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第二話 二人の差

今時漫画でもありゃしない登場の仕方で現れた転校生、神ノ山 昇一郎クン。

そんな彼は今、


僕の隣に居ます。


伸介の逆。僕の左隣に。

何でこうなったのか。それを説明するためには、凡そ一分前に戻らなければいけない。


先生がおもむろにこう言った。

「よし。とりあえず学級委員の隣がいいだろ」と。

この瞬間、僕の背筋に冷たい汗が噴出した。

「よし」先生は僕を指差して、

「橘の隣、一個ずつ後ろにずれろ。神ノ山、アイツの隣にそこにある机と椅子持って行け」

「うぃッス!」


という訳で今に至る。

今更ながら、適当な気持ちで学級委員に立候補した自分が憎らしくなる。

僕は神ノ山君の方を見ることが出来ないまま、逆の伸介の方を見た。

「おい、席変わらないか?」

小声で、伸介に話しかけてみる。

が、

ブンッ

と音がしそうな勢いで、伸介は明後日の方向を向いた。

「ちょ、伸介!?お―――」

「おい橘、学級委員が喋ってんなよ」

と、前から先生の声。

「―――あ、すいません」

僕はペコリと頭を下げて、

「よし、罰として後で神ノ山を学校案内してやれ」

もの凄い勢いで上げた。

「え、え!?僕ですか!?」

僕は思わず立ち上がりそうになるのを堪えて、手を顔の前で振った。

と、いうか、罰って先生・・・。

「いやいやいやいや!僕は駄目ですよ!ホラッ!何か・・・、あるじゃないですか!」

「何が?」

「何か・・・、ねぇ!?伸介、なぁ!何で向こう向いてるんだよ!こっち見ろって!なぁ!おい!何で机を遠ざけるんだよ!?」

向こうを向きながら机を遠ざける伸介を見送って、僕はふと、神ノ山君の方を向いた。


・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・。

めっちゃ見てた。



僕の方を、めっちゃ見てた。

腕を胸の前で組んで、眉間に皺を寄せて。神ノ山君が。

そして、おもむろに口を開き、

「何だ、俺を案内するのが嫌なのか?」

と。

「・・・いえ、是非案内させてください」

こう答える以外、僕にどうしろと・・・?




