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第十八話 保健室

「ったく・・・」

立川先生が不機嫌そうな、困ったような顔をして僕見た。

「何でこんな事になってるの・・・?」と。

立川先生、と言うのはこの学校の保険医をしている女性だ。二十台後半だがその落ち着いた立ち振る舞いから、実年齢よりも高く見える。

ここは保健室の中。我有先輩と鋼器先輩と漸樹先輩は備え付けのベッドの上で眠っている。

先生は我有先輩の体に毛布をかけて、僕の方を見直る。

何で?というのは、勿論我有先輩達の事を指しているのだろう。


が、


「いぇ、あの〜・・・」

説明なんかが出来るはずも無い。

“喧嘩でこうなっちゃいました。テヘ☆”何て軽いノリで済むような話じゃない。

喧嘩をした、という事がバレれば、良くて停学。悪くて退学だ。

ましてや人の事。僕が何か言ってそれが元で退学にでもなったら・・・。

そう思うと、思うように口が回らず、僕は「あの・・・」と「えっと・・・」しか言えなくなり、あたふたと手を動かすしか出来なかった。

先生はそんな僕を見、小さく僕にわからないように溜息をついて、

「君がやったの?」と言った。

「ち、違います!僕じゃありません!」

咄嗟に手と首をブンブンと振って答えた。

すると先生は、

「僕“じゃ”ありません、ね・・・」

と、呟いてもう一度溜息を吐いた。

あ、と口を手で慌てて塞いだときには遅かった。

「喧嘩なのね・・・」

悲しそうな声で言う。

「ごめんなさい・・・」

素直に、というか反射的に僕は謝った。

「まぁ、私が謝ってもらう事でもないしね・・・」

先生はそう言って髪をかきあげた。

もう、と呟いて、

「それで?」と僕を見た。

「はい?」

「誰がやったの?って聞いたの。我有君達をこんなにしちゃうなんて、相当の手誰の仕業よ?」

そうでしょ?ベッドの上で眠っている三人を振り返り、先生は言った。

が、それは違う。と、思う。

この結果はあくまでも我有先輩達が昇一郎との喧嘩で弱っていたからで、多分あのニット帽の実力は我有先輩よりも劣るはずだ。

だから思わず「それは違います」と口に出しそうになった。が、それを言うと今度は昇一郎の喧嘩がバレてしまう。

だから僕は、

「解らないんです」

と、知っている事だけ話した。といっても、情報は皆無に等しいが。

「解らない、って?」

「犯人はニット帽を深く被ってて、顔が確認できなかったんです。それに、僕が行った時には・・・」

そう。と、立川先生はもう一回溜息をついた。

「まったく・・・」

最近の若い子は・・・、と呟く。

そして、

「いいわ」

と先生は言った。

「今回の事は私の胸の中にとどめておいてあげる」と。

「え、じゃあ―――」

「ただし」と、先生は僕の声を遮って付け加えるように言う。

「ただし、次は無いわよ?次は上に報告するから」

ああ、それでもいい。これで我有先輩も昇一郎も罰せられずに済む。

最終的に巡ってくるかもしれない僕への罰の可能性もなくなる。

「あ、ありが――――」


「ありがとうございます」


「え?」

僕の声を遮って、立川先生の向こうから声がした。

立川先生はそっちを振り返って、僕も追ってそっちに目をやる。

「が、我有先輩!」

我有先輩がベッドの上で半身を起こしてこちらを見ていた。

といっても、その状態がやっと、という感じで、顔の所々に痣ができている。

何だろう、

一瞬苛っとした。

「このご恩は決して・・・、クッ・・・」

「あ、ダメよ!まだ寝てないと!」

顔を顰めた我有先輩に駆け寄り、立川先生が我有先輩をベッドに寝かせる。

「すみません・・・」

「いいから、今は休みなさい」

ね?と毛布をかけられ、「はい」と我有先輩は頷いて、

「橘」

と、僕を呼んだ。

「あ、はい」

慌てて我有先輩のベッドの横に駆け寄ると、先輩は先生に、

「席を外していただけますか」

と言った。

「・・・ええ。解ったわ」

先生は少し間を置いて頷いて、それじゃあ、と一言残して保健室から出て行った。


「奴はどこに行った?」

少しして、我有先輩が口を開いた。

奴・・・、昇一郎の事だろう。

「それが・・・、さっき先輩達をここに運んでからすぐに出て行ってしまって・・・」

「解らないのか?」

はい、と僕は頷いた。

「そうか。まぁ、いい。とにかく、言いたい事は一つだ」

言うと、我有先輩は半身を再び起こした。

ダメですよ、と言う僕を右手で制して言う。

「奴には手を出すな」と。

「アイツは俺達が必ず探し出して潰す。だからお前等は何もするな」

いいな?と、我有先輩は僕を睨んだ。

「はい。勿論です」

と、僕は笑顔で答えた。

「よし、アイツにもそう伝えておけ」

話はそれだけだ、と、先輩はベッドに再び横になった。

何かを放すような雰囲気でなく、僕はそのまま保健室を出て行った。



僕は一つ先輩に嘘をついた。

先輩は手を出すな、と言ったが、あの要求を聞き入れるつもりはさらさらなかった。

さっきからずっと、苛々が頭の中で巡り巡っている。

ああ、腹が立つ。あのニット帽。

そもそも僕は喧嘩自体は嫌いじゃない。好きじゃないけど、筋の通った真剣勝負は好きだ。

だからこそ武術を続けているわけだし。

が、弱っている人をこれ見よがしに痛めつけるのはどうも気に食わない。

「絶対に見つけてやる・・・!」

あのニット帽!

僕は保健室に居る先輩に聞こえないように、静かに廊下を駆けた。

テストやら進路云々で何だかんだ2ヶ月も放置してしまいました。すみません。

ともあれ、楽しんで頂ければ幸いです。

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