第十五話 点数表
中間テスト、というものがある。
期末テスト前にある、これも成績にかかわってくる大切なテストだ。
今回行われるテストは、
国語(主に格闘技について)、
数学(格闘技について)、
科学(格闘技について)、
歴史(格闘技の歴史)、
英語(主に格闘技の)。
基本格闘技で埋め尽くされたテスト内容。
これが国で認められているというのだから驚きだ。
あと因みに、実技のテストも設けられる。
筆記に一日を費やし、実技に二日を。
合計三日をかけ、中間テストは終了する。
で、テストは終わった。
筆記も実技も終わった。
テストが帰ってくるのは、三日目の実技が終わってから土、日を挟んで三日目。
つまりは、今日だ。
今日、テストが帰ってくる。
僕等一年生にとっては、クラスメイトの知力がどの程度であるのかを知る初めての機会だ。
特に気になるのは、勿論昇一郎の点数だ。
果たして昇一郎の頭は何並なのか。
僕は朝登校してくる時から楽しみにしていたのだ。
「テメェ!何だコリャ!?」
「ちょ!やめてよ昇一郎!返して!」
ドダダダダダダダダ・・・
一時限目が終わった瞬間、僕は神速のごとき速さで、昇一郎に点数が表記された紙を盗まれた。
僕は逃げている昇一郎を追っているわけだが、所々で瞬歩を駆使する昇一郎とは、差が開く一方だ。
「昇一郎!こんな所でそんな高等テクニックを駆使しないで―――――」
「てめえ!国語89点、数学100点、科学91点、歴史82点、英語97点、って、このワケのワカンネェ点数はなんだァ!?」
「やめて!点数を読上げないで!何してんのさ!?早く返して今すぐ返して!駄目!破っちゃ駄目!かえってお母さんに見せるんだから!カエシテーッ!」
「ゼェ・・・、ハァ・・・」
肩で息を整えて、なんとか奪還(といっても、昇一郎が飽きて返しただけだけど)に成功した点数表を握り締める。
「隆平、テメェ実は頭いいんだな?」
腕組をした態勢で、なんか凄い形相で昇一郎は言った。
「そ、そんな事ないよ・・・。普通だよ、普通」
もう盗まれないように、と、シュバァ!と風を切ってポケットの中に紙を突っ込んで、僕は横に首を振った。
それよりも、と。
「それよりも、昇一郎はどうだったのさ?」
「あん?俺?」
何とか話題の切り替えには成功。
昇一郎はあからさまに顔をゆがめている。
「別に、俺のはいいだろ・・・」
「良くはないでょ!人の点数オオヤケに公開しておいて!ほら!見せてよ!早く!こっちによこしなさい!ミセナサイって!」
誰が見せるか!と、昇一郎は一歩後退した。
そんな昇一郎を見て、
今ならいける。
僕は確信した。
今なら、昇一郎からあの点数表を奪取できると。
なぜなら今昇一郎は体に錘をつけているはずだから。その状態の昇一郎を、僕は前に一回制した事もある(第2話参照)。
だから、奪取するなら今!別にそんなに見たいわけじゃないけど、ここまできたら意地だ!
「力ずくでも取りに行くからね!」
僕は先に宣言した。
「ああ!?テメェ俺から取れるとでも思って――――」
今だ!と、僕は床を蹴った。
昇一郎が言い終わる前。喋っている間は誰しも油断しているものだ。
そこを狙った。
素早く昇一郎の右腕を掴む。そこから背中側に腕を回して間接を極めたい。
そうすれば、さしもの昇一郎でも簡単には身動きは取れないはずだ。一応僕は免許皆伝だし。
「シッ!」
腕を取ったまま、滑り込むようにして昇一郎の背中に回りこむ。
ここで上手く捻り上げれば!