「ここが音楽室で、ここが準備室。ここはいつも鍵が掛かってるから、入れないよ。まぁ入ろうとしないと思うけどね」

僕はこのように頭の中で台詞を考えておいていた。が、実際に口から出たのは、

「ここが音楽室で、ここが準備室です。ここはいつも鍵が掛かっておりますので、入らないようにしてください。あ、入らないとは思いますけれども」

だった。

駄目だ。

タメ口は駄目だ、と、脳が体に信号を送っている。

僕の体はその信号道通りに、まるでホテルマンのような口調で校内の説明をしているのだった。

しかも、当の転校生本人は何も言わずに歩いている。

だから僕は、本当に理解できているのか、それとも僕の口調にいらだっているのか解らず、心の中の葛藤で今にも白髪に大変身して真っ白に燃え尽きてしまう所だ。

が、

「おい」

突然の声。僕は思わず跳ねた。軽く1mくらい。

勿論、声の主は神ノ山君。

「な、何?」

僕はあくまでも「別に怖くなんかないぜ?」を強調した口調で答えた。

が、そんな事どうでもよさ気に、神ノ山君は言った。

「ここの学校の最強は誰だ?」

と。


「はぇ?」


声を漏らしてしまったと気付いたのは、神ノ山君に胸グラをつかまれたからだ。

僕はぐぐっと持ち上げられて、下手したら足が浮きそうだ。

「てめぇ!今『コイツ漫画の見すぎなんじゃねぇの?最強は誰、って、そんなの居るわけないじゃん』って思っただろう!」

「何そのピンポイントな読心術!?違う違う!そんな事思ってないよ!」

言って、僕は床に下ろされた。

カッターシャツを調えながら、「ただ」と言う。

「ああ?」

神ノ山君は不機嫌そうな顔をした。

本当に、神ノ山君が言ったようなことは思っていない。

ただ、

「神ノ山君は、最強の人に会ってどうするの?」

「決まってるだろう!」

神ノ山君は大仰に手を仰いで言った。

「ソイツをぶっ倒して、俺が最強になるんだ!」

と。

けど、僕の表情は多分変わらなかった。

「そう」

とだけ、呟いた。

自分でも冷たいと思えるような声が出た。

「止めたほうがいいよ」

「あぁ!?」

「神ノ山君が思ってるほど、この学校は“簡単”じゃな―――」


言い終わるより先に、僕は胸グラを再びつかまれていた。

さっきより強く。

神ノ山君の顔が、“冗談”じゃない顔になってた。


「テメェ、俺を舐めてんのか?」


冷たい、そんな声を聞く。

だけど、


「舐めてるのか、って?」


多分僕の声の方が、遥かに冷たかったと思う。


刹那―――

僕は神ノ山君の腕を両手で捻って、背中側に回した。


「うぉッ!?」

神ノ山君は予想もしてなかったのだろう。何の抵抗も出来ないまま、廊下に倒れこんだ。

僕は神ノ山君の手を背中側に回したまま、背中を膝で押さえつけた。

「舐めてるのかって?」

さっきと同じ事を、もう一回言う。

「それを言うなら、君の方さ。この学校のこと、何も知らずに来たの?」

僕は手を離して、神ノ山君の手を引いて立たせた。

知らないようだから、と、“この学校”についての説明をする。

「この学校は、将来を担う“総合格闘技”のアスリート達を集めた、“体育会系”のみの学校だよ?空手、柔道、柔術、テコンドー、マーシャルアーツ、バーリ・トゥード、合気道、ボクシング、キック、古武道、相撲、ムエタイ、中国拳法、プロレス、サンボ。細かく上げたらキリが無い程ある格闘技のアスリートを集めたのがこの学校。それを知らずにどう入学してきたかは知らないけど、そんじょそこらの学校で威張ってた様な人が最強を目指せる場所じゃないよ」

「・・・・お前も、何かやってたのか?」

「家が橘護身術って言う、合気道がルーツの道場やってるんだ」

一応免許皆伝でね、とは言わなかった。

「道理で」

神ノ山君は腕を回した。

何故だろう。

その表情は僅かに笑っているように見える。

「何?」

僕は少しそれに腹が立って、冷たい口調で言った。

それでも表情を変えることなく神ノ山君は口を開き、

「いや、実は俺―――――」


「よぉ、テメーか。今日入ってきた転校生ってのは」


言い終わる前に、別の誰かの声にかき消された。

僕はそっちのほうへ向き直って、

「島津・・・」

思わず呟いていた。

声の主は、“島津 一平”。

キック(ボクシング)と柔道とを会得している異色の格闘家。

その後ろには空手の“宮野”と同じく空手の“岸本”が居る。

三人とも一年生で、その中でも上位には入る奴等だ。

「何か俺に用か?」

そっちを向いて、神ノ山君が言った。

「ふはは。話に聞いた通り、スゲェ髪だ。銀か。その髪、刈って坊主にしてやろうか?もっと迫力が出るぜ」

ひゃひゃひゃ、と、何とも品の無い声で三人は笑った。

「言いたいことはそれだけか?」

神ノ山君が拳を握ったのが解った。

が、駄目だ。神ノ山君には一人でも分が悪いのに、三人を相手にするなんて無謀すぎる。

「待とうよ」

僕は三人と神ノ山君の間に体を滑り込ませた。これで神ノ山君は手が出せない。

「彼は今日転校してきたばかりなんだ。そんな急に苛めるのはおかしいだろ?」

僕は言った。これ以上いざこざが増えるのは勘弁して欲しい。

勤めて丁寧に言ったつもりだったのだが、島津にはどうもそうは聞こえなかったらしい。

「何だ橘。いつから俺に命令できるようになったんだ?」

眉間に皺を寄せて、島津は言った。

ただ、僕も馬鹿にされるのは好きじゃない。

「・・・元々、君に諂ってたつもりも無いけどね」

この一言に、島津は切れたらしい。

有無を言わさず、顎に向けて右拳が飛んできた。

「!」

一足飛びで後ろに逃げる。が、僅かに掠った。

キックでも、ボクサーの拳はやはり早い。

「舐めんなボケッ!!」

島津の後ろから宮野と岸本が出てくる。

そして同時に繰り出される、右足のローと左手の正拳突き。

僕は体を捻って正拳突きを"いなして”ローを避けた。

我ながら最高の回避だった。

が、


「!」


体を捻った目の前。

島津が体をねじってパンチの“タメ”を作っていた。

それが見えた瞬間に、“タメ”は終わって“発射”に入っている。

自分は体を捻ったばかり。


避けられない―――――!


僕は思わず目を瞑って覚悟を――――


「・・・・・・・・・・・?」

衝撃が、来なかった。

恐る恐る、ゆっくり、目を開ける、

と、

「うわ!」

目の前には島津の拳。

思わず仰け反った、が、

「・・・?」

その拳が接近してくることは無かった。


何故なら、


「テ、テメェ・・・!」

掴んでいた。

神ノ山君が、

島津の腕を。


「は、離せコラ・・・!」

「へッ!」

瞬間、

神ノ山君が島津の腕を引いた。

「うわッ!?」

島津はバランスを崩しながら神ノ山君の方に倒れこみ、

ドスッ

「ぐぇ・・・ッ!」

同時に島津のボディーに拳がめり込んだ。

「おぐ・・・っ」

膝を突いて、そのまま意識を失った島津。


僕はその一連の流れを、ただ呆然と見つめていた―――

何かコメディーっぽくなくなってきましたが、一応コメディーです。

楽しんでいただければ幸い。

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