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第一話 転校生

転校生が来る。

それは大体一週間前くらいから知らされていた。

高校で転校とは珍しい事だが、まぁ、来てしまうのは仕方が無い。

だからこそ1−Aの生徒達は浮かれていたし、受け入れるムードは完璧だった。

男だろうか?

女だろうか?

先生の粋な計らいかどうかは知らないが、それは教えられていなかった。

それ故に先生と共に現れるのであろう転校生を、早く見たくて皆仕方が無く、

それは、ここに居る“橘 隆平”事、僕にも言えることだった。

「なぁ、隆平!」

僕の隣の席、“三ノ輪 伸介”が体を乗り出してくる。

「何だよ?」

「男かな?女かな?」

伸介のテンションはもはやMAXを遥かに超えて大気圏を突破。今や衛星となって地球の周りをグルグル回っている。もはや回収は不可能。

こうなった伸介のテンションを抑えられるのは無理。

だが、僕はため息混じりに言う。

「お前、さっきからそれ、毎分一回の割合で言ってるぞ?」と。

そうさ。

さっきからずっと、もうそれはそれはずっと、僕は同じ言葉を聞き続けている。

最初の一回は許せた。二回目も隆平のテンションの具合からしても大丈夫だった。三回目から少し鬱陶しくなってきた。四回目で顔をしかめ始めた。五回目でビンタをした。六回目で腹にパンチした。七回目でアッパーカットを顎にヒットさせた。八回目で喉を突いた。

そして今回九回目。もうボロボロになった伸介に、僕は手を出す気にもなれない。

「黙って待ってろよ。その内来るのは間違いないんだから」

「何でお前そんなにテンション低いんだよ!?」

「お前に合わせてたら、多分僕は僕じゃなくなっちゃう」

言いながら、僕は一時限目の教科書をカバンから引っ張り出して引き出しに突っ込む。引き出しの中でプリント類がぐっちゃぐちゃになっている音がしたが、気にしない。

プリント達の悲鳴ともとれるぐちゃぐちゃ音を聞きつつ、ふと時計に目をやった。

もうそろそろチャイムが鳴るころだ。そしたら先生も来るだろう。つまりは転校生も来るということだ。

そう考えたら、少しながら、やはりテンションが上がってきた。

女の子だったらいいな。とか考える。

別に男でもいいけど、最初は話しかけ辛いだろうな。まぁ、伸介なら大丈夫だろう。

そんなことを考えているうちに、


キーンコーンカーンコーン・・・


チャイムが鳴った。

「お!?来るんじゃね!?来るんじゃねッ!?」

「うるさいな。待ってろ」

言いながらも、少し僕の語調も高くなる。

やはり少しは期待してしまうのだ。

先生が来るのを待ってる時間がこんなに待ち遠しかった事など、恐らく今までなかっただろう。

気付けは、いつもはまだ教室中にはびこっている生徒達も、今日はすでに席について先生――否。本当は転校生――を待っている。

そして遂に、


ガラガラガラ・・・


静寂の中に、扉を開ける音が響いた。

『おぉ・・・』

声が漏れる。

入ってきたのは先生だけで、どうやら転校生は廊下で待っているらしい。

先生は教壇の上に立って、

「えぇ〜、おはよう」

と言った。

『おはようございま〜す』

いつもは無視する先生の挨拶も、今日は積極的に生徒全員で返事をする。

全員の顔がにこやかに見えるのも、決して気のせいじゃないだろう。

予期せぬところでの生徒達の一致団結にも冷静に対処して、

「まぁ」と、先生は廊下の方を見る。

「長々と話をして転校生を廊下に待たせるのは酷だからな。早速入ってもらうとしよう」

その言葉に、生徒達のテンションはピーク。

が、

「しかし」と、先生は付け足す。

「いいか?」と。


「絶対に、驚くなよ?」と。


どういうことだろう?

誰もが首を傾げた。

勿論、それは僕も同じ。

伸介と顔を見合わせたが、「スゲェ可愛い、とかじゃねぇ?」とかいう考えしか出てこなかった。

故にテンションは維持してそのまま続行。

すでに迎え入れムード全開の生徒達を見て、先生はうなずいた。

「解った」と。

「それじゃあ、入ってきてくれ」

言って、先生は廊下側に向かって手招きをした。その時の先生の渋い顔を、僕はずっと忘れない。


瞬間――――


「おぉぅりゃぁああああああああッ!」

ドバチゴーーーンッ


扉が怪音と共に吹っ飛ぶのと同時に、怒声(?)と共に教室に飛び込んできたのは、一人の男。

その男の風貌に、生徒達は驚愕する。

髪は逆立ち、色は銀。一昔前に流行った長ランを羽織り、背中には“けんか上等!(けんかは平仮名)”を背負ってる。

身長は180後半はあろうかという長身に、格闘技かなにかやってるですか?と尋ねたくなるガタイ。

男は、蹴っ飛ばして吹っ飛んだ扉をキチンと元に戻し、

息を吸って、


叫んだ。


「テメェラアァアアアアアアッ!」


と。


「俺は今日からこのクラスに世話になる“神ノ山 昇一郎”様だッ!俺がこの学校に来たからには、この学校を全部俺の支配下に置いてやる!いいか!これからお前等は俺の下僕だぁああああああッ!」

男はそう吼え、

「ゲッホゲッホ!」

大声の出しすぎで、むせた。


これが、僕と男の出会い。

今時こんな出会いかよ、と突っ込まれかねない、

これが僕、隆平と昇一郎の出会い。

こんな転校生やだな。

という感じで、続きます。

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