいてくる!
「テメェ!」
「うわっ!」
僕は目を閉じた。
ガシッ、と、頭をつかまれる感触。
痛みは、無い。
「?」
僕は目を開けた。
目の前で、ニヤッと笑っている神ノ山君が見えた。
「テメェを、この学校で最初の下僕にしてやる」
僕の頭をぐるぐる回して、そう言った。
「へ・・・?」
僕は呆けた声しか出なかった。
「お前とは長い付き合いになりそうだ。それに」
と、僕の頭から手が離れる。
神ノ山君は言った。
「テメェとは、昔会ってる気がする」
言って、神ノ山君は歩き出した。
・・・・・またいつでもかかって来いよ!
不意に、幼い頃の記憶の断片が掘り起こされる。
「ああ・・・、そういえば・・・」
僕も、君と会ってる気がする。
くるっ、と神ノ山君が振り返る。
「遅ぇぞ“隆平”!下僕が俺様を待たせてんじゃねぇッ!」
声がする。
僕は笑って、
「今行くよ!“昇一郎”!」
駆け足で昇一郎の方へ向かった。
「テメェ!何呼び捨てにしてくれてんだコラァッ!」
「わっ!痛ッ!ご、ごめん昇一郎!」
「テメェェェエエエエエエエッ!!!」
僕等は校内案内を続けた。
この時、
「活きの良い転校生が来たもんだな」
この声を気付くことは無く、
昇一郎を取り巻く騒動に僕まで巻き込まれるなんて、思ってなかった。
コメ(略)。
三話目です。最終回みたいなノリでしたが、残念ながら続きます。
何はともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。