本当のキス
今回、何か、色々と危なくなってしまいましたww
ついに、今日は演劇会だ。
教室では、慌しい声が飛びかっている。
私も、拳を握り締めて、よしっと渇を入れる。
すると、頭にふわっと温かい手が乗っかる。
「気合十分だな」
「悠斗っっ!当然じゃないっ!今まで、どれだけ頑張ったことか…」
「腹筋とかな…ぷっ」
悠斗は、おなかを抱えて笑い出す。
私は、頬を膨らませる。
「しょうがないじゃん!!あたしだってか弱い女の子なんだからっ。腹筋100回とか無理なのよ。麗子ちゃんと同類なの!私は」
私は、頭の中で、麗子ちゃんが浮かぶ。
「何で、そこで麗子が出てくるんだよ…」
「い、いや。麗子ちゃんっていかにも、女の子って感じじゃない?」
悠斗は少し考えて、目を開く。
「そう?まあ、女だしな。」
「だよねー」
私は微笑を浮かべた。
すると、教卓にいた、麗子ちゃんは、大きな声で叫ぶ。
「もう9時なので、体育館へ向かってください!!」
前までは、内気な麗子ちゃんも、いつの間にか堂々とした素振りができるようになっていた。
これも、全て悠斗の影響なのかもしれない。
「じゃ、行こうっ。悠斗のウサギ早くみたーい」
「うああああ。もうやだー」
悠斗は頭を抱えて嘆きだす。
そして、顔を見合わせてフッと笑った。
悠斗と喋っていて緊張は少しずつ解けていった。
「では、不思議の国のアリスの皆さんは、裏で待っててください」
演劇会の実行委員が、私達を誘導する。
クラスの皆は、朝のざわめきは無く、静寂に満ちていた。
緊張の雰囲気が漂っている。
私は、綺麗なアリスの服を握り締めた。
今まで必死に覚えてきたセリフを頭の中で整理する。
すると、不意に右手に温かい感触がする。
「頑張ろう」
見上げると、悠斗は真剣な顔をして、ステージへの入り口を見つめていた。
そして、私の手をしっかりと握って。
私も握り返す。
「うん」
私も、ステージへの入り口に視線を向ける。
向こう側では、声援が聞こえてくる。
前のクラスは蓮と悠樹のクラスだった。
蓮の、低い声が聞こえてくる。
聞いているだけで、演技が上手いことが分かる。
会場からキャーとか聞こえてくるし、相当かっこいいんだろうな。
少し見れなくて残念な気持ちになる。
すると、いきなり、キャーという声が大きくなり、拍手も聞こえてくる。
ついに…。
すると、実行委員がステージのカーテンをあけた。
ぞろぞろと前のクラスの人達が入ってくる。
すると、そこには、王子の服を着た蓮がいた。
蓮と目が合い、私はドキッとする。
すれ違い、蓮は私の頭を少し撫でて、すぐに外へ出て行ってしまった。
ポーッと私は頬が赤くなる。
「顔赤い」
悠斗は、少しイラついた顔でこちらを見る。
「そ、そんな事ないよ…」
スーテジから、不思議の国のアリスの前説が聞こえる。
すると、麗子ちゃんが不意に悠斗に話しかけた。
「悠斗君。これが終わったら、話があるので、2階の階段の踊り場に来てください。」
麗子ちゃんはいつもとは少し違う顔勇気の溢れた顔で呟いた。
悠斗は不思議そうに思いながらも頷いた。
告白…かな。
私は複雑な気持ちを抱えながら、ステージへ乗り出した。
「ありがとうございましたっ」
無事、演劇も終わり、クラス一同で礼をする。
裏に戻り、皆は一息つく。
悠斗も笑顔で私の頭を撫でた。
「上手かったよ」
「…ありがと」
少し、照れ笑いをする。
裏では、蓮と悠樹が待っていた。
すると、私を見つけたなり、2人は寄ってくる。
「お前、上手かったな~」
悠樹も、私の頭をクシャクシャとする。
「似合ってたよ。アリス」
蓮も私の微笑みかける。
「へへ…」
悠斗は、いつの間にか、その場からいなくなっていた。
トイレかな…?
