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第二十話 気配

そこはいつもの教室内だった。

なんの変哲もない、いつもの休み時間だった。

生徒達は楽しそうに雑談をし、教室内はいたってにぎやかだった。

だから、

昇一郎が扉を開けたことに気付いたのは、ほんの数人だった。

が、


その瞬間、教室中の視線が一斉に昇一郎に集まった。


気配。という言葉がある。

例えば人が怒っていたとする。そうすると、ふとその人が怒っているのが解るときがある。

表情でもなく動作でもなく、ただふと、「あ、怒っているな」と解る。これも一種の気配だ。

昇一郎が発していた“気配”は、その存在を教室中に知るに至らせる程のソレだった。

昇一郎の存在を知ったと同時に、教室内の音が見事に消え去る。

生徒達は身動きもとらず、言葉さえも発せずにその場に固まったように動かない。

昇一郎はその中を歩いていく。周りを見回し、探す。

勿論、探している相手は我有明彦達をボコボコにした相手だ。

キョロキョロと、“ソイツ”を探す。


誰を探しているのか?


前述したように、我有明彦達をあんな状態にした相手の正体はわかっていないはずである。

では、昇一郎はあのニット帽の正体を、保健室からここに来る間に確定させたのであろうか?

答えは、


いな、だ。


例に漏れる事無く、昇一郎自信もあのニット帽の正体を理解できていない。

しかし、昇一郎にも“ある事”だけは理解できた。

それは、“気配”。


強い、喧嘩が強い人間が発する気配。


それだけは、昇一郎にもわかる。

そして、それを頼りに昇一郎はある生徒の前に立った。

窓際の、一番後ろの席。

「テメェだな・・・」

低い、それでも若干嬉しそうな声で、昇一郎は呟いた。


“桜屋敷 重蔵”


その生徒の机に置かれているノートに、そう記されている。

「何だ・・・?」

桜屋敷は視線を外から昇一郎に移し、気だるそうに言った。

わりぃんだけどよ、ちょっとツラ貸してくんねぇかな?」

我有の時のように挑発的ではなく、きわめて静かに、それでも感情のこもった声が教室の中に響く。

桜屋敷は何言わず黙ったまま、


ガタ・・・ッ


音をたてて椅子から立ち上がった。

「どこに連れて行かれるんだ?」

桜屋敷は静かに言った。

そして加えるかのように一言、


「体育館裏にでも行くか?」


と、言った。


昇一郎は、「ああ、そうしようか」と一言答え、

二人は一緒に、教室を出て行くのだった。

二十話目です。

夏休みです。

それだけです。

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