第二十二話 捜索
全く・・・、昇一郎はどこに行ったのだろう。
周りをくまなく見回しながら、僕は生徒達で賑わっている廊下を歩いていた。
もうそろそろ掃除の時間になろうというのに、生徒達は依然として楽しそうに雑談を繰り広げている。
僕はそんな中を掻き分けながら、ただひたすら昇一郎を探していた。
保健室を出たきり、ずっと昇一郎の行方を追っている。
一旦教室に戻ってみたがそこに姿はなく、僕は踵を返して再び探索を再開した。
ただ、“探している”といっても、昇一郎が“何をしに向かった”のかは分かっていた。
恐らく、ではあるが。
昇一郎は静かに猛っていた。
それは、保健室に居る時点で分かっていた。
それが我有先輩が倒されたことへの怒りなのか何なのかは、「これ」といった確証がないからハッキリとは言えない。
ただ、昇一郎は“怒っていた”。それだけは確かだ。
だったら、昇一郎はどこに行くか?
間違いなく、犯人を捜しに行くだろう。
我有先輩を倒した、相手を。
探すにしても、手がかりはどこにも無い。
いくら昇一郎でも、その状態から犯人を探し出そうとは思わないだろうし、見つけられない。
だったら、まずは手がかりから探す。
その手がかりはどこにあるのか?
そうなれば、昇一郎が行き着く場所は、恐らくここ。
僕は足を止めて、顔を上げた。
本日見るのは二度目となる“1-H”と書かれたプレートを見上げつつ、僕は1-Hの扉を開けた。
本日三度目となる他クラスの生徒の侵入に、再びクラス全員の視線は扉の方へと向いた。
これは別に、僕から強そうな気配とかが出ていたわけではなく、単純に1-Hの生徒達の神経が敏感になっているだけである。
ただ、その反応を見て僕は確信した。
昇一郎は、僕が来る前に一度ここに戻ってきている。と。
だったら。と、僕は周りを見回した。
探すのは、僕と昇一郎を体育館裏へと誘った張本人。
その張本人はスグに見つけることができた。
僕はその張本人である、あの坊主頭の子に向かって手招きした。
その子は一瞬嫌な顔を浮かべたが、すぐにこっちに来てくれた。
そして第一声、
「何?」
昇一郎には敬語だったのに、僕にはタメ口だ。
いや、別に敬語で話してもらいたいわけじゃあないけど、なんか若干腹が立つな。
ともかく、今はそんな事どうでもいい。
僕は、
「すぐに済ませるから」
と、坊主頭君を廊下に連れ出した。
「何?」
再び、坊主頭君は言った。
「あ、いや、昇一郎・・・、あの銀髪でデカイのはどこに行ったか聞きたくてさ」
「ああ。彼・・・」
一瞬考えた後、
「体育館裏に行ったよ」
坊主頭君は行った。
「体育館裏?」
何をしに?
「さあね。なんにしても、君は行かないほうがいいよ。どうやら険悪なムードらしいから」
「え?誰かと一緒に行ったの?」
「ああ、例の転校生とね。あの後何があったのか知らないけど、凄く彼怒ってたよ」
やっぱり怒ってる・・・。
と、すれば、急がないとその「転校生」が危険だ。
「ありがとう。じゃあ」
僕は体育館裏へと足を進めた。
が、
「あ、ねぇ」
坊主頭君に呼び止められて歩を止める。
「?」
「やっぱり君は行かないほうがいいよ。彼、とても強いって噂だけど、あの転校生も我有先輩を倒しちゃうくらい強いんだから」
「・・・・・・・そうだね。気をつける」
僕はその坊主頭君の言葉に何か・・・、若干の違和感を感じつつ、それでも体育館裏へと急いで向かうのだった。
周りが就職決まったり自動車学校だったりで忙しそうです。
それだけです。