すると、大きな声を出したせいか、喉がむせる。
「ゴホッ」
「おい、大丈夫か?」
悠樹は、私の背中を摩る。
「うん…ちょっとのどが乾いちゃった。教室にお茶があったから、飲んでくるね」
「おう。俺達、会場に戻るから」
「うんっ私も後で行く」
私は、駆け走っていく。
すると、誰も居ない校舎に違和感を感じた。
階段のある曲がり角に差し掛かったとき、不意に人の声が聞こえた。
私は、途端に、さっきの麗子ちゃんの言葉を思い出した。
悠斗の声が微かに聞こえる。
2階の踊り場で2人は話していた。
私は、壁に咄嗟に隠れてしまう。
…何隠れてんのよ…。盗み聞きみたいじゃん!!
自分にツッコミをしてみるけど、そこから動けなかった。
壁に這いつくばって、私は、耳を寄せた。
微かに聞こえてくる会話は、驚きのものだった。
『前から…好きでした』
麗子ちゃんの声が、小さく聞こえる。
『俺…好きな子いるから…ごめん』
悠斗は、沈んだ声で呟く。
好きな子…?
『もしかして…里香ちゃん…ですか』
!?
『…分かってたんだ』
驚きの会話に私は声を漏らしてしまう。
「…あっ」
私はバッと口を噤む。
すると、多分、悠斗の階段を降りる足音が聞こえてくる。
どうしよう…!!
私は、その場から走り出す。
すると、悠斗はそれに気付き、バッと顔を覗かせる。
「里香…っ!!」
悠斗は私を追いかけてくる。
乾いた喉が悲鳴を上げる。
「う…」
一気に中庭まで走った私の息は荒々しく呼吸をしていた。
草木の陰に隠れると、悠斗が私を探す声が聞こえてきた。
「来ないで…!!」
私は必死に祈る。
あんな会話を聞いて、普段どおり話せるわけがない。
でも、そんな願いは叶わず、悠斗の手が私を後ろから抱きしめた。
「悠斗…っ」
私は必死に抵抗する。
だけど悠斗の力は増していくばかりで。
座り込んだ私は、悠斗の体に全てまかす形で座って居た。
「…お願い」
耳元で、低い悠斗の声が囁く。
私は、今にも泣き出しそうで顔を手で覆う。
「兄さんとか、蓮に奪われたくない。俺だけのモノになって」
悠斗の荒い息が私の首元にかかる。
悠斗の漆黒の深い藍色の目が私を見つめる。
不器用に眉を寄せて、胸の痛みに、瞳を細めながら。
「俺…」
「…」
悠斗の手は、ギュッと私の手を握り締めた。
悠斗の手からは、緊張が受け取れた。
ドクッと鼓動が高鳴るのが分かる。
指先を絡めて。
甘い切なさが、私の胸を苦しめる。
弱ったように、眉を下げる彼の頬は微かに赤かった。
「…会った時から」
「…え?」
「里香は特別の女の子だったよ」
優しい言葉に私は泣きそうになるのをグッと抑えた。
「兄さんぐらい長い付き合いじゃないけど、今まで会った、どんな女の子よりも特別。当然麗子より」
麗子よりって言葉に私は目を見開く。
頬が熱くなっていく。
男の子に、そんな事言われたのは初めてで。
不意に、悠斗は手を伸ばす。
さらに、彼に体を寄せられる。
ぎゅっと力強く抱きしめられている。
好きって言われている事を改めて感じた。
少し恥ずかしそうにしている、悠斗の顔が目の前にあった。
彼らしくない緊張したような目。
何かを欲しがるように、私を切なげな眼差しで見る。
「里香…」
悠斗の口が目の前で動く。
真剣な空気に呑まれて、私も息を震わせた。
鼓動が早鐘みたいだ。
私は、自分を現実に引き戻すかのように口を開く。
「…何?」
逃げ出したくなるほど、緊張しているのに、悠斗の目から逃れられない。
悠斗と絡めている指が熱い。
