第十一話 本戦へ
はっきり言える。
漸樹先輩。
鋼器先輩。
この二人は、僕等の学校の生徒から見れば、もはや“伝説”とも言える存在だ。
カツアゲ集団を十秒掛からずに倒してみせた、とか、そういった武勇伝を挙げようと思ったら一つや二つじゃきかないだろう。
そんな二人だ。
だから、エジソンとか、織田信長とか、そういった一般で知られる“偉人”達よりも、この二人のほうが僕等にしてみたらよっぽど偉人だった。
その実力は、さっきまでの戦闘を見ていても明らかだった。
明らかに、常人のそれを遥かに超えた力を見せつけていた。
現に、その力の昇一郎も圧倒されていた。
されていたはずだった。
なのに、
「ぐふ・・・ッ!」
「がは・・・ッ!」
どういうことだ?
二人は地面に倒れこみ、昇一郎を見上げている。
「ハッ!」
昇一郎も、それを笑いながら見下ろしていた。
さっき、鋼器先輩の羽交い絞めから逃れたとき、あそこから、昇一郎は二人を圧倒していた。
さっきやられていた人物とは、もはや別人にすら見えてくる。
漸樹先輩の連打を避け、鋼器先輩の瞬歩からの体当たりを受け止めて見せ、そしてその二人の技をそのまま返している。
しかもその二人の技のキレは、僕が見てもハッキリ解るほど凄いものだった。
恐らく、使っている本人達以上のもの。
元から持っていたのか、それとも今見てまねたのか。
いずれにせよ、実力の差は歴然だった。
「ぐふっ・・・!」
鋼器先輩が立ち上がった。
構えを取る、と同時に、
ザンッ
地を蹴って瞬歩。昇一郎との距離を一瞬で縮める。
が、
「ハハッ!」
昇一郎に体当たりを決めて見せたと思った瞬間、昇一郎も瞬歩をし、鋼器先輩の横に移動している。
瞬歩と言うのは、瞬間的に足を使って移動する短距離移動に用いる移動法だ。
だから、双方が瞬歩を使え、更に片側に瞬歩を見極める洞察力さえあれば、瞬歩は先に使ったほうが明らかに不利になる。
今のように瞬歩を瞬歩で避けられ、さらに隙だらけの急所に打撃を食らわされる事になるのだ。
が、
今、昇一郎は鋼器先輩に攻撃を食らわせることはしなかった。
鋼器先輩の瞬歩からの体当たりをかわし、そのまま何もしずに先輩を見て笑っている。
「貴様・・・ッ!」
いつの間にか昇一郎の後ろに回り込んでいた漸樹先輩が、昇一郎に向かって連打を浴びせる。
しかし、先のような、鞭で何かを叩くような男が鳴る事は無く、やはりその連打も昇一郎は避けていた。
体当たり、連打、体当たり、連打。
その打撃の押収を、昇一郎は綺麗にかわしてのけた。
焦るでもなく、常に笑いを浮かべたまま。
余裕すら感じる昇一郎の顔に、僕は確信した。
無理だ。
と。
あの二人に昇一郎を倒すことは、無理だ。
勝てない。何をしても。
羽交い絞めにしようが、連打をあびせようが、瞬歩をしようが、あの二人では勝てない。
その事を、先輩達もわかっている気がした。
それを解らせるために、昇一郎はあえて攻撃を加える事無く、向こうの攻撃をかわしているのではないか。
そんな事さえ思う。
しかし、尚を二人は食い下がろうとしている。
避けられ、回り込まれ、それでも尚食い下がる。
伝説の双子が、ボロボロになっても食い下がっている。
「もういい」
口を開いたのは、我有先輩。
視線をそっちへやると、我有先輩はさっきまで体を預けていた体育館から体を離し、ただ昇一郎を睨みつけている。
「朝彦様・・・」
漸樹先輩と鋼器先輩も攻撃をやめ、昇一郎も我有先輩の方を見ている。
「悪かったな」
と、我有先輩が言う。
「アイツの実力を測り損ねた俺のミスだ」
「いえ・・・」
「ぐふ・・・」
漸樹、鋼器先輩が頭を下げ、体育館に歩いていく。
「何だ?もう終わりか?」
言いながら、昇一郎は笑ってみせる。
我有先輩はキッ、と昇一郎を睨みつける。
ハッキリ言って、その睨みは怖い。そこら辺の「メンチ」とか、「ガン」とか、そういう形容じゃ収まらないような、「威圧」。
「安心しろ」
我有先輩は昇一郎に向き直る。
「今度は―――」
パシッ
「―――俺が相手してやる」
声は、昇一郎の後ろから。
「!?」
昇一郎ははじかれるように後ろを振り返る。
喋っている途中で、ノーモーションで昇一郎の後ろへ回り込んだ。
明らかに、鋼器先輩の瞬歩よりも早い。
「上、等だよ・・・!」
ニヤリ、と、昇一郎が笑う。
昇一郎VS我有先輩。
とうとう本戦へ。
僕は二人を見つめながら、直そうと思って弄ってた昇一郎のパワーアンクルが壊れてしまってどうしようかなって思ってました。
全話より一ヶ月かかってようやく更新できました。
ネットに繫がりにくかったり色々あったりで遅くなってしまいました。
次回からは早い更新を心がけようと思います。
僕がこのサイトで初めて登校させていただいた『不思議な話』の中身を少し書き換えましたので、お暇だったら目を通していただけると幸いです。