僕は昇一郎の腕を掴む手に力を込め――――
「ぁれッ!?」
――――れなかった。
ぐぐ・・・
昇一郎の腕が、動かない。
寸分も、動かない。
「くっくっく・・・」
甘ぇぜ・・・。昇一郎は笑った。
まさか・・・?
「この俺が、“こんな事”も予想していなかったとでも思ってたのか?」
まさか・・・、
「俺はコレでも用意周到なんだぜ?」
錘を!?
外していたのか、と頭で理解した瞬間には、僕の足は床から離れていた。
「あ、ぁえッ!?」
昇一郎の腕に掴まったまま、言わば、“父親の腕に掴まったままブラーンってなる子供”みたいな構図になってしまう。
「くかかッ!」
腕を上に掲げるような体勢にまで、昇一郎は腕を伸ばした。
そして、
フォンッ
風が唸った。
「わああッ!?」
同時に、僕の見ていた風景が一気に上に流れていく。
昇一郎が腕を振り下ろしたのだ。
ジェットコースターよろしく、床がとんでもないスピードで近づいてくる。
「くぅッ!」
何とか体勢を立て直して、片足で着地してそのまま一足飛びで後ろに飛び退く。
なんとか着地は出来たものの、全体重を受け流す事はできず、片足にかなりの負荷が掛かった。
「ハッ、耐えやがったか!」
昇一郎は構えなおす。
「流石!」
僕は笑って見せた。が、
笑ってはいるが、もう余裕は無い。次の攻撃は確実に避けれない。
こんな、実践さながらの攻防の目的が、点数表の奪還だと言うのだから泣けてくる。
もういい加減諦めようか。
こんな事で怪我したら馬鹿馬鹿しいだけだ。
そんな事を考えていたから、
「国語(68点)、数学(72点)・・・。至って普通だな」
え?
後ろから声がしたとき、少なからずびっくりした。
「この声は・・・」
僕が振り返った先、
そこには、髪の長い“大和撫子”の体現が立っていた。
「美冬先輩!」
やぁ、と、先輩は軽く手をあげた。
その上げた手には、一枚の紙が握られている。
「ぅをいッ!それ俺の点数表ッッ!!」
昇一郎が声を上げた。
それに対し、美冬先輩は冷静に、
「普通こういう場合は、点数が異様に高いか低いかって、相場は決まってるんだがな」
言いながら、首を振って僕に点数表を渡す。
「ほら」と美冬先輩。
「あ、どうも・・・」と僕。
「どうもじゃねぇよッ!」と昇一郎。
バンッ
と、昇一郎のほうで音がしたと思ったら、僕の手元から紙は消えていた。
昇一郎が瞬歩で移動して、僕の手元から紙を奪い返していたのだ。
「あ!」
結局全く見れなかった。解るのは、先輩が言った国語、数学の点数。
何とも絡みにくい点数だった。先輩の言ったとおり、普通こういう場合は点数は極端に高いか低いかしないと成り立たない。
だからまぁ、見なくても良かったかと思う。
「で?」と、不意に昇一郎が言った。
紙をビリビリに破りながら、美冬先輩をにらみつける。
「何の用なんだ?」
と、口から発せられる声はとても冷たい。
「そんな邪険にしないでくれよ。別に君達に喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ」
そう言って、美冬先輩は笑った。
楽しそうに。
これが、きっかけで、僕と昇一郎は出会う事になる。
ここから先、僕等とかかわってくる事になる、“転校生”に。
最近パソコンがウィルスにやられてしまいました。
自分のパソコンでは小説の投稿どころか保存すらできません。
報告としては、一話〜八話までの本文の多少の修正を行いました。
それから、僕が書いた「とっておきの唄」という、Bump of Chickenというバンドの歌がモチーフの小説が読者の方の納得のいかない内容であったようなので削除しておきました。あの小説を読んで気分を害された方には、深くお詫び申し上げます。
ともあれ、この作品は楽しんでいただければ幸いです。