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第九話 スピード型

「来いよ」

笑って、昇一郎が言った。

楽しんでるな、と、一目で解る顔だった。今にも声を上げて笑い出しそうな。

別に昇一郎に答えたわけではないだろうが、ざッ・・・、と地面を踏み、漸樹、鋼器先輩が二手に分かれる。

二手に、というか、昇一郎の前方に左右に分かれて立っている、という形。

「何だ、やっぱり二人いっぺんか?」

皮肉じみた声で昇一郎が笑う。さっきから見てれば解ったろうに、敢えて挑発しているのか、それとも本当に解ってなかったのか。

「なに、我等双子、二人でやった方が何でも早く住むでな。それとも、何か。二人同時は怖いか?」

布で顔下を隠しながら、漸樹先輩も返す。

布で隠れていて見えないが、こちらも皮肉じみた笑いを浮かべているのだろう。そう思う。

「グフ」

こちらは布で顔の上半分を隠している鋼器先輩。

この人は常に笑っているから、そこから感情を読み取ることが難しい。

ともかく解る事は、2対1では明らかに昇一郎が不利だという事。しかも向こうの出方が解らない以上、昇一郎側から仕掛けるのもまた難しい。

そんな事を考えながら、未だ睨みあったままの三人を見る。

と、昇一郎がこちらを見た。

「心配か、隆平。俺様が不利なんじゃないかと」

「いや、心配っていうか・・・」

「安心しろ。奴等の出方は解ってる」

自信満々な顔で、昇一郎は再び二人の方に見直った。

「いいか隆平。奴等の片方はスピード重視、そしてもう片方がパワー重視だ」

二人を指差して、したり顔で昇一郎は笑った。

あの自信は、並じゃない・・・。

「い、いつの間にそんな情報を・・・!?」

僕は唾を飲み込み、呟いた。そんな情報は、僕でも知らない。

と、昇一郎はしたり顔のまま、やはり自信満々に言ってのけた。


「漫画でこういうシチュエーションの場合、ほぼそうだろうッ!!」


「情報源漫画!?」

僕はさっき飲み込んだ唾が逆流するのを感じた。

ダメだ!コイツ馬鹿すぎる!!

うな垂れて、昇一郎が本当に勝てるのかとか云々考えるのを辞めた。

が、

「まぁ、遠からずってところだな・・・」

我有先輩は呟いた。

僕は高速で頭を上げる。

「遠からず!?じゃあもう決まったも同然じゃないか!」

二人の容姿を見て、僕は叫んだ。

漸樹先輩は痩せ型。鋼器先輩は筋肉型。

昇一郎の言うとおりスピードとパワーだと言うなら、どちらがどっちかはもう予想がつく。

どうだ言ったとおりだろう!という輝く目線を送ってくる昇一郎はスルーして、僕は先輩達を見た。

二人は自分達の型を明かされたにも関わらず、眉一つ動かさない――といっても、鋼器先輩は眉が見えない――。

それほど自信があるのだろうか?

そう思っていたとき、


「行け」


我有先輩の冷たい声がした。


瞬間、


ザッ


僕は見た。


地を蹴る先輩の速さを。

蹴った次の瞬間に、先輩は昇一郎の懐に入っていた。

そして次の瞬間には、


バキィイッ―――


衝突音と共に、こちらに目線を送っていた昇一郎は僕の隣にまで吹っ飛んできていた。

「し、昇一郎!!」

壁にぶつかり、倒れこむ昇一郎。

しかし僕は、それとは違う方に目が言っていた。

昇一郎を吹っ飛ばした人。

その人を見る。

その人は笑みを浮べ、こちらを見ていた。


「鋼器・・・、先輩・・・」


あの一瞬で移動し、昇一郎を一瞬にして吹っ飛ばしたのは、僕の予想を覆して鋼器先輩だった。

「まさか・・・、鋼器先輩がスピード型なんて・・・」

思わず呟いてしまう。想像とは全く違った展開になってしまった。

「驚いたか?」

と、声を掛けてきたのは体育館側にもたれかかっている我有先輩。

こちらを見る事なく、続けて言う。

「まぁ、お前等はこいつ等の体格から色々と予想したらしいが、よくよく考えてみれば解る事だ」

まるで自分の事を自慢するかのように、得意げに先輩は語り始めた。

「はっきり言って、長距離のスピードは明らかに漸樹の方が上だ。が、短距離となればそれは違う。鋼器の爆発的な筋力で持ってすれば、先のそこで倒れてる奴との距離程度、ほんの一瞬で動ける。それは今見せたとおりだ。しかし、スピード型、という形容は違う。パワーの部分と括りをつけるなら、それも当然鋼器の方が漸樹を遥かに上回る。つまり鋼器はスピード型兼パワー型と形容する方が適当だろうな」

話終えて、我有先輩はようやくこちらを見た。

いや、こちら、と言うより、僕を。

「それで?次はお前が続きをやるのか、隆平?」

目と目が交錯する。

瞬間、体が硬直して動かなくなった。蛇に睨まれた蛙。その形容がまさしく似合っている。


「おい、そういう話は俺をどうにかしてからにしてくれ」


と、不意な声は僕の横から。

そちらを見ると、いつの間に回復したのか、昇一郎がケロっ、とした顔で立っていた。

「やっぱ、コイツをつけたままじゃキツイわな」

言って、昇一郎は何かを掲げた。

「・・・って、それ、パワーアンクル!?」

それは島津の時にもつけていた、あの極重のパワーアンクル。

それをまとめて右手に持ち、昇一郎は左腕を回した。

「ああかりぃ。隆平、これ持ってろ」

ひょい、と、昇一郎はパワーアンクルを僕に向かって放った。

勿論、それはスルーして地面に落とす。こんなものをまともに受け止めたら、腕が外れてしまう。

ドズン、と音を立ててパワーアンクルが落ちる。が、そんな事も気にせず、

「さて」

と、昇一郎は一歩前に出る。

「長々と説明をありがとうセンパイ。でもな―――」

ビシッ、と我有センパイを指差す。

そして、

「―――俺はそんな事最初から気付いていた!!」

言い放った。

「嘘だ!絶対嘘だね!さっき漫画が云々って言ってた――――」

―――じゃない!という声は飲み込んだ。

いやに、昇一郎の顔が真剣だった。ギャグの雰囲気じゃなかった。

あれ・・・?嘘、じゃない・・・?

すこし困惑する僕なんか目もくれず、

「昨日、アンタ階段から落ちそうになった女を助けただろ」

アンタ、と昇一郎は鋼器先輩を指差した。

「グフ」頷く先輩。

「あの時、アンタ廊下に居たのに瞬間的に俺の横に移動した。だから解ったんだよ、アンタがスピード型だってな」

「グフ!」

あ〜!なるほど!といった感じで、鋼器先輩は手を叩いた。

「なるほど?お前の分析力云々は理解した。だが、解ったからといって、ましてそんな錘を外したからといって、我等二人に適うと言うのは違うだろう?」

言う漸樹先輩に、昇一郎は笑って見せた。

「ああ」と。

「だから、違うって事が違わないって事を証明してやるよ」と。

自分で何を言ってるのか解らなくなっただろう言葉を発して、昇一郎は構えた。

どうやら、まだ僕は帰れないらしいと感じ、僕は地面に落ちたパワーアンクルが壊れたがばれるのが先延ばしになると安堵した。

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