第二十一話 立ち振る舞い
体育館裏。
昇一郎と重蔵は対峙するようにしてそこに居た。
睨みあうように――といっても一方的に昇一郎が睨んでいるだけだが、二人は向き合っている。
二人とも言葉を発しないまま、もうかれこれ5分ほど経とうとしている。
が、
その沈黙を、
「それで?」
重蔵から破っていった。
「何のようで、俺をここに?」
ナイフで顔に切れ目を入れたかのような細い目で、それでもじっと昇一郎を見つめる。
「あぁ?」
その視線にも腹立たしさを感じながら冷たく、低いトーンで、まるで突き飛ばすかのような口調で昇一郎は重蔵を睨んだ。
「んな事はテメェが一番分かってんじゃねぇか?」
言い放つ。
その言葉に、重蔵は細い目を更に細める。
「告白・・・、っていうわけじゃあなさそうだ・・・」
当然だ。と、大きな声を張り上げることなく、飽くまでも重蔵を睨みながら言う。
ああ、
腹が立つ。
最初は明彦の件で腹が立っていた。
が、今は、
コイツの立ち振る舞いが腹立つ。
なんか・・・・、
腹が立つ!
何か当初の目的とかそんなのは半分以上ソッチノケになってきたが、ともかく昇一郎は猛っている。
それは間違いない。
しかし、
猛りながらも、先ほどから昇一郎は冷静に重蔵を分析していた。
相手の力量を測るのは、格闘技だけでなく喧嘩にも必要な力である。昇一郎の得意とする事の一つでもあった。
先から昇一郎は重蔵を見ていた。
ここに来てからは勿論、教室からここへと来るまでも。
その間、昇一郎は重蔵に対して一つ疑問を持っていた。
それは、重蔵の“立ち振る舞い”。
この学校に来る人間というのは、昇一郎のような例外を除いて武術を習っている者ばかりだ。
武術を習っている人間というのは、計らずも必ずその立ち振る舞いに“程度”が現れる。
それが熟練されている人間ならば、尚更。
明彦達を倒すような人間が、こんな“立ち振る舞い”であるだろうか。
重蔵からは武術の“程度”どころか、その経験の有無さえも見て取れない。
言うなれば、全くの『素人』の動きだ。
昇一郎はその事で、若干重蔵に疑問を抱き始めていた。
が、もう腹が立ってきたので関係ない。
とりあえずブン殴る。これはもう決定事項。
シリアスなシーンも一気にギャグに変えてしまう昇一郎のテンションに感服。
ともあれ、昇一郎は重蔵に掴みかかる気は満々だ。
「テメェが犯人だって事はもう分かってんだ」
分かってないが、とりあえずそんな事を言って重蔵の胸倉に掴みかかる。
「とっとと白状しやがれ」
もう根拠も何もないままに、グイッ、と掴んだ重蔵の襟を持ち上げ――
――た、その刹那。
ゴッ
風が唸り、
ドグッ
「ゴェッ!!!」
昇一郎は後ろへとふっとばされていた。
どうやら一筋縄ではいかない。
吹っ飛びながら、昇一郎はそれでも笑みを浮かべているのであった。
就職だ、進学だと気の遠くなるような毎日です。
それだけです。