「俺は…里香が…」
「里香の事が…」
ためらうかのように、言い直す。
「好き」
直球の言葉に、私は心を震わせる。
悠斗の甘い顔が私の目の前にあって。
今、私は好きって言われてる。
すると、悠斗は、不意に自分の手で目を覆う。
「あー…もう。何だよー…俺。今まで、キスぐらい簡単に出来る奴だったのに」
参った様に、笑う悠斗は、切なくて。
私は、無意識に、自分から、悠斗の頬を手で撫でていた。
すると、悠斗は微笑んで、私の手を掴む。
悠斗の頬を撫でる手に重なった悠斗の手。
「他の女の子なら…キス。普通に出来たの?」
悠斗は、その質問に戸惑いを見せながらも頷いた。
「出来た。馬鹿だろ?女遊びばっかしてたんだぜ?俺」
悠斗は、自分の寂しさを紛らわすかのように、女の子達と遊んできたんだ。
キスしたり…肌を合わせたり…
そんな悠斗が、儚げで、私が守ってあげたくなった。
すると、悠斗は、私の手を掴む力を強めて、
顔を近づける。
甘い吐息が、重なり合う。
唇が触れ合って、私の力は抜けていた。
「…んっ…」
息が続かなくて、私は甘い声を出してしまう。
すると、悠斗はバッと唇を離して、
「ごめん。キツかった?最初からベロチューはキツいよな。ごめんごめん」
さっき、口の中に入っていたのは、悠斗の舌…。
私は一気に顔が熱くなる。
苦しかったけど…少し心地よかった。
「悠斗…もう一回」
「…え?」
悠斗は、目を見開く。
私も、自分で何を言っているのか分からなくなった。
今という時間が、すごく大切に思えて。
もっと、悠斗と触れ合いたいって思ってしまった。
こんな私…ダメかな。
すると、悠斗は、私をコンクリートの上に押し倒す。
「やっべ…俺、抑えられないかも」
「…抑えなくて良い…よ」
悠斗は、苦しそうな顔をしながら微笑んだ。
「ダメ」
「…なんで?」
「里香は、抑えられないっていう意味分かってない」
「分かってるよ」
「それに、ココ学校」
…。
悠斗は、諦めたのかのように、もう一回軽いキスだけして、立ち上がった。
すると、悠斗は、前を向き、顔をしかめた。
「ん…」
私も立ち上がった。
すると、悠斗の視線の先に。
蓮と悠樹がいた。
悠樹はこっちに向かってくるなり、悠斗の胸倉を掴んだ。
「何だよ…」
悠斗は、嘲笑うような顔で悠樹を睨む。
「お前…里香に…女遊びに里香まで巻き込むな!!!!」
今まで見たことも無いような悠樹。
鋭い目つき。
蓮もその後ろで、厳つい顔をして、私を見ていた。
私は咄嗟に叫ぶ。
「悠斗は、何も悪くないよ…!!!」
「里香…」
悠樹は、悠斗の胸倉を掴んだ手を離した。
「私…悠斗の気持ちに答えたい」
悠斗の方に向きかえり、私は真剣な目つきで言った。
「里香…」
「私…悠斗が好きって言ってくれて、嬉しかったの…」
蓮は、悠斗を見て、呟いた。
「遊びじゃないのか?」
悠斗は真剣な眼差しで頷いた。
「里香が、本気で悠斗が好きなら、何も言わない」
「蓮っ良いのかよ!!お前だって…」
悠樹の言葉を蓮は遮る。
「俺達が、悪いんだよ」
会話がよく分からなくなって私は首を傾げる。
悠樹は、壁をガンッと蹴る。
そして、私に目線を向けて、
「勝手にしろよ」
と言い残して、去っていった。
すごく複雑だった。
私は、何か、悠樹と蓮の気持ちを踏みにじってめちゃめちゃにしたような気がした。
すると、悠斗は空虚の果てに呟いた。
「俺。何を言われようとお前を手放す事できないから」
その真剣な気持ちのこもった言葉に私は静かに涙を